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オンライン授業で先生とよい関係をつくるには? #1 ―「理想の学生像」についての研究から考える

みなさまこんにちは。
岸 志帆莉です。

前回の記事で、オンライン授業で友達を作るためのポイントを6つお話ししました。

今日は、先生方との関係づくりについて考えてみたいと思います。

対面の場合はもちろんですが、オンラインで授業を受けるときも、先生方との関係はやっぱり重要です。

とくに修士課程以上では、先生方との関わりが学部時代よりずっと濃くなります。ゼミ形式の授業が増えますし、修士論文ではひとりの先生から長い間こまかく指導を受けることになります。クラスメイトとの関係はもちろんですが、先生方ともよい関係を構築することができれば、普段の授業がずっと楽しくなりそうですね。

では、先生方とよい関係を築くためにはどうすればよいでしょうか。

実は、それを考えるうえで参考となるおもしろい研究があるので、ちょっとご紹介させてください。

イギリスのレディング大学の研究者たちが、「理想的な学生の条件はなにか」というテーマで過去に研究を行っています。*1

それによると、先生方からみた「理想的な学生」は、次の8つの特性をもっていることが分かりました。

【理想的な学生の八つの条件】 
① 勤勉さ・熱意 (Diligence and Engagement)
② 内省とイノベーション(Reflection and Innovation)
③ 自己規律・信頼(Organization and Discipline)
④ アカデミックスキル(Academic skills)
⑤ 協力姿勢・協調性(Supportive of others)
⑥ 自信と前向きさ(Positive and Confident outlook)
⑦ 社会的スキル(Employability skills)
⑧ 知性・戦略性(Intelligence and Strategic approach)

Wong, B., DeWitt, J., & Chiu, Y. L. T. (2021). Mapping the eight dimensions of the ideal student in higher education.
Educational Review, 1-19.

これだけだと分かりづらいので、それぞれについてもう少し詳しく解説します。

① 勤勉さ・熱意 (Diligence and Engagement)

まず何よりも、授業への取り組み姿勢が重視されるようです。先生も人間なので、意欲に欠ける生徒よりも、熱心な生徒を好ましく思うのは当然のことかもしれません。

② 内省とイノベーション(Reflection and Innovation)

次に、内省力とイノベーションにかかわるスキルがランクインしました。これら、互いにあまり関連がない要素のように感じられますね。ちょっと不思議な組み合わせですが、研究者らの考察によれば、「内省を通して自身の考えを磨き上げ、授業のイノベーション(革新性)に貢献できる学生が求められる」という風に解釈しています。そんな人はビジネスの現場でも重宝されそうですね。とはいえ、必ずしも壮大な意見である必要はないと個人的には思います。何気ない意見からアイデアが広がったりすることもあるし、意外な意見がその日一番の貢献になったりすることもあります。オンラインだからこそ、気軽な気持ちで発言していけたらいいですね。

③ 自己規律・信頼(Organization and Discipline)

一言でいえば「きちんとした人」です。時間やルールをきちんと守れるか、何事も準備したうえで取りかかることができるか、秩序立った発言や行動ができるか。オンライン授業では人同士の接触が少なく、互いを判断する材料は発言や行動くらいしかありません。それゆえに、人としての基本が守れているかどうかがよりシビアに評価されるのでしょうね。

④ アカデミックスキル(Academic skills)

アカデミックスキルとは、学業全般に必要なスキルのことです。読解力や文章作成力、プレゼンテーションスキルや批判的思考力など、多岐にわたります。アカデミックスキルは大学院の授業を受けるうえで欠かせない能力ですが、学びながら磨いていくものでもあります。大学の講座を受けたり、市販の書籍を読みながら対策していくことができます。

⑤ 協力姿勢・協調性(Supportive of others)

クラスメイト同士が協力しあうことで、クラスの雰囲気が良くなり、学びが加速します。欠席した人にノートを貸してあげたり、クラスメイトにとって有益な情報をシェアしたりなど。互いに助け合うことで、授業はより豊かなものとなります。さらに先生方も本来の授業運営に集中することができ、そのメリットは生徒の側に返ってきます。

⑥ 自信と前向きさ(Positive and Confident outlook)

自信があって前向きな人は、誰の目にも魅力的に映ります。先生も人間ですから、ネガティブな人よりポジティブな人のほうが付き合いやすいのは当然のことかもしれません。ただ、無理をしたり虚勢を張ったりする必要はなく、笑顔を心がけるなどちょっとした工夫で前向きな雰囲気をまとうことはできます。

⑦ 社会的スキル(Employability skills)

"Employability skills" (エンプロイアビリティ・スキルズ)とは、職業を得るための能力を指す言葉です。専門知識や、社会人としての資質全般が含まれます。日本語では「雇用される能力」と訳されたりします。しかしこの研究におけるEmployability skillsは、もっと基礎的かつ汎用的なものです。たとえばコミュニケーション能力やチームワーク、協調性、セルフマネジメント能力など。社会で他者と生きていくために必要とされるようなスキルが挙がっています。冒頭でも述べたとおり、大学院では先生やクラスメイトとの関係がより濃密になるので、コミュニティの中でうまくやっていく力はたしかにとても重要です。

⑧ 知性・戦略性(Intelligence and Strategic approach)

最後に、「知性・戦略性」という学業に直結する能力がランクインしました。大学は学問を追求する場だと考えると、これらの能力はたしかに重要です。一方で、これらが8つの条件のなかで最下位に来たことはちょっぴり意外ですね。大学は教育の場なので、現状よりものびしろが評価されるということかもしれません。そう思うと、希望が湧いてきますね。

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今日はイギリスのレディング大学の研究をもとに、オンライン授業で先生たちとよい関係を作るにあたってのヒントを考えてきました。先生から見た「理想の学生像」というと、先生に気に入られようとするような生徒像が連想されるかもしれませんが、研究からはずいぶんと異なる学生像が見えてきます。
海外の研究なので、日本の大学とは少し事情が異なる面もあるかもしれませんが、これら8つの条件はビジネスなどほかの場面でも通じるものだと感じます。

次の記事では、これら8つのポイントをふまえて、私が過去にオンラインでイギリスの大学院に通っていたときの実践についてお話しします。先生方との関係を構築するうえで私が実際にやったことや心がけていたことを、やはり6つのポイントにまとめてお伝えしていきます。(毎回6つなのは単なる偶然です。)

それでは、またお会いしましょう。

参考文献:
Wong, B., DeWitt, J., & Chiu, Y. L. T. (2021). Mapping the eight dimensions of the ideal student in higher education.
Educational Review, 1-19.

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