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ショート 1 日めくりカレンダー



〈あと3日〉
手作り日めくりカレンダーによると、
僕たちの記念日まで、あと3日。
記念日までの日付と、その日へのメッセージを書く。
学生の頃によくある、卒業までのカウントダウンをするカレンダーのようなものだ。

今日は、彼女の番。
3の数字の下には、彼女の字が並んでいる。

〈昨日は、あと4日もある!って感じだったのに、急にもう3日!って感じるね(笑)
今日は、私たちの好きな「アバウト・タイム」をみよう。
主人公みたいに、タイムリープできないけど、これはこれでいいよね。
明日がもっと幸せでありますように!〉

前から思っていたけど、彼女らしくない、小さめな丸っこい綺麗な字だ。
彼女はとても綺麗だけど、大雑把でヘンテコだ。

靴下はその場に脱ぎっぱなしにする。
洗濯カゴに入れなよっていうと、
「後でまた履くからいいの!」という。

料理中に手が空くと、突然踊り出したり、ラムネが入っていたマイクを持って熱唱しだす。

それに加えて、結構天然。
しかも彼女は天然だってことに気づいてない。
だから、毎日パジャマのズボンは反対に履いている。
ポケットが前についているのだ。

そんな彼女と、あと3日の今日を、
アバウト・タイムを観て終えた。




〈あと2日〉
今日は、僕の番。
2の下にこう書いた。

〈昨日も幸せだったね。このまま記念日までもその先も幸せに過ごそう。
今日は、朝から目玉焼きを食べよう。
今日の映画は「エターナル・サンシャイン」
僕は主人公みたいに、君の記憶を消したりはしないよ。
でも主人公と同じように、生まれ変わっても君と幸せになると思う。
明日がもっと幸せでありますように!〉

「あなたの書く文、かたいけど、あなたらしくて好き」って彼女が隣でニコニコして踊りながら言うから、今日は、彼女と一緒に踊ってみた。


目玉焼きは、黄身を割り、その中に醤油を入れてかき混ぜる。
2人のお決まりの食べ方だ。

「これを知らない人は人生損してるよ」
ってドヤ顔をして食べる彼女と、夜は、エターナル・サンシャインを観た。

今日も、彼女のパジャマのズボンは、反対。



〈あと1日〉
今日は、彼女の番。

〈明日かぁ。なんか幸せなのに、怖くなるね。
なーんて、怖いものなんて私にはない!!
今日は、2人でケーキを作ります。
2人で作れば、2倍美味しい!
夜は、アルマゲドンでもみちゃいますか。
泣かないでね。
明日がもっと幸せでありますように!〉


2人でいちごのケーキを作った。
飾り付けはなぜか僕が担当。
「愛があればよし!」とケラケラと笑いながら美味しいって食べてくれる彼女と、僕の前には、床に落としたのかと思うくらいのケーキ。
味は世界のどの店のケーキよりも美味しかった。

「アルマゲドン」を、僕も彼女も泣かないように必死に観てたけど、結局泣いた。
手は繋いだままだった。

それに、今日もまた、彼女のパジャマのズボンは、反対。



〈ついに当日〉
ラストは、2人で書いた。
2人の願いごとと記念日の、今日したいことを。

先に書いたのが僕。
〈願い:今日は、とても大事な日。
今日からがもっと幸せになるよう、今日を今までで1番幸せに過ごす。
今日したいこと:窓際でディナー〉

次に彼女。
〈願い:あなたとこれからも、うんと笑って、うんと食べて、うんと楽しく過ごすこと!
今日したいこと:あなたと過ごすこと。〉


「最高だね。」なんて、新しい紺色のワンピースを着て彼女がいうから、僕は新しい紺色のスーツを着た。


夜は彼女と僕のしたいこと、窓際で向かい合ってディナーをした。
ディナーと言っても、お互いの好きなものをテーブルに乗せただけ。
お互いが、世界が終わるときに絶対に食べたいものとして挙げたものを、一緒に食べた。

僕は、チキンカレー。彼女は、から揚げ。
チキン食べたすぎ、と2人で笑った。

ディナーを食べながら観た今日の映画は、

「ライフイズビューティフル」



観終わってしばらくしたら、空が上から明るくなってきた。夜なのに。まだ23時なのに。
白い光に包まれる。

「君の、カレンダーの案最高だったよ。
自然とこうなることが怖くなくなった。」

「でしょ。我ながらいい案だったと思う。
私も、すごく楽しめた。
あなたがいたおかげで楽しさも幸せも2倍になったよ。」


白かった光が赤色に変わる。


君の顔が赤く照らされ、目から涙がこぼれ落ちた。

僕はテーブルに乗った彼女の手に僕の手を重ねた。


そして彼女は、涙を流しながら笑って言った。


「明日がもっと幸せでありますように」


そして、僕たちの記念日が訪れた。



小惑星衝突による地球最期記念日が。



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今日は、ショートストーリーを書いてみました。

これは、大学1年生の頃に授業で書いた小説を少し変えてみたものです。

その頃ちょうど、伊坂幸太郎さんの
終末のフール」を読んでいました。

もしも世界が終わる日が決まっているとしたら、こんなふうに迎えたいな、こんなだったら素敵だなと思うものを想像してみました。

大切な人とさいごを迎えるのって悲しいけど、心強いんじゃないかなとわたしは思います。

ちなみに、終末のフールで1番好きなストーリーは、「太陽のシール」です☺︎

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