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冬の色を教えて

冷たい風に吹かれる度に、胸の奥がきゅっと縮む。
秋の始まりではなく、夏の終わりなのだと言い張りたい。喪失感ばかりが募って、足が止まる。

ギラギラと眩しい黄色や深いブルー、瑞々しく弾ける赤と風にはためく白、そんな色に満ちた日常がみるみるうちに遠ざかる。
冬の世界には鮮やかさがない。日本茶、灰色の薄いホットカーペット、除夜の鐘。みっしりと物が詰まった小さな部屋で、縮こまりながら夜をやり過ごす。
暖房で頬が火照り、電源を切れば芯まで凍える。おせちとバラエティ番組だけが、ぺかぺかと色づいている。

思い出す冬の匂いは、赤茶けた教室に鎮座するストーブの匂い。
近所の幼稚園で小学生向けの塾が開講されていて、何年間か通った。
休み時間になると、みんなで小さくちぎった消しゴムをストーブの上に乗せた。 ぷくっとおもちのように膨れる消しゴムをじっと眺めているのが好きだった。

冬の、青く高い晴れ空や、冷たい空気のずっと奥にぱらぱらと散らばる星はいい。子供の頃は、ダウンジャケットに包まれた父親の腕にしがみつきながら、冬空の下を歩いた。ふかふかとした感触がとても気に入っていた。
誰かと腕を組んで歩く度、そんな幼い日のことを思い出した。冬が来るごとに、前の冬とは違う腕にまとわりついて頬をすりつけては、悲しさが少しずつ積もった。また来年も、なんて、吹けば飛ぶような祈りでしかない。

だからこそ、同じ二人で迎える冬はことさら愛おしい。
歩幅を揃えて、ゆっくりゆっくり歩きたい。
まだ見たことがない冬の一面を、私の知らない色を、もっと見せてね。

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