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【コラム】マイセン磁器とメナジェリー~美術館から動物園の歴史を探る~

こんにちは!いつの間にか8月も終わり、とうとう9月に突入してしまいました。歳をとると時間が経つのが早く感じられます^^;残暑厳しい時期ですが、無理せず活動を続けていけたらと思っています。

話が変わりますが、2020年9月2日(水)に岡崎市美術博物館の企画展「マイセン動物園展」に行って来ました。

06.入口

西洋磁器として有名な「マイセン」ですが、食器や装飾品だけでなく動物モチーフの置物も多数作られています。この企画展では「動物」を主軸にマイセン磁器の歴史や遍歴が紹介されており、美術が好きな人だけでなく、動物が好きな人でも十分に楽しめる展示となっていました。

では今回の本題に入ります。館内を見学している途中、「とある用語」が目に入りました。

07.2匹の猫1

07.2匹の猫2

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上の写真は「二匹の猫」という作品です。その解説パネルにメナージェリ(宮廷動物園)というワードが…今回はこれについて少し解説していきたいと思います。

■メナジェリー(メナージェリ)とは
【はじめに】マイセン動物園展ではメナージェリと書かれていましたが、ここではメナジェリーに統一します。

メナジェリーとはフランス語のmenageに由来する言葉で、「家族もしくは一緒に暮らす人々」を意味するそうです。その後、時代を経て野生動物の収集物の総称として使われるようになりました。

メナジェリーの歴史は長く、少なくとも4000年の古代から存在していたとされ、古代エジプト、メソポタミア、中国といった広域でこの文化は発展しました。ライオン、キリン、ゾウ、ワニ…など収集された動物は様々で、地域によって異なりますが「見世物」「学習と啓発」「闘技」といった目的で飼育されていたそうです。

17世紀ヨーロッパにおけるメナジェリーは王と貴族のための娯楽ーー専ら権力の象徴として使われていました。世界中から集められた動物たちは市民には滅多に公開されず、私的な王立収集物として存在していたそうです。(例外で、オランダでは学びの目的としてのメナジェリーが存在し、入場料を取って一般市民に公開された記録があるそうです。)

■マイセン磁器とメナジェリー
17世紀後半のドイツではアウグスト強王(アウグスト2世)(注1)がメナジェリーを磁器で再現するという壮大な計画を立てていました。東洋の磁器に心酔していた強王は当時、宮廷彫刻家からマイセンへ招かれ、堅師として活動していたヨハン・ヨアヒム・ケンドラー(注2)を抜擢し「磁器で埋め尽くされた日本風の宮殿”日本宮”を建て、そこに磁器でできた動物達を飾り付けよ」という命令を下しました。ケンドラーは立体的で力強く、跳動感のある実物大の動物彫像を次々と生み出しました。

注1:アウグスト強王(アウグスト2世)(1670-1733)
ザクセン選帝侯として、またポーランド・リトアニア共和国の王として君臨していた通称”強健王”。芸術や文化に高い関心を持っていたとされ、バロック様式の建築やマイセン磁器の発展に寄与した。
注2:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー(1706-1775)
15歳でドレスデン宮殿の宮廷彫刻師の弟子となった後、宮廷彫刻師を経てマイセン工房の型師となる。同じくマイセンの型師であった彫刻家キルヒナーと共に動物の彫像や日本宮の礼拝堂用使徒像のための型を作成していた。彼による躍動感ある動物やロココ様式の優雅な人形、食器などは人気が高く、今も多くの人々を魅了している。

残念なことに、この「磁器でできた動物園」はアウグスト強王が死去したことにより実現することはありませんでした。しかし、強王亡き後もケンドラーはマイセンに残り、その才能を如何なく発揮する作品を次々と生み出していたそうです。

■まとめ:美術館から動物園の歴史を探る
今回のお話、いかがだったでしょうか?マイセンと動物園ーーー実は深~い関係があったんですね。今でこそ『動物園』という施設は「種の保存」「教育」「調査・研究」「レクリエーション」という多様な役割(これが動物園の4つの役割とされています。)をもっていますが、当時は専ら「権力の象徴」や「娯楽」の為に存在していました。

時代を経るごとに役割・目的が変化していくのは動物園の魅力の一つだと私は思っています。昔と役割は違えど、これからも『動物園』という施設が人々に寄り添う形で存在し続けてくれればなぁ…と願いながら、今回のコラムを〆させていただきます。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。次回の更新もお楽しみに!

【参考】
・WOBURN ABBEY ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー|陶磁器による造型を確立|マイセンが誇る天才彫刻家
・WOBURN ABBEY アウグスト2世|「マイセン」を誕生させ、ドレスデンを華麗なバロックの街並みに発展させた、精力旺盛な強健王
・TableLABO マイセン/MEISSEN
日本動物園水族館協会(JAZA)HP
・『動物園学』村田浩一、楠田哲士監訳(文永堂出版)

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