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女三人で温泉に浸かって

この前、母と妹と一緒に旅行に出かけました。
考えてみれば、三人で旅行に行ったのは私が大学生のときが最後だった気がします。
行き先は別府。
私自身、別府には行ったことがなかったので、行く前からわくわくしていましたが、母の方が娘二人よりもはしゃいでいるようでした。

時折、「こんなところで写真撮るの!?」「さっき撮ったじゃない!」と思いながらも、母との思い出にもなるか…と気を取り直して三人で至るところで写真を撮っていました。

メインの地獄巡りでは青い空をそのまま映したような温泉や、見るからに火傷をしそうな赤茶色の温泉、ぼこぼこと泡が噴き出し河童でも出そうな温泉等々を見ました。
ずっと前から、自然がこういうものを作り出しているのだから、すごいよなあと、行く温泉ごとに見入っていました。

そんな地獄巡りや、二日目の由布院でのお土産散策もよかったのですが、
今回の旅行で私が一番楽しかったというか、「三人で旅行に来れてよかった」と思えたのが、露天風呂に浸かっているときでした。

宿の大浴場の露天風呂への扉を開けると、石の階段がありました。ひんやりとした感触を足裏に感じながらその階段を降りると、
露天風呂が見え、その透明なお湯の上をいくつもの薔薇の花が浮いて漂っています。

「本物の薔薇!」
つい私も声を上げて、その薔薇風呂に女三人で浸かりました。
傍にある薔薇の花たちを見ても、様々な色の薔薇がありました。
赤、橙、白、薄紫、桃色、黄色。
お湯に濡れた花たちは柔らかく、母はいくつかの薔薇を鼻に近付けました。
「あ、薔薇のいい香りがする」
母から手渡された薔薇に、私も鼻を近づけてみると、
温泉の香りに混じって薔薇独特のほのかに甘い、ゆったりとした香りがしました。

それから三人で、いくつもの薔薇の花の香りをかいでいきます。既に香りがなくなってしまったものが多い中で、時折香りがするものを見つけると、
「これ、香りある!」と言って、薔薇を手渡しし合っていました。

そのときは私たち以外に露天風呂に浸かっている他のお客さんはいませんでした。
私は露天風呂を囲う石の上に、次々と薔薇を寄せ合って置いていきました。
「何しているの?」
母が笑って聞きます。
「清掃員さんたちに花束」
私が答えると、母はまた笑いました。

妹も同じように薔薇を石の上に置いていきます。
そんな娘二人の様子を、母は石の上で体育座りをしながら微笑んで見ていました。
いくつもの色の薔薇を置いていくのは、絵の具を使って絵を描いているみたいです。だから、私と妹が夢中で絵を描いている様子を、母が見守っているようでした。

ついでに私は妹の頭にも橙の薔薇を置いてみたりして、妹の笑みが少し混じった困り顔にも笑いました。
「なんだか小さい頃に戻ったみたいだなあ」
二十歳を過ぎた娘ですが、その露天風呂での出来事はそんな風に思わせました。でも小さい頃に戻ったというより、そんな幼い頃の自分が内在していることを認識したと言った方がいいかもしれません。いくつになっても、幼い頃の自分の感性って一部は消えないし、消えてほしくないです。
そんな自分をさらけ出せる人がいるというのは、家族であれ、恋人であれ、友達であれ、いることは大切だと思います。
特に私の場合は家族だからこそ、そんな自分をさらけ出しやすいのかもしれません。

お風呂に浸かって、他愛もないことで笑えるのは幸せなことです。
また旅行先で女三人、お風呂に浸かりながら、お喋りをして、素に戻れる時間を大切にしたいと思います。

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