ジャガイモの教え
久しぶりに自炊をした。お鍋のもと、えのき、舞茸、水菜、白菜、水餃子、お肉を一緒くたにしてお鍋に入れる。料理は早く終わらせられれば終わらせられるほどいいので、ボボボボボッ…といちばん強い火にかける。
お鍋ぐらい…と自分でも思ったのだが、信じられないほど見栄えの悪いお鍋になってしまった。どうしてこんなにも自分の自炊のレベルは低いのだろうか。作ったことのあるものはチゲスープやサラダ、納豆、冷奴、カップラーメン、餃子(包む作業だけ)など、ことごとく包丁を使って切るという作業が少ないものばかりだ。確かに包丁やピーラーなど、調理器具に恐怖心がないといえば嘘になる。思い返せばそれは小学生の頃から始まったことだったと回顧する。
小学4年生か5年生の頃だったと思う。調理実習があった。ジャガイモの皮をピーラーで剥いて、ポテトサラダにしようというものだった。
有難いことに、いつも母親に美味しい手料理を作ってもらい全てを頼りっぱなしだった私は、ピーラーなんて手にしたこともない子供だった。だが、自分は楽観的なので まあ無理だったらなんか出来そうな家庭的な風貌の女の子にでも頼めばいいでしょ!ぐらいに思っていた。
しかし、そのジャガイモ剥きを『テスト』だと言って、先生がひとりひとりのジャガイモの出来を見るというのだ。
ジャガイモの皮が剥けたぐらいでなんだ!?そんなんどっちでもいいわい!!!!!!!!!
少々捻くれていた私は心の中でこう思いながら、いつものように猛ダッシュで学校を後にした。
調理実習当日になった。授業が2~3時間ほど潰れることや授業中なのに食べ物が食べられるからというのもあって、みんな揃って楽しみにしているようで、お祭り騒ぎのように賑やかになるのが毎度の事だった。私もボケーっと周りの子とお話して食べて終わりなので一応調理実習のことは好き側の人間だった(所謂食べる専門でいるだけ)。
4人の班に別れて座り、ジャガイモとピーラーが配布される。
「では始めてくださーい」
女の子も男の子も全く不安のなさそうな顔でピーラー片手にスルスルと皮を剥いていく。私もピーラー片手にスルスルと……いかなかった。ジャガイモは手から逃げてゆく。ピーラーは手の皮を剥いでしまいそうではないか!!!剥がされた私は内臓と骨だけの姿に………ならなかった。ごめんなさい。
結構真面目な話、ひとりだけ永遠に出来なくて、先生が私のいる机までやってきた。どんなに大きな体格の男の子にも、野球部の子にも、サッカー部の子にも、とにかく不器用そうな人達にも負けた(負けた?)。私は永遠に茶色いジャガイモくんのままだったのだ。力が足りないのだろうか、傷すら付かないジャガイモ。いくらピーラーでスーッとしても取れないへばりついている皮。しかし頑張る気持ちと勢いだけはあるためピャッ!ピャッ!とジャガイモにピーラーを当ててスライドさせていく。女子からキャーーーーーーーと悲鳴を上げられてしまうぐらい指を切りそうな危なっかしい姿。先生からはやる気のないやつに見えたのかもしれない。私の手からジャガイモを奪い取った。そしてスルスルと剥いていってしまうではないか。そして、ピーラーを横にして芽まで取ってしまうではないかーーー!!!
クラス中の視線をかっさらってしまった。ただ1人、調理実習中に何もしないプロになった。
その頃の記憶があるからかどうか分からないが、私はポテトサラダが食べたい時は今でも買ってきたものを食べるし(具材とか自分で選んで作りたい気持ちを抑え)、ポテトフライだって(揚げてみたいのに)、肉じゃがだって(自分好みの家庭的な味にしたいのに)、ジャガイモが含まれる料理は全部買う。
…え?ジャガイモとピーラーの話してたんだっけ?
違います。調理器具が怖い話でした。
そんなこんなで案の定、面倒くさがりなのも相まって料理嫌いになった私は、包丁を使うときでさえぎこちない。上からボン!と身体を載せるように体重をかけて切ることしか出来ない。
今日も感謝を胸に私はコンビニとデリバリーと母が送ってくれたご飯をいただく。