産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 父親との再会 1
土曜日の朝。
午前中に龍一の両親がアパートまで迎えに来てくれると言うのであやめは森本さんとアパートの外で制服を着て待っていると真っ黒に光ったクラシックカーが停まって運転席の窓を開けた男の人が森本さんに話しかけてきた。
中には若い男性と女性が乗っている。この2人が龍一と蓮二の両親なのか?と戸惑うあやめ。
後部座席から出て来た女性が
『あなたが四ノ宮あやめちゃん?可愛いわね〜。私は吉澤彩菜。龍一と蓮二の母親よ。あやめちゃんの事は森本さんと龍一に少し教えてもらったわ。今日はよろしくね!』
小柄な美人な女性。
あやめは自分の母親と比べて龍一の母親の方が若いので驚いた。
運転席には整った顔立ちのお兄さんの様な男性。龍一と蓮二に似ていたのできっとお父さんなんだろうなとあやめは思いながら彩菜に促されて一緒に後部座席に座った。
「おばちゃんは行かないの?」
窓を開けて森本さんに聞くあやめ。
『吉澤さんに全てお任せしてるから私は行かないわ。』
残念だけど大人のいう事を聞くしかない。
「そっかぁ…じゃあ行って来るね!」
あやめは森本さんに手を振って正面を向いた。龍一の両親と初めましての空間に緊張していた。
『緊張しなくていいからね!慶ちゃ…慶さん怖い顔してるけど緊張してるだけだから!』
と彩菜がにこやかに話しかけて来た。
『誰が怖い顔だ!私の名前は吉澤慶。龍一と蓮二の父親だ。龍一と仲良くしてるらしいね。変なことされそうになったらいつでも蹴ってもいいからな!』
慶は笑いながらとんでもないことを言い始めた。
「リュウ…イチ君には…いつも…勉強教えて貰ってるの…」
恥ずかしそうに話すあやめ
『2人共勉強は出来るから色々教えて貰うといい。あ、そうそう…四ノ宮さんから奥さんのつわりが酷くて来れないっていう連絡が来たんだよ。』
慶はあやめに申し訳なさそうに告げる
「あ…残念…」
あやめの残念感で車内が静まりかえってしまったので慶は別の話題に切り替えた。
『あやめちゃんは龍一と蓮二が双子だってこと知ってるよね?実は私も双子なんだよ。吉澤家の直系長男は代々双子の男が生まれるって決まってるんだよ。不思議だろう!」
慶は豪快に笑った。
緊張気味のあやめに何気ない家の話をして緊張を和らげる話題に変えた。
「へぇーじゃあ双子だらけなんだぁ〜!お父さんも龍一…君と顔の雰囲気が似てる。似たような顔が家族にいるのってどんな感じ?」
素朴な疑問を投げかけた。
『他人から見たらそっくりでも互いには自分の方がカッコいいと思ってるよ!』
と笑い飛ばしながら話す慶。
『昔、慶さんと優さんで俺の方がイケてるって掴み合いの喧嘩にまで発展した事があったのよ!因みに龍一と蓮二も自分の方がイケてるってバレンタインのチョコレートの数で競い合って喧嘩するのよ〜。おかしいでしょ!』
あやめは2人が喧嘩してる様子を思い浮かべてニヤニヤしてしまった。
『今日はあやめちゃんにとって2ついい事があるの。1つはパパに会えること。1つはもうママの子供じゃなくなったこと。パパに親権が変わったのよ。』
あやめに親権の話をしても理解する筈もないが既に母親と縁が切れていた事に喜びを感じた。
「え?あたしパパの子なの?」
『そうよ〜。複雑な家庭は簡単に落とせる…じゃなかった応じるパターンが多いのよ。あやめちゃんのママは離婚しても苗字を変えてなかったから手続きが簡単だったわ。それから今日パパに会いに行って一泊したら架空都市部に戻るでしょ。森本さんの家じゃあやめちゃんのママが近くに住んでるし厄介だからウチの空いてる部屋を用意してるの。だから都市部に戻ったらその部屋に帰るのよ。』
「え?おばちゃんは知ってるの?それに龍一の家って…?家族が住んでる家に行ってもいいの?」
『森本さんは承知してるわ。その方がいいって。それとウチの家は変わっててね。敷地内に4棟家があるの。その内の一部屋。女の子だしお風呂とか付いてる方がいいかな?って。誰にも気を使わなくてゆっくり過ごせると思うわ。』
どんな家か全く想像が出来ない。
敷地内に4つも家がある?その内の1部屋?
「うん…面白そうな家…」
(龍一の家は一体何をしている家なんだろう?)
想像がつかない。
あやめが話さなくても2人が交互に喋るので気を使わずに何時間も車に乗る事が出来た。人見知りのあやめが普通に会話が出来るくらい距離感の取り方が上手いので気にせず楽しく着くまでの時間を過ごせた。
架空東海地方到着。
ホテルのビュッフェで会うことになっている。
「すご〜い!お城みたい!!ご馳走もいっぱい!お母さん、どれ食べるの??」
あやめは初めてのことだったので興奮して彩菜に尋ねた。その辺は極々普通の中学生だ。
『あそこにあるもの何でもいいのよ。自分で小皿に入れて持ってくればいいわ!ただパパが来てからね!』
彩菜はあやめにビュッフェの料理の取り方を教えた。
「…パパ元気かなぁ…」
『もしかして…あやめか!?』
背後から懐かしい声がした。
あやめは振り向いた。
「え!?パパ!!会いたかった!」
あやめはずっとずっと会いたかったので周りのことも気にせず父親に抱きついた。
『あやめ…どうしてそんな金髪に…ごめんなちゃんとしてあげれなくて…』
あやめの父裕二はあやめの頭を撫でた。
「あ…これ…直し方わかんなくて…」
あやめは金髪頭を手で隠しながら俯いた。
『さぁ!パパが来たから何でも選んで来ていいわよ!』
と彩菜があやめに教えるとあやめは颯爽と料理に向かってる走って行った。あやめは並んでいる料理を眺めながら何を食べようか考え込み始めた。そこはやはり子供。
3人は大人同士の話をしている。
皿に山盛りに入れて座ってから
「パパ…あやめパパが居なくなってからこんな食事取った事ないの。だからいっぱい食べる!」
『あやめ、こういう場所に来たら持って来た物は全部キレイに食べないといけないんだぞ?ちゃんと食べれるのか?』
裕二は料理をてんこ盛りにしているあやめを見て可笑しくなって来た。
「大丈夫だもーん!ねぇパパの奥さんどんな人?見たかったなぁ〜。」
あやめは残念そうに言った。
『麗華は優しくて思いやりのある人だよ。また次の機会があったら合わせてあげるよ。歳は…吉澤さん程若くないけど千早…ママよりは若いな。今朝まで会いたいって言ってたんだよ…』
「れいかさんって言うの?素敵な名前!今度会えたらなー。つわりって気分が悪くなるんでしょ?早く良くなるといいね!」
親子の会話は次に会えたらいいなぁという願望の話だった。
しかしそう簡単には行かず麗華の母親がしゃしゃり出て連れ子は自分の孫、今お腹にいる裕二と麗華の子供も自分の孫だがあやめは他人だと言うのだ。
裕二からすればあやめは自分の子で麗華の連れ子は他人だが本当の娘のように可愛がっている。なのに義母からあやめは他人だと言われ麗華に合わそうとしない。同居している訳でも婿養子でもない。
義母は口だけ出して来る厄介な存在である。
裕二と麗華の中では一緒に暮らすのはあやめ次第だと話している。
架空都市部にずっと住んでいるあやめが知らない土地で新しい家族と暮らす事に抵抗があるかも知れない。その事も考えて吉澤夫妻と色々やり取りしている。
その邪魔をしているのが麗華の母親だ。
今日だって麗華はつわりが理由ではなく義母が合わせないと言って部屋に鍵をかけて閉じ込めてしまったのだ。
裕二と慶の間で色んなパターンを考慮していたがとんでもない邪魔が入った。
ビュッフェを食べた後、大人同士の会話が始まったのでよくわからないあやめはデザートを選んで黙々と横で食べていた。
大人同士の一通りの話が済んだのは夕方だった。話が済んでからあやめはこのホテルに泊まる事を知った。
2部屋取ってあったが誰がどの部屋という部屋割はしていなかった。
「少しだけ1人でこっちの部屋に入ってていい?寝るのはお母さんと一緒がいい。」
と龍一の両親に言って来た。
すっかり打ち解けて彩菜を【お母さん】慶を【お父さん】と呼ぶようになっていた。
『龍一と話すの?』
彩菜に微笑ましい目で見られた。
「うん。」
渡された電話番号にかけたらすぐに出て来た。
「うわぁ…早い!」
『あはは。今日どうだった?新しいお母さんに会えた?』
「つわりが酷いんだってだから会えなかった。パパは奥さんあやめに会いたがってたって言ってたんだけどね。あやめもどんな人か会いたかったなー!きっと美人だと思うの!」
『写真でも見せてもらったのか?』
「うぅん…思いやりのある人って言ってたからきっとキレイな人なんだと思うんだ。」
『架空東海地区はどんな感じだった?』
「まだわかんない…あ!ここから帰ったらリュウの家に住む事になってるんだ!それはそれで楽しみ!」
『それじゃまた明日だな!ゆっくり休んで来いよ!』
「うん…リュウ…おやすみ」
電話を切ったあと彩菜に龍一と話した事を言ってから風呂に入る事にした。
『私は内風呂に入るけどあやめちゃんは大きな大浴場に行って来たらいいのよ!凄い豪華らしいから。』
「お母さんと一緒がいい!一緒に大きなお風呂行こうよ!」
『私は恥ずかしがり屋なの。だから部屋のお風呂でいいわ。』
「そっかぁ…じゃああたし大きなお風呂行って来る!」
仕方ないのでお風呂セットを持って大浴場に行ったら誰も入ってなかったので1人で楽しんでから戻って来た。
風呂から上がった2人は変化の激しい1日だったので急に疲れが襲って来てあまり話さない間に寝てしまった。
「お母さん今日はありがとう。おやすみ」
『おやすみあやめちゃん』
まだ遅い時間でもなかったが2人とも深い眠りに入った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?