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心理的安全性と従業員エンゲージメント【事例研究】【DEI#30】

こんにちは。中小企業診断士のさとうたろうです。
ダイバーシティに関するトピックを紹介しています。

心理的安全性と従業員エンゲージメント

前回ご紹介したエイミー・C・エドモンドソン氏の「恐れのない組織」の中で、「心理的安全性と従業員エンゲージメントとの関係性」が述べられていました。
「従業員エンゲージメント」という言葉、最近、企業のディスクロージャー資料でも見る機会が増えたように感じます。

今日、ほとんどのマネジャーが、従業員満足度は重要だが十分ではないことを理解しているのである。「満足」とは、従業員が楽しんでいる、あるいは不足を感じていないという意味であり、仕事への感情的コミットメント、つまり、いい仕事をすることに全力投球する意欲を表してはいない。一方、仕事への情熱と組織へのコミットメントの程度と定義される「エンゲージメント」は、自発的に仕事に取り組む熱心さのしようと考えられる。

同書によると、心理的安全性と従業員エンゲージメントは様々な研究で裏付けられているそうです。

アメリカ中西部の保険会社で行われた調査では、心理的安全性によって社員エンゲージメントが予想できることがわかった。続いて、心理的安全性が同僚との支援関係によって高められることも明らかになった。経営陣に対する従業員の信頼と従業員エンゲージメントとの関係に重点を置く研究もある。アイルランドの六つのリサーチ・センターの研究者(リサーチサイエンティスト)一七〇人から調査データが集められ、経営陣を信頼していると心理的安全性が生まれ、続いてワーク・エンゲージメントが促されることが突きとめられたのである。

企業の根幹であるものの測定が難しい「心理的安全性」を「従業員エンゲージメント」で代替的にチェックしていく、もしくは
「従業員エンゲージメント」を指標化して、ステークホルダーに「心理的安全性」をアピールするというのは納得的ですね。

従業員エンゲージメントの開示事例:味の素グループ

それでは、企業は「従業員エンゲージメント」をどのように開示しているのでしょうか?

残念ながら、従業員エンゲージメントについて触れている企業は多いものの、分かりやすい開示を探すのはなかなか時間がかかりました。
そうした中で見つけたのが「味の素グループ」です。

企業の多くが従業員エンゲージメントとして数値と目標のみを公表している先が多く、ブラックボックス的で分かりにくいのですが、
味の素グループの開示はとても分かりやすくまとめられています。

味の素グループは、2020年2月に企業価値の考え方を再定義しました。顧客価値創出に対する従業員のエンゲージメント向上が経済価値を生み、経済価値が従業員に還元されることで、エンゲージメントをさらに高めるサイクルを企業価値と捉えています。
これに伴い、従業員エンゲージメントスコア(「ASVの自分ごと化」)を20-25中計の重点KPIの一つに設定しました。個人の能力開発を進めながら、一人ひとりの「ASVの自分ごと化」を加速するマネジメントサイクルを、OEの手法で回しています。

「ASVの自分ごと化」とは、自身の業務を通じてASVを実践していることを、家族・知人に話すことがある従業員の割合のことで、
2020年度実績が64%・2025年度目標が80%・2030年度目標が85%以上になっています。

ASVエンゲージメントを高める取組みと実績も具体的に開示されています。企業の様々な取組みを「従業員エンゲージメント」という軸で整理すると分かりやすいのだなと感じました。

ASVエンゲージメントを高める取り組みと実績
1.CEO との経営計画対話: 味の素(株)全組織で計 53 回実施
2.事業・コーポレート本部長との対話:味の素(株)および国内主要グループ会社で計 75 回実施
3.組織目標・個人目標の設定:各組織で実施
4.個人目標発表会:味の素(株)全組織で実施
5.ベストプラクティス共有:従業員による ASV 関連投稿 359 件
6.起業家育成 A-STARTERS:133 チーム応募、4 チーム選定
7.ASV アワード:第 5 回アワードで 7 件表彰
8.エンゲージメントサーベイでモニタリング:従業員エンゲージメントスコア 64%(2019 年度 55%)
9.抽出した課題を次年度計画へ反映:各組織で実施

自分ごと化の重要性

少し話はずれますが、ダイバーシティ経営を分析すると、課題になることが多いのが「自分ごと化」です。

ダイバーシティ経営は、
働き方改革や女性登用を始めとした「会社の取組み」もしくは「会社が提供してくれるもの」と認識している傾向が強く、自分たち(特に管理職層)が取り組むべきものとの理解が欠けているケースがあります。

より良い職場環境のためには、一人ひとりの努力も必要であることを認識する必要があります。

従業員エンゲージメントで気を付けたいこと

従業員エンゲージメントを調べる中で気を付けなくてはと思ったのが、
「従業員エンゲージメントの数値自体が目的にならないように」という点です。KPIとして設定することにより、強制感や同調圧力が高まってしまっては元も子もありません。
※もちろん、味の素グループはきっときちんと取り組まれているのだと思います。

数値が低いチームのマネジャーに「数値上昇」のプレッシャーがかかり、
そのマネジャーがチームメンバーにプレッシャーを掛けるという構図は避けねばなりません。

心理的安全性は自発的に生まれてくるものであり、心理的安全性をつくるのはリーダーやマネジャーの役割です。メンバー個々人に強要するものではありません。
「従業員エンゲージメントを高めろ」というのは「熱心に仕事をしろ」と言っているようなものなのですから。

従業員エンゲージメント=心理的安全性ではなく
心理的安全性が高まると従業員エンゲージメントも高まるということを
きちんと念頭に置いておきたいところです。

最後までお読み頂き有難うございました。

【参考・引用】

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
エイミー・C・エドモンドソン (著), 村瀬俊朗 (著), 野津智子 (翻訳)
出版社 ‏ : ‎ 英治出版
発売日 ‏ : ‎ 2021/2/3

味の素株式会社ホームページ:多様な人財の活躍 https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/materiality/diverse_talent.html
味の素グループ:統合報告書 P.57「人財と組織のマネジメント改革」
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/csr/pdf/2021/ir2021jp_44-77.pdf#page=14


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