見出し画像

ジェンダー格差を実証研究から施策を考える【DEI#37】

牧野百恵さんの著書「ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか」を大変興味深く読んだ。興味を持ったポイントを自らの印象も交えつつまとめていきたい。

男性と女性の自己評価の違い

オックスフォード大学の教授による研究を用いて、「わずかな事実」が思い込みに与える影響について紹介している。

結果は、典型的に男性が得意だと思われている分野では、実際に得意かどうかに違いがなかったとしても、女性は自己を過小評価する傾向にあることがわかりました。

「ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか」

STEM分野に女性が少ないことは日本のみならず世界でも指摘されているが、ステレオタイプが影響している可能性は少なからずありそうだ。
管理職はどうだろうか?いわゆる旧来型のハードワークかつ力強いリーダーシップを求めるような管理職像しか描かれていない場合には、男性が得意だと思われがちであり、研究と同様に、女性が自己を過小評価する傾向、いわゆるインポスター症候群の影響が強まるだろう。

そういった意味では、近年拡がっている管理職の職務要件を明確化する取り組みは有効と言えそうだ。必要な資質を文書で明確化し、思い込み的な資質を排除していく。そういった取り組みも必要だろう。
※上記取組を導入した企業の話を聞いてみたが、形式な導入になっており、予定調和での利用にとどまっているとも聞く。それでも第一歩としては重要な取組みだと思う。

女性は賃金交渉を望まない?

アメリカ・ウィスコンシン州の公立校における賃金交渉の自由化が、学区によって多少ずれが生じたことを自然実験として利用した研究があります。「たまたま」賃金交渉ができるようになった学区では、できなかった学区に比べて、教員の資質や交渉力を同じにしても、男女教員の所得格差が広がったことを示しました。(中略)
興味深いことに、格差は年齢が若く経験が少ない教員ほど、また校長や交渉相手の学区長が男性であったときにだけありました。

「ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか」

著書では、女性が生まれつき交渉が嫌いなわけではなく、相手次第である可能性があるともまとめている。若くて経験が少ない教員ほど影響が大きかったことを踏まえると、謙虚さを求めるような社会規範がそうさせているのかもしれない。前段のインポスターともつながるが、MBO評価制度などで、自分の達成度合いを評価させる際にも影響が出てくるかもしれない。

女性は柔軟な働き方を望む

最近のいくつかの研究では、女性のほうが、柔軟な働き方の代わりに低い賃金を受け入れやすいことを示しています。(中略)
また、女性は高い賃金を犠牲にしても短い通勤時間を好むようです。(中略)フランスの行政データを使って、通勤時間を短くできるならば、賃金がいくら下がっても良いかを推定した研究があります。結果は女性は男性に比べて、22%ほど高い価値を通勤に置いていることがわかりました。この価値の違いは、男女賃金格差の14%に相当するとのことです。

「ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか」

アフターコロナにおいて、在宅勤務のルールを見直して、出社を求める企業が増えている。もちろん、出社による対面のメリットについては支持するところであるが、女性従業員のエンゲージメントが低下していないか、留意が必要と言えそうだ。ルールを前提としつつも特例を認めるなど、柔軟運営をしている部署の方が女性従業員のエンゲージメントは高いように感じる。近接性バイアス(出社している人を高く評価するバイアス)などにも併せて留意が必要だろう。

ロールモデルを作ることの有効性

ロールモデルを作る取り組みは、各企業で熱心に行われているが、どうやらこれは有効と言えそうだ。アメリカの空軍士官学校の学生を対象にした研究だ。

数学やサイエンスの担当教官が女性だと、教官が男性である場合に比べて、その後に女性の学生が数学を専攻する割合が高くなり、STEM分野の学位を取得する可能性が高くなることを示しました。他方、教官の性別によって、男子学生は影響を受けることはありませんでした。

「ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか」

ロールモデルの与える影響は、手本が少ない時に大きいとも言及している。男性管理職ばかりの部署であれば、まずは一人でも女性管理職を増やしてみる。ロールモデルを作り発信する取り組みは地道に続けていくことが良さそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?