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ジェイコブスさん、助けてください

まず、言っておきたいこと。それは、助けて欲しいのは、ぼく自身だということ。バキバキに開発されて変わりゆく街を助けて欲しい、というような高尚なお願いでなくて、とりま悩んでいるぼくを助けて欲しい。

ぼくはすでにおっさんと呼ばれる歳になってしまったが、大学生の頃に読んだ本にいまだに影響を受け続け、縛られている。

それはジェイン•ジェイコブス「アメリカ大都市の死と生」である。名前からして衝撃すごい、死とか。しかも死と生。普通、生と死ってポジティブな言葉から並べる気がするのはぼくだけ?
タイトルから違和感を感じて読み始めたものの、当時のぼくには強烈なメッセージとなったのだった。

そもそもぼくが大学生だったときから50年ほどさかのぼった1961年に発売された本で、ぼくが読んだのは建築家の黒川紀章さんが翻訳した1977年のSD選書だった。ものすごく古い。

建築学生だったぼくは、SD選書の黒い本を読んでると賢そうだ!くらいの感覚で手に取ったのだと思う。文字も小さくて読むのも大変!
でも、その内容にかなり引き込まれてしまったのだった。

ジェイン•ジェイコブスはアメリカのスクラップアンドビルドのまちづくりに反対していた人で、この本では良い街の要件は「混在した用途」「小さな街区」「古い建物」「密集」の四つです、と言い放っていた(かなり単純化してます。)

一方で、2007年にアメリカ元副大統領だったアル•ゴア氏による「不都合な真実」という本にも影響を受けまくって、建築って環境に悪い行為なのでは、などと冴えない頭でトガってあたぼくには、トリハダがぞわぞわと立つように、自分が肯定された気がしていた。

ジェイコブスの言っていることは、再開発などで地域を一掃して、巨大な街区を作って、新しいビルを建てて、いい街できたっしょ、っていう街はどうなの?ほんと?という疑問から出発している。

再開発などで街が更新されたとき、地域に根差した人も歴史も一回リセットされ、街区も大きいから監視の目も行き届かずに、犯罪などの危険性が高まってしまう、というような主張もあり、アメリカと日本では違う点もあるけど、理解できるところもある。

ぼくはアル•ゴアの影響も受けていたから、ジェイコブスを盾に、新しい建築じゃなくて古い建築をリノベーションしてもっといい街つくろうよ、という頭になっていった。
ジェイコブスは新しい建物全てを否定したわけじゃないのに。知的ぶる当時のぼくは、一貫した論調がかっこいいと思っていたので、古い建物原理主義者として闇落ちして行ってしまった。

当然、大学の論文のテーマは古い建物の活かし方、面的分布の分析だったり、原理主義者の闇はますます深くなっていた。

そして、社会人として、おっさんとして働いている今。まだ原理主義者が心の中で偉そうに座ってる、けっこう偉そう。俺が正しい、みたいな空気出してる。

古い建物を生かすことは面白いし、魅力がある。ただ、新しい建物だって、いろんな人が関わって、一生懸命考えられて、いい空間ができていく様は正直素敵だ。ワクワクする。これを否定するなんてどうかしてる。

心の原理主義者は、ぼくをそっちの世界に活かせないよう巧みに誘ってくる。すごく話が上手い。だって学生のとき、お金のこととか何にも考えなくてよかったときに、とにかくトガりまくれたときに、生まれたヤツなんだ。
そりゃ、巧みだよね、お前。正論しか言わないヤツだもの。

これからもこのまま古い建物原理主義者と共存していくのか、本音のぼくと新たな道を進むのか、岐路に来ている気がしている。

ジェイコブスさん、助けてください。こんなおっさんを生み出すために本を書いた訳じゃないことは分かってるんですが、少しは責任とか感じたりします?•••うん、しませんよね。

「アメリカ大都市の死と生」を読み返して、フラットな気持ちでジェイコブスさんの真髄を探しにいく。

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