シェア
塩野秋
2019年9月19日 21:51
星の箱 箱をこじ開けると、悪魔が飛び出た。 星雲とブラックホールを混ぜ合わせたような靄は響く笑い声とともに渦を巻き、ヒトの形を成していく。掌に乗るほど小さな箱の上に、先の尖った靴が揃えて乗った。重さがまるでない。ホログラムでないのなら、悪魔だ、と青年は思った。「眩しい!」 細身ので長身すぎる、真っ黒な服に身を包んだ男は、近すぎる照明に退いた。「箱を地面に置くかなにかしてくれないか」
2019年8月31日 21:13
風の街 むかしむかし、あるところに少年がおりました。 そこは寂れた場所で、見えるものといえば風化した白い壁、屋根のない家、誰もいない通り道、死にたくなるような青空だけでした。 その街はなにもなく開けた場所でしたが、風は吹き抜けませんでした。 少年は毎日、ぼろぼろになった壁の縁に座り、雲のない空を見上げていました。うっすらとでも雲が見えれば、風が吹いているかどうかを見定めることができるか