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目指すべきお店たち その2 | 小布施でカフェを始めるまでの話

長野の小布施でカフェを始めるまでの話を書いていきます。前回は、目指すべきお店たちを紹介しました。その1はこちら。今回は、目指すべきお店たち その2です。

その1の3つのお店たちに共通していたのは、「クローズな心地よさ」「経営やお店づくりのユニークさ」「働いている人の感情が伝わる」ということでした。さて、今回の3つのお店にはどんな共通点があるのでしょうか。ないかもしれません。

1 珈琲神社カフェG (宮城 南三陸)

かなりディープなのに、なぜか心休まるカフェ『カフェ・ジー』をご紹介します。

宮城の石巻に住んでいた2013年。南三陸町の「ホテル観洋」に向けて車を走らせていると、ドライブイン風のお店がありました。そこには、「まずい珈琲」という衝撃のキャッチコピー。入り口の近くに「Cafe-G(カフェ・ジー)」という店名が書いてあり、迷いながらお店に入りました。

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店内に入って、窓から一面の海が見えたときの衝撃。海岸線のお店ってこんなに眺めのいい空間が作れるのか、と驚きました。内装も、木材を切り出した自作家具たち、謎のモアイ像のオブジェ、チェッカーフラッグ柄のDIY壁紙、トイレに貼り付けられた映画の半券、使われていないビリヤード台に乗ったオーディオなど、絶妙なユーモアとおしゃれのバランスが保たれた独自の世界がありました。

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店長さんは50代後半の男性。南三陸町の町議会議員をやっていたという噂も聞きましたが、名前は知りません。カフェはお一人で運営されているようです。

メニューは、コーヒー、紅茶、アイスクリーム、ケーキ、ピザトースト、スパゲッティのような軽食。どれもシンプルな作りで、どれもほどほどに美味しい。店長さんが自分のできる範囲で工夫し、自分が美味しいと感じたものを、何気なくおすそ分けしてくれている感じがして、安心できます。

また、店長の独特の接客が、いい意味で「脱力系」です。

2週間位のスパンで通っていると、顔をかろうじて覚えていてくれますが、数ヶ月あくとほぼ忘れてくれます。常連とかの概念は顧客が自分で作り出すものだと教えてくれます。

前に、カレーチーズトーストが美味しかったので、「これ美味しいです!どうやってこのカレー作ったのですか?」と私が質問したら、「レトルトカレー。うち(のカレー)はインチキなんだから、気にしないで!笑」という、飾らない接客がたまりません。私だったら、勿体つけて工夫したところを語り始めそうですが、そんなことは気にしていないようです。

この「カフェ・ジー」は、お連れしても全員には喜んでもらえないかもしれません。前回の「はまぐり堂」は、世界中の多くの人におすすめしたいですし、私も色んな人との思い出があります。そして、みんなほぼ確実に喜んでくれるでしょう。

でも、私にとっては、なぜかカフェ・ジーもとても大切なのです。なにかのプロジェクトのきっかけになったわけでも、誰かと真剣に議論したわけでもないですが、久しぶりに訪れるだけで安心して心休まる。私の心の琴線に触れる場所なのです。

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私のカフェも始めるための大義名分はたくさん思い浮かびますが、どれも本当ではないかもしれません。結局はこのカフェ・ジーのような、飾らず、誰かの心休まる場所を目指したいのかもしれません。

2 シャムロックコテージ(長野 駒ヶ根)

私の生まれ故郷、長野県駒ヶ根市の素敵なスコーンのお店「シャムロックコテージ」もご紹介させてください。このお店からは、個人店で経営を続けていくために大切なことを教えてもらえるように思います。

私の尊敬する「クルミドコーヒー」のオーナー影山さんから、「たまたまであった人が、駒ヶ根でカフェをやっているそうですよ」と教えていただき訪問しました。

駒ヶ根駅から車で15分くらい、中央アルプス麓の別荘地域にひっそりとあるお店です。周囲の木々が豊か、キリスト教会の近くにあり、ソースカツ丼で埋め尽くされた駒ヶ根市街と一線を画す、まさに別世界です。

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内装はおそらく一軒家を改装したカフェという感じで、お店というよりイギリスのおしゃれな友人お家にお邪魔したみたいです。メニューも独特で、ちょっとした読みのものようです。

おすすめは、スコーンと紅茶。もっちりスコーンに、自家製のクロテッドクリームとジャムを付けて食べます。ティーポットで入れた紅茶といただくと、そこはイギリス。駒ヶ根にいながら、英国紳士・淑女になれます。

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メニューはもちろんなのですが、私がこのお店でもう一つすごいと思っているのは、「何が大事か」をよく考えて経営されていることです。

サイトを見ると、このお店は不便なお店であることがわかります。限られた営業日(冬季はずっと休業)、10席にも満たない席数で、3名以上は予約が必要、歩いてはいけないのに少なくて遠い駐車場、12歳以下の子ども同伴は不可、などなど。

大人数でも、深夜に行っても、誰が来ても受け入れてくれるチェーン店のファミレスとは正反対です。最初は「なんか、注文が多いお店だなあ」と思いましたが、よく見ると一つ一つ丁寧に理由が書いてあります。そして、最後に希望を思わせる一文を見ると、「まあ、そういうことなら」と納得します。(私は、ですが。。)

※お車でお越しの方へのお願い※
~お散歩しながら訪ねる隠れ家~

当店は、お店の近くには僅か4台分の狭い駐車スペースしかございません。
(中略)
(遠くにある)【駒ケ根高原教会】様の駐車場をご利用いただき、少しのお散歩を楽しんでいただくよう、ご協力をお願い申し上げます。
(中略)
なんといっても、駒ケ根高原教会のお庭は、それはそれは素敵なのです。
(シャムロックコテージHPより 「アクセス」より抜粋)

12歳以下の子どもの来店を断るというつらい決断も、「小さなお子さんを連れて、お友達と来てもらう方法がないか。どうしようか」と悩みに悩んだ末に、いろいろな事があって、やっぱり難しくて出した結論なのだということが伝わります。

小さなお子様と、その保護者様へ。​

​シャムロック・コテージは、本当に本当に、小さなお店。
にぎやかにお話をするには、お隣が気になってしまうような、どちらかというと、一人で静かな時間を過ごすためのお店です。

それに、店主の趣味で、店内はあちこちにガラクタだらけ。(店主にとっては、大切なたからものです。)壊れやすいもの、割れやすいもの、なかには触れると痛い尖ったものまで、色々なものがあちこちに置いてあります。

そのため、基本的に小さなお子様のご利用は、ご遠慮いただいております(※12才以下を、目安とさせていただきました。)

例えば中学生以上になって、一人で静かに本を読めて、そしてその時間を【幸せだなぁ】と感じられるような年齢になったら、もしかしたら、この小さなお店も、気に入ってもらえるかもしれません。​

【いつか大きくなったら、あのお店に行ってみたいなぁ】

小さなお子様にそう思ってもらえるように、私たちも頑張りたいと思っています。
(シャムロックコテージHPより 「小さなお子様へ」)

このように書かれていても、「もっと席や内装を工夫すればできるのではないか?」「対応できる時間を作ればいいのではないか?」など、他のお店がやっていそうな解決策も考えつきます。でも、シャムロックコテージさんにとっては、いまはこれが精一杯で、最善のラインなのだと思います。

個人事業で営むお店においては、チェーン店のような営業体制や設備投資はできません。他店でできているからといって、理想を高くしすぎて、無理を続けていれば、いつか限界が来てしまいます。

どうやったら、サービスのクオリティを守り、自分をなるべく犠牲にしないで、お客さんに満足してもらえるか。シャムロックコテージさんの多い注文は、ワガママではなく、これらの悩みの結晶であり、継続のための決意だったのだと思います。

帰省したタイミングが、シャムロックコテージさんの営業時間外のたび、「悩みながら経営を続けていくしかないんだよ」と、店長さんに丁寧に教えてもらっているように思います。(でも、またいつか、ぜったい開いているときに行きます。)

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3 ネムコーヒー(東京 広尾)

最後は、ネムコーヒーです。写真を掲載することはできません。ここにお店の雰囲気、コーヒーやスイーツの味を書くこともしません。

なぜなら、お店の写真撮影は基本禁止されていて、SNSやブログで「ここのXXX、まじうまいのでおすすめですよ!」と、紹介されることもあまり歓迎していないと思うからです。

きっとネムコーヒーさんは、「グローバルに有名になって、知名度ナンバー1。全世界でチェーン展開したいぜ」というカフェ(= スタバ)ではなく、「ローカルに住む人たちがふらっと、いつでも気軽に来れる」というコーヒー屋さんを目指しているのだと思います。

個人経営の小さいお店はキャパシティがあり、すぐに人であふれてしまいます。素敵だからといって、知名度が上がりすぎてしまうことは、ときに目指したい方向と逆になってしまいます。

私もカフェ始めるとき、ついつい「ここにいない誰か」に届ける計画を考えすぎてしまいます。インスタのフォロワー増やして、ブログも書いて、Youtubeにも動画アップして、LINEで投稿…と。

それらも、もちろん大事です。が、お店に来てくれた「ここにいる目の前の人」にどうやって満足してもらって、「次も来たい」と感じてもらえるかを、私のお店では大切にしたいと思います。

ついつい、売上、SNS映え、話題性、一般的な知名度向上が先行して、目の前のお客さんをないがしろにした判断をしそうになったときは、「スタバではなくネムコーヒー」という言葉を思い出したいと思います。(もちろん、私はスタバも大好きです。大学時代、バイトしてたし。)

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長くなりました。。。でも、言語化してみて、なぜ私がこの3つのカフェがそれぞれ深く印象に残っているのかわかってきました。また、この3つのお店に共通しているのは、「ユニークでありつづけていること」にあるようです。

意思決定がしやすい個人経営のカフェが、ある一時期ユニークであることは簡単です。でも、その世界観をずっと崩さずに、ユニークであり続けることは、経営的にも、モチベーションとしても、とても難しいことのようです。

それでも、ずっと悩み続けて、いろんな努力をして、自分の世界を保ち、そこにまた来たいと思ってくれる訪れる人を迎える。その先にあるのが、私がカフェ・ジーで感じた心休まる感じなのかもしれません。私もそんなお店を作って、続けていきたいと思います。

次回は、その3。カフェではないのですが、セシルビー(中目黒)とPave(イタリア ミラノ)を取り上げたいと思います。

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