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書評:ヘッセ『知と愛』

ヘッセの文学にナイーブな思春期の葛藤を見る

今回ご紹介するのは、ドイツ文学よりヘッセ『知と愛』。

世俗に身を置き、愛し愛され、喜びと悲しみを繰り返しながら「情」を育んで生きていくゴルトムントと、神に精神を捧げ、情欲を絶って「知」を育んで生きていくナルチス。人間の「情」と「知」を体現する両者を極端なまでに対照的に描きあげた物語である。

因みにストーリーのほとんどはゴルトムントの遍歴が中心であり、最後に両者が邂逅するシーンがクライマックスとして設定されている。

そこには善悪も優劣も設定されないのだが、やはりナルチスが抱く「愛」への渇望が痛ましいほどに印象的であった。

実際問題としては「知」と「情」は二項対立的なものではなく、並存もし、時には表裏なまでに融合もしながら働く人間の要素だと私は思っている。

だからと言って、この作品の設定自体がおかしいと言いたいわけでは決してない。むしろ境界がグレーであるが故に、それぞれの特性は中々識別し難いところを、それを見事にやってのけるヘッセの手腕に感服した。

私がこの作品を読んだのは非常に感傷的な思春期であった(そしてさくらんボーイであった)。

ゴルトムントのように誰からも親しまれるタイプの友人が周りに何人かいたが、私はそうではなかった。何故私は「和」に生きることができないのだろうかと、正直、ゴルトムントに嫉妬しながら読んだものだ。

逆にナルチスのように「知」に生きることができたであろうか。それもできないと思った。私は根っからの寂しがり屋であった(そして色々まだ諦めたくないさくらんボーイであった)。

現在の私は、ゴルトムントにもナルチスにも、どちらにも近くはないように思う。成長したのか変化しただけなのか、過去と現在の自分に優劣があるのかないのか、それはわからない。ただ自分自身を好意的に受け入れることができるようになってきたのかなとは思う。

時を経て再読すると、自分の変化や成長を感じさせてくれる、そんな物差しのような作品です。

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さて、以下は雑談である。

生きていると、「どっちやねん!」とツッコみたくなることがあるかと思う。

私がこの作品を初めて知ったのは、高校一年生の時のことだった。入学早々の頃で、教室の窓際の席で片手を窓の外に出しながらもう片方の手にこの本を持つ、なんかちょっと雰囲気のある男子同級生を目にした。

まだ私は海外文学には何の知識もなかったのだが、とりあえず恐い人(≒不良)ではなさそうだし、雰囲気があってちょっとカッコいいみたいな感じだったので、友達になれるかなと思い、声をかけてみた。

「何読んでんの?」と尋ねると、そいつは「ん?」という感じで目線だけこちらに向けながら、手にした本の表紙をこちらに向けてきた。

私は本のタイトルよりもその仕草に「おぉ〜なんか雰囲気あるやん?」と興味津々に。

そこから本のことなど、色々質問して会話を展開しようと考えていたのだが、彼が窓の外に出した手の方から、「カチン、カチン」という、何やら不穏な、いかがわしい音が聞こえてくるのだ。

ヘッセのことはどこへやら、私はその怪しげな音が気になって仕方なくなってしまった。

「そっちの手の音、何?」

彼はニヤリと笑みを浮かべ、窓の外に出した手を持ち上げた。その手に持たれていたのはなんと、ジッポライター!音は、ジッポの蓋を開けたり閉めたりする音だったのだ!

私はドン引きした。

(↓以下、私の心の声).
『え?完全にタバコ吸ってるヤツのアイテムやん』
『文学とタバコって、中学の時には想像上の生き物でしかなかった「インテリ不良」とかいうヤツやん』
『こいつ、敵か味方かよう分からんややこしいヤツやん』
『俺入学早々めちゃややこしいヤツに声かけてもうたやん』
『とりあえず恐い人じゃなさそうと思ってたのに、このままカツアゲされる展開まであり得るやん』
『というかそもそも雰囲気あるってなんやねん。こいつのことよう分からんかっただけやん』

とまあこんな感じで戸惑いながら、実際に口に出たリアクションは、

「お、おぉ〜、カ、カッコえぇやん〜・・」

それでなんとか会話を切り上げ、彼から離れることとした。

※彼は恐い人ではなかったので、その後普通に友達になれた。
※因みに、その後私も合法的な喫煙者になったので、嫌煙家ではない。

ど頭から「どっちやねん」とツッコませてくる、または「どっち選ぶ〜?」と迷わせてくる作品の代表格といえば、ヘッセ『知と愛』である。

※↑単に『AとB』というタイトルになってるだけ。そんなんいっぱいあるし。『罪と罰』とか『赤と黒』とか。

読了難易度:★★☆☆☆
思春期の葛藤に刺さる度:★★★★☆
不良が読んでたら騙される度:★★★☆☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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