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書評:森鴎外『青年』

鴎外が描く、青年期の葛藤に見る「青年らしさ」とは?

今回ご紹介するのは、日本文学より森鴎外『青年』。

本作は鴎外の初期の作品である。

文士として身を立てることを志し上京した主人公純一が、ロゴスとパトスの間で揺蕩う様を描いた作品だ。

プロットだけに限定して言えば、さながらプルースト『失われた時を求めて』の超簡易版とでも言えるかもしれない。

長い人生の旅路を俯瞰した場合、若い方には失礼な言い方となるかもしれないが、純一が今いる場所というのは言わばスタート以前、助走期間に位置すると言っても良い時期だ。この頃の青年は、自らの感情をまだ正確に捉え切れていないことも多いものだ。

未だ確固たる意志を持たず、であるが故に誘惑に抗い切ることができない純一。残念ながらその先に待っていたのは、自らの模糊とした期待に対する裏切りであった。

しかしながら、青年はこうした経験を経て意志を磨き、現実に立脚していくのだ。

本作における純一の終着は、大人の目から見れば何ら破滅的なものではないだろう。むしろ自らの意志を研ぎ澄ます砥石としては生ぬるい程ですらあるかもしれない。

ただし問題はそこではなく、むしろ人は年月を経るに従い次第に自らを砥ぐことを忘れていってしまうことの方にあるように思われる。環境に左右されない確固たる意志を持つことは立派だが、他方、変化を忘れた時点で人は本当の意味で青年ではなくなってしまうということもできるのではないか。

私は、泰然として無感情な大人に丸く収まるよりは、喜怒哀楽に敏感な青年であり続けたいと思わずにはいられない。

読了難易度:★☆☆☆☆
等身大の青年期の葛藤度:★★★☆☆
内面的な青年の定義を考える度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★☆☆

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