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幽刃の軌跡 #26

第26話「天狗捕縛」

霊域解放…白狐顕現(びゃっこけいげん)! 封式…稲荷天縛(いなりてんばく)!!


空気が張り詰め、一瞬で場の雰囲気が変わった。天から白い光が舞い降り、まるで神の威光が地上に降臨したかのように、その場にいた者すべてがその光に引き寄せられた。美しくも荘厳な声が響く先に、白い衣を纏った一人の女性が静かに立っていた。


彼女は冷然たる眼差しで天狗を見据え、その姿はまるでこの世の全てを見透かすかのような威厳を放っていた。


「母上…」明菜はその姿を見て、驚きと敬愛の入り混じる声を漏らした。


そこに現れたのは、平安国の王妃であり、明菜の母親でもある「藤原皇后」、すなわち霊域 静華(れいいき しずか)であった。


天狗はその姿を目にした瞬間、眉をひそめ、不快感を露わにする。「この白狐め…貴様が稲荷の守護か…」


藤原皇后は冷静さを崩さず、天を仰ぎ見て静かに言葉を紡ぐ。「そなたの力、この地に降り立つには余りあるものだ。封式…稲荷天縛。」


その言葉とともに、天狗の頭上に四つの巨大な鳥居が出現し、まるで結界のように天狗の両手両足を縛り上げていった。天狗は激しく抵抗するが、藤原皇后の力の前では、どれも無駄な足掻きに終わった。


「わしを封じるだと…貴様一人にできることではない!」天狗は叫びながら拘束を振りほどこうとするが、鳥居の力は圧倒的で、天狗の身体は次第にその場に縛られていく。


藤原皇后は静かに天狗を見下ろし、凛とした声で告げた。「そなたの力、確かに恐るべきもの。しかし、この地を乱すことは許されぬ。今は、ここで眠りにつくがよい。」


天狗はさらに暴れるが、その力は次第に弱まり、藤原皇后の霊域「白狐顕現」によって完全に拘束された。


「くっ…稲荷の白狐、貴様の力…」天狗は屈辱に満ちた表情を浮かべながらも、次第にその姿は元の朱留へと戻っていった。


天狗を封じ終えた藤原皇后は、穏やかな表情で娘の明菜に視線を向ける。しかし、その目にはまだ鋭い意志が宿っていた。


「母上、何故ここへ…?」明菜は驚きと困惑を隠せず、問いかける。


「天狗は平安妖力四天王の一匹。この事態を収めるには、私が出るほか道はなかったの。彼の力はただ事ではない。」


その冷静でありながら威厳ある言葉に、明菜は自らの無力さを感じる。しかし、同時に母が現れたことに安堵し、己の使命の重さを再確認する。


「天狗の妖力は抑えたが、再び目覚める時が訪れぬとも限らぬ。朱留は、私がこのまま都へ連れ帰る。」


藤原皇后は明菜に厳しい視線を送るが、その目には母親としての期待も込められている。


「母上…朱留は…彼の運命はどうなるのでしょうか…」明菜は不安を押し殺し、恐る恐る尋ねた。


藤原皇后は一瞬考え込むように瞳を閉じたが、すぐに静かに答えた。「今はまだわからぬ。だが、戦が終わるまでは、その問いに答えることはできぬ。」


「後の戦場は、皆に託します。四国の意図を見極め、戦乱を治めなさい。」母の厳しくも優しい言葉に、明菜は深く頷いた。


拘束された天狗は、なおも悔しげな表情で藤原皇后を睨みつける。


「この封印がいつまで持つか…ふん、楽しみにしているがよい…わしが本来の力を取り戻せば、この程度の封印など…」


藤原皇后はその言葉に一瞥もくれず、静かに背を向ける。


「明菜、頼みましたよ。四国軍の真の意図を見極め、吉報を都へ送るのです。王も共に待っています。」


「はい、母上…必ず…」


天狗の嘲笑が次第に遠ざかり、やがて静寂が訪れる中、藤原皇后の静かな足音だけが響き渡った。

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