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読書と浮遊感。 【書評】オン・ザ・プラネット(島口大樹 著)

こんにちは。今回はこちらの本を読んでみたので感想を書いてみます。
こちらも第166回芥川賞の候補作でした。

若者4人が映画を撮影するために、横浜から鳥取砂丘を目指すロードノベルです。その途中で撮影したと思しき場面が挿入され、そこでは滅亡した世界の砂丘にたたずむ若者たちがいます。

全体として、特に何かが起こるわけではありません。浜松と大阪で寄り道し、鳥取砂丘で撮影後、上映会をする。話としてはそれだけです。単行本で174ページ。文章の大部分は主人公の「世界」に対する独白と若者たちのとりとめもない会話。現実と虚構を行き来するような浮遊感を始終味わっていました。そういった意味ではとても文学的、というか芥川賞的なのですが、私にとって小説に対して「何が起こるのか?」ということを楽しみに読んでいるのだなということを図らずも自覚した作品になりました。そういった意味では少し冗長さを感じてしまいました。

漫画家の岩明均氏は「寄生獣」の最終巻で「以前の作品はどんな登場人物が出てくるか、からストーリーを組み立てていたが、本作は、どんな出来事が起こるのか、ということから逆算して人物を創作した。」といった趣旨のコメントを残しています。

最後まで読むと自明ですが、この小説も人物先行ではなく、出来事先行であることがわかります。世界をどうとらえるか、世界との距離感、といったところからこの書名がつけられているのでしょうか。確かに、世界とは何か?といった大きく、正解がなさそうな問題を考えるときに感じる圧倒的な自分の小ささ、虚無感はこの本を読んできるときの感覚とよく似ているように思います。

これで第166回芥川賞全候補作の記事を書き終わりました。受賞作だけは押さえていても、候補作まで読むということがほとんどなかったのですが、今回、全作品を読んでみて、それぞれに個性があり、読み手によっていろいろ解釈ができそうな作品が多かったなという印象です。といっていたら、第167回の候補作が発表されました。月日が経つのは早いものです。

ということで、今回はここまでです。お読みいただきありがとうございました。


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