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映画<BAD LANDS>~タロットカードと大阪弁

タロットカードが舞い降りる
作品の中で、突然、タロットカードが登場する。
ヒロイン、ネリ(安藤サクラ)は8月20日生まれ。だからネリのタロット・カードは、20番「審判」であると。
カードが画で映ったわけではなく、ネリにとって近しく重要な人物のセリフの中で語られる。
物語の中に、突然ひらりと一枚のタロットカードが舞い降りたかのように。
「審判」は、タロットカードの絵札22枚(0番から21番)の中の20番なので、終わりに近い番号で、新しい世界が始まる一歩前のカード。
再び世界に生まれる者に、どんなスペックが与えられるか天使が審判を下すような絵柄のカード。
健康、容姿、才能、知能、血筋、家柄のようなスペック。どんな親の元に生まれるかも入るだろう。
世界が老成した段階である20番から始まったネリの人生は、こどもが大人の苦しさを生きることを要求されるような、年齢に似合わず過酷なものだった。人生の初期に、与えられたスペックと戦うことに遭遇しているみたいに。
ネリの空想の中で、ブランコに揺られながら、夢は何?と問われてネリが語るシーンのセリフの中には、また別のタロットカードが登場する。
「魔術師」の元で暮らすの、というネリの夢。「魔術師」は1番のタロットカードである。
ほぼ始まりの番号のカードで、スタート地点に立つ者、これから新しい人生をスタートするのに必要な道具を手にしている者が魔術師。
始まったばかりの希望と健やかさを持った魔術師のカードこそ、こどもや若者にふさわしいカードだが、ネリが大人になった今でも、手にしていないカードであることがわかる。

あきらめないエネルギーを感じさせる大阪弁
ネリの血縁のない弟、ジョー(山田涼介)の誕生日は不明だ。
きっとネリと同じく、ジョーも、生まれたときに老成した番号のカードを持つ者だったのだろう。
少女のころに、少年のころに、過酷な世界を共に生きたふたりなのに、ふたりとも「きれい」なエネルギーが失われていないのは、安藤サクラと山田涼介という役者の力もあるだろうし、ネリとジョーが、人生を「あきらめていない」からでもあるのだろう。
加えて、大阪弁の醸し出す生命力もあるなあ、と思う。
ネリの、ジョーの、取り巻く人物たちが発する、生きようとするたくましさが滲む大阪弁のトーンがなければ、この映画の魅力は成立しないと思う。

ゼロに向かって走っていく
アクティブなヒロインに見えるけれど、ネリは意外に走らない。冒頭のネリは「歩く」シーンが印象的。
でも、物語が進んでいった先に、ネリの希望に満ちた美しい「走る」シーンに、必ず出会うことができる。
20番「審判」のカードで自分に与えられたスペック(周囲の者からの暴力も愛情も含めて)を、すべて使い切り、破壊したあとに、ネリはゼロ番のカードを手にするために、走り出していく。とっておかれた、とっておきの「走る」ヒロインの姿だと思う。

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