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京大ロー2年前期の授業紹介と使用教材

2年前期の授業もという声がありましたので、必修である基幹科目の授業を紹介します。さすがに前回までの投稿は長すぎたので、今回は授業雑感と使用教材についてざっくりと書いていこうと思います。授業については講義の概要とソクラテスの実施方法、教材は指定されたものと役に立ったもの等が主な内容になりますので、ご参考になれば。



民法総合1

・授業内容
 民法のうち、債権総論の一部と契約法がメインで、一部不当利得と総則を扱います。この授業の特徴は、複雑な事実関係や法律関係を要件事実に基づき整合的に論ずることが求められる点です。後述する基本書の類の記載を漫然と読み込むだけでは足りず、それらを訴訟物・請求原因・抗弁・再抗弁等として位置づけて理解することが必要不可欠であり、授業での問答や期末試験でも、一つの作法としてこれに則った解答が必要です。具体的には、問題となる条文を選択したうえで、その法律要件を主張立証構造に従い整理し、訴訟物は何か?請求原因は何か?○○という主張は抗弁か予備的抗弁か、などを答えていくことになります。なお、授業後に扱った分野に関する要件事実表やレジュメが配布されますので、事前学習段階で完璧に要件事実の整理が出来なくても、復習で理解すれば充分です。
 ソクラテスは基本的にやさしいですが、中途半端な回答ではなかなか放してくれません。ただ、厳しく追及される訳ではなく適切な順序で解答して欲しいという趣旨のようで、いきなり論点に飛びつかず、まず根拠条文をちゃんと指摘する、定義を正確に述べる等の当たり前のことを守ればいいので緊張しすぎないようにしましょう。たまに予想外のことを問われることもありますが、ある程度誘導もしてくれるので慌てず自分なりの答えを述べれば大丈夫です。
 当てられる順番は、YSMS先生なら座席の列か島をランダムに指定しますが、そのあとは座席順です。YMK先生は一定の法則があると言われていますが傍目にはエニグマ暗号機でも使っているのかってくらい規則性が謎だったので実質完全ランダムでした。なおYMK先生は来年度からは民法総合の担当から離れらるようです。

・指定教材
 特定の基本書は指定されませんが、プラクティス民法債権総論、基本講義(潮見イエロー)、中田債権総論・契約法、この他に類型別や新問研等が参考文献に挙げられています。要件事実対策として大島本を使用する人も多いです。
 授業では上記の書籍には記載のない要件事実を問われることが多く、私は東京弁護士会『債権法改正にみる要件事実 攻撃防御上の位置づけと論証例』、岡口要件事実マニュアル、要件事実入門を参照していました。また、司法試験の過去問と全く同じ論点が問われることが多く、復習も兼ねて起案するのもおすすめです。
 なお、高度な議論とはいえ、入門書レベルの基礎的な理解から条文を解釈し、要件事実論に従い整理することがコアになっていると思いますし、問答や試験も基礎事項の確認が主たる内容であり、闇雲に基本書を読むよりストゥディア契約法、債権総論、不当利得を読み込んで不足分は授業資料で補完するのが省エネでいいのかなと思います。ストゥディアは民法総合1の主な内容を策定した山本敬三先生が監修しており、平易な記述というだけで民法総合と重複する内容も多いので、かなり参考になると思います。

商法総合1

・授業内容
 会社法事例演習教材の第1部を扱います。事例に対して細かい設問をひたすらソクラテスで確認していきますが、問答自体はあっさりしています。
 第1部は司法試験に頻出の分野が主な学習範囲なこともあり、常用する論証をブラッシュアップしたり、あてはめで拾うべき事実や評価方法を詳細に教えてくれるなど試験対策としても有用でした。講義も非常に分かりやすいので会社法の理解が深まります。ただ、やはり扱う分量が非常に多くなり期末試験直前に復習できる分量ではないので、日頃から調べものはほどほどにして一元化をしていくことをおすすめします。
 ソクラテスは基本的に座席順に進みますが、先生によっては途中でスタート位置が変わったり回により進み具合が大きく異なったりするので予想が付きづらいこともあるようです。

・指定教材
 江頭会社法や龍田会社法大要が指定されていますが、頑張れば紅白本や田中会社法でも対応可能です。ただ、やはり江頭はあったほうが良く、後期でも頻繁に参照するのでいまのうちに買っておいてもいいと思います。また、会社法判例の読み方が参考になりました。
 このほか、岩谷『会社訴訟の要件事実』がおすすめです。会社法に要件事実は必須ではないものの、事例演習教材で問われる事柄は多岐にわたり膨大な知識が必要になる一方、これらも結局は条文同士の関係や個々の法律要件を訴訟要件のどこに位置づけるかに収斂されると思われ、その整理のためには同書が有用です。筆者の先生も司法試験委員の経験があり、記載も過去に司法試験で問われた論点に限定されている他、事例演習教材第1部自体が司法試験を意識した内容でもあるので、かなり復習が効率的になると思います。もちろん、これに授業の答えが全て書いてある訳ではありませんし、あくまで理解の一助として有用ということに留意してください。授業の一元化は任意の論証集やノートにして、同書でそれらを整理するといった使い方になるかなと。

民事訴訟実務の基礎

・授業内容
 裁判官の先生が担当する授業で、主に要件事実論を扱い、最後の数回で民訴の証拠(主に書証)や民事執行法などを扱います。予備試験の実務基礎科目の発展形ですね。授業自体は予習の負担も軽く、問答も確認的なものです。講義だけなら新問研だけでも対応可能だと思います。
 ただし、3.4回に1度の頻度で課される課題が非常に大変です。長文の事実を要件事実に沿って整理するものですが、非常に細かい要件事実を調べる必要があり、少なくとも大島本だけでは太刀打ちできません。みんなできないので適当なところで切り上げて提出していると思われます。ちなみに、本気で解こうとすると司法修習かそれ以上の知識が必要になると先生は語っていました。基礎体力作りのために、あえて難しくしているとのことです。
 また、期末試験も入学後に過去問を参照されるとわかると思いますが、およそ試験時間内に解けるものとは思えませんでした。というか仮に時間があっても解答用紙が足りなくなるような...。とにかく最低でも訴訟物と攻撃防御構造を絶対に間違えないように基礎的な理解を盤石にしておくことが重要です。

・指定教材
 類型別と新問研が教科書に指定されていますが、多くの人は大島本を利用しています。民法総合でも要件事実を扱うので期末対策としてはこれで充分かもしれません。
 私は、岡口要件事実入門司法試験予備試験出題形式編をおすすめします。民実では要件事実の理解の他、文書の作法が非常に重視されますが、同書はこれに忠実な書式で解説と解答例が付されており、かなり便利だと思います。掲載している要件事実も多く、授業対策にも試験対策にも役立ってくれるでしょう。このほか、参考文献として民事判決起案の手引きが指定されていますが、同書は巻末に要件事実に基づいた事実摘示記載例が付いているので、課題を解くときや試験対策で非常に参考になりました。
 ちなみに、課題があまりに難しかったので岡口要件事実問題集を参照しましたが授業の課題の方が難しかったですし、そこまでやるより大島本に書いてあることを全て即答できるようにした方がいいです。
 民事執行法民事保全法は、配布されるレジュメで充分ですが、不安なら和田先生の青い本がおすすめです。

刑法総合1

・授業内容
 共犯論以外の刑法総論部分を扱います。教材であるケースブックの設問は高度かつ難解で、一応は参考文献にあたったり基本書を複数冊読み込んで比較検討してもみましたが、私の頭では結局のところ何が何だかさっぱりでしたね。こうした教材の問題もあってか、先生により設問を大幅に修正・省略したり、そもそも独自の質問票を作成して配布するなど、学生の便宜をよく図っていただけます。
 判例を前提に主に学説議論に正面からかかっていくので、全部自力でなんとかするより先生の解説をちゃんと聞いた方がよく、予習に時間をかけるのは得策ではないように思います。基本刑法など普段から使っているものを読み込んでしのぎましょう。ケースブックの設問そのままの場合、本格的な基本書を持っていても複数冊参照しないと(しても)答えられないようなものが多いので、手を広げ過ぎると沼に嵌ります。悩みどころを活用しましょう。
 また、3,4回に1回の頻度で事例問題を検討する回があります。こちらは、まず問題になる論点を全て挙げて、次に個々の論点につき検討させる形で進みます。過去の期末試験や司法試験の類題、または完全オリジナルの問題が配布されます。あまり学説には踏み込まず、論点処理に重点を置いた授業になり、答案構成についても解説してくれることがありますので、頑張って取り組まれると大きな収穫が得られるでしょう。
 ソクラテスは基本的に名簿順ですが、年により変わる可能性があるので注意してください。

・指定教材
 ケースブック刑法が指定されます。総論部分は特に難解で、まともに勉強しても太刀打ちできません。山口刑法総論、西田総論、井田講義刑法学、問題探究刑法総論など複数冊を参照しましたが、これらを闇雲に読んでも意味は無かったと感じます。その点、橋爪先生の悩みどころが検討に必要なことを判例や有力な基本書、論文等から引用してくれているので、参考書はこれで充分かと思います。このほか、判例ラクティス刑法総論が予習で課題を解くのに非常に役に立ちました。あとは試験対策として十河先生の刑法事例演習が参考になりますし、徹底チェック刑法は極限まで圧縮した基本刑法といった具合に定義や構成要件、論証などが非常によくまとまっており、加筆修正により復習効率が大幅に向上したので大変おすすめです。

刑事訴訟法総合1

・授業内容
 捜査法を主に扱います。ケースブック刑訴の問いが事前に指定され、これにひたすら答えていきます。設問は相当細かく、基本刑訴やリークエでも足りないことが多いため、川出先生の判例講座が重宝します。問いの答えがそのまま書かれていることも多いです。問答まで完璧にしようとすると古江刑訴も必要になると思いますが、少々オーバースペックかと思います。そのほか、授業では学説や理論面の議論より、判例の事実を評価することに重点が置かれており、そこは試験対策としても有用です。
 ソクラテスはIKD先生なら座席順ですが、HRE先生だと、あいうえお順で一定の集団(か行・な行等)をランダムに指定し、あとは順番に進んでいきます。

・指定教材
 ケースブック刑事訴訟法が指定されます。教科書はリークエが参考文献に挙げられています。ただ、試験対策としては基本刑訴をひたすら読み込むので充分です。川出判例講座は設問を解くのには必須と言っていいでしょうが、試験前に復習するには情報が多すぎるので、普段から必要な部分を一元化しておくことをおすすめします。
 期末試験自体はそこまで変な論点を問われることはないものの分量が膨大で考えている時間が少ないので、あまり授業に深入りせず普段から基本的な論点を素早く処理できるように勉強しておくとよいでしょう。

行政法総合

・授業内容
 行政法の総論から救済法まで全体を扱います。ケースブックを用いて設問を解いたり、先生が配布する授業資料をもとに問題を検討する形で授業が進みます。内容は高度な割に行政法全体を扱うので個々の論点はあっさりで、授業だけではあまり身に付いた感じがしないと思いますので、しっかり自習しておきましょう。
 担当する先生のうち、SD先生が未修者向けに作ったオリジナル教材が既修者の間でも重宝されているようでした。ソクラテスは座席か名簿に沿って進みますが変則的で、一定まで授業が進むと講義形式に移行しました。

・指定教材
 ケースブック行政法が指定されます。掲載判例の数が多いのは魅力ですが解説はあってないようなものなうえに設問も良く分からないので、買ったはいいものの全く使っていない人も多かったと思います。判例学習は今なら中原先生の基本行政法判例演習があるのでこれもありですね。試験対策としては基本行政法と、可能なら事例研究を何回も読みましょう。

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