翻訳『Mark Manders / House with All Existing Words』(マーク・マンダース / すべての言葉のある家)
「マーク・マンダースの不在」展は、「ヴォーニング・ヴァン・ヴァッセンホーフ」で行われた。この建築は1974年、ユリアン・ランペンズがある独身者のために設計したポスト・ブルータリズムの邸宅である。ブルータリズムの建築はすっきりとしてほとんど物がない場合が多いが、それとはまったく対照的に、2012年に亡くなるまでこの家に住んだアルバート・ヴァン・ヴァッセンホーフは物にまみれて暮らしていた。
「マーク・マンダースの不在」展は、ランペンズの建築を不朽の彫刻として敬意をこめて取り扱いつつも、ヴァン・ヴァッセンホーフゆずりの収集癖を発揮してもいる。つまり本展は、ランペンズ建築ーー幾何学的で明快なフォルム、均整の取れたプロポーション、統制された素材づかい(打ち込みのコンクリート、パイン材、ガラスなど)ーーへの最初にしてもっとも重要なオマージュなのだ。マンダースは、作品や自身がデザインした家具を空間に配置し、建物のもっとも純粋なフォルムの強調を試みる。せっけん、角砂糖、トイレの便座までアーティストによるものだ。一方、かつての邸内の写真をもとに、元の持ち主が置いていたと同じ場所に、電話機やマンダースにより再演・再撮された新聞写真のポストカードが置かれてもいる。そう考えると、マンダースによるささやかな介入は、突如、別のロジック、つまり収集家のそれに転化する。
マンダースがほとんど手をつけていない空間もある一方、ベッド、デスク周り、キッチンはまるで元の持ち主の思考をなぞるような、物、物、物の集積の舞台のように扱われる。そこでは、ドローイング、建築のプロポーザル、写真、アートワーク、ペンキ入れ、湿ったように見える粘土が互いに積み重ねられている。これらの場所は、あるアーティストのスタジオとして使われていたが、ランペンズ建築を尊重して、ヴァン・ヴァッセンホーフのあとに住んだ住人の痕跡は取り除かれていた。マンダースは言う。「この家を完璧な状態で見せるのが本展の目的です。ですが、場所によってはうまくいってないように思えるところもあるかもしれません。だとしても、頭のなかをのぞきこむような、万華鏡のような効果はあると思います」
ローレンス・オットー(キュレーター、エディター)
Mark Manders / House with All Existing Words
An exhibition in Juliaan Lampens’s Woning Van Wassenhove
Roma Publications / 64ページ / ソフトカバー / 200 × 270 mm / 9789464460490 / 2023年
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