【おとなりさんちの話】ぷくぷくほっぺ@有田町
こどもたちが安心して過ごせるように、と考える上で、同時にその状態を作っていくには、周りにいる保護者や大人自身が、元気で過ごせるように支えなくてはいけないことに気づくことがある。「こどもまんなか」が守られるように、育てる大人側も大事にされなければならないのだ。
「こどもが元気でいるためには、育てる大人が元気でいないといけないなって思うんです。」と話すのは、約1年前にこども食堂の取り組みをはじめた末次和子さん(以下、末次さん)だ。こどもを育てながら、自身にできることとして取り組んでいる。こどもだけではなく、同じ地域でこどもを育てる親の「おとなりさん」にもなろうとしている素敵な実践を紹介したいと思う。
取り組んでいるのは有田町の生涯学習センター。近くの小学校から歩いてすぐの所にある施設で、いつも、こどもたちは学校が終わって放課後に参加しているのだそう。この日は祝日で学校はお休みだったので、夕方ではなく朝から昼にかけて場を開けていた。こどもたちが宿題をしたり、本を読んだり、追いかけっこをしたり自由気ままに過ごす中、隣の調理スペースではお母さんたちや地域のボランティアの方々がお昼の準備をしている。小さいこどもたちは、調理しているお母さんがいると側に駆け寄っていけるし、保護者もこどもがすぐ側にいるので安心なのだろう。
末次さんは、調理の方にも目を配りつつ、こどもたちの方にも入っていて一緒に話をしている。「絵を描くのが得意なんだよ」と言いながら、こどもたちに絵を見せる末次さん。「え〜上手だね!」とこどもたちからリアクションをもらって、まるで友だち同士にように盛り上がる姿は、顔馴染みの「おとなりさん」だからこそなのだろう。
この日はお父さんもお仕事が休みだったことから、一緒にこどもたちを見守っていて、話を聞いてほしいこどもたちが「ねえ、あのさ」と話をしていた。「いつもは、仕事で来られないんですけれどね。」と笑顔を浮かべながらこどもたちに関わる。いつも、すぐそばにいて話ができる相手がいることは、こどもたちにとって心地が良いようで、周りには絶えず誰かがいるようだった。
お昼の準備ができると、末次さんは「みんなお昼ご飯ができたので用意をしましょう!」とまるで学校の先生のように呼びかける。高学年のお姉さんたちは積極的に机を拭いて準備をしていて、低学年で、はしゃぐのが大好きな人たちは友だちや兄弟と一緒に過ごせることそのものが、とても楽しそうな面持ちで過ごしていた。ご飯を食べることだけではなくて、きっとゆっくり自分たちの時間を過ごせることが嬉しいのかもしれない。
末次さんは普段、看護師として病院で勤務されていて、食事が人の体にいかに影響しているのかを感じているのだという。だから、こどもたちにも栄養のあるご飯を食べてほしいという思いが、この取り組みの背景の1つにある。無理はしなくて良いけれど、栄養のある食事をとって元気に過ごしてほしいという願いが込められているように思う。朝ごはんを食べる習慣がないこどもがいることも気になっていると、この日は、時間のない朝でも食べられるものを渡せるように用意していた。
お昼を食べ終えると末次さんは「今日は、牛乳でプラスチックを作ろう!」とまるで自由研究でやるような実験を用意して、こどもたちに声をかけ始めた。通常は平日に実施をしていることが多く、ご飯を食べた後のこどもたちは、宿題をするのに精一杯なようだが、祝日の時くらい何かしら楽しめるようにと、知恵を絞っておいたそうだ。末次さんはまた、先生のように皆んなの前で解説をし始めた。「これは土に埋めたら土に戻るから、環境に優しいんだよ。」「今日は⚪︎人いるから、牛乳はどのくらい必要かな?」という説明に呼応するように、こどもたちも興味津々な様子で眺めたり、感想を言い合っていた。
末次さんが教える役となって話をしているけれど、周りの大人の皆さんも「どうなっているんだろうね」「見えるかな?」と気にかけていて、全員が参加者になっていた。誰かがやってくれているから任せよう、ではなく、一緒に楽しんで学んでみようという姿勢が、大人の皆さんにもあるように感じる。こどもたちも、興味があったり、無かったり、それは人それぞれだけれど友だちや保護者と一緒に何か同じものに取り組むこと、そのものがきっと楽しいのだろう。「上手だね!」「真似しないでよ」「え〜もう時間ないよ」と授業の一コマに紡がれる会話のような声が聞こえてくるのだった。
末次さんは自身のこどもを育てている過程で大変だと感じたことや、周りの保護者から悩みの声を聞いていることから「もっと大人にも助けが必要なんじゃないか」と思ったそう。「こどもが元気でいるためには、育てる大人が元気でいないといけないなって思うんです。一方で、働かなくては育てられない現実もあると感じます。」こどもの居場所は、こどもを育てる大人がしんどくなってしまわないように、自分ごととして取り組んでいるものでもあるのだ。おそらく、そんな末次さんの思いに共感し、周りの大人の皆さんも集まっていて、より日々を暮らしやすくするための実践として参加しているのだろう。
大人もこどもも心地よくいられるようにしたい、という思いは、こどもたちにもちゃんと伝わっているようだ。末次さんはノートを作って毎回、こどもたちに感想を書いてもらっている。「遊んで楽しかった」「みんなが優しくしてくれる」「クラスで離れた友だちと会えました」など、こどもたちの率直な声が綴られていた。末次さんはその1つひとつの声に「ありがとう」「待ってるよ」とコメントをしているのだ。きっと、こういうやりとりがあるから、こどもたちも「自分を気にしてくれる人がここにはいる」と思えるのでしょう。学校帰りでも、いつか町から離れたあとでも、色々な場所から帰ってきてほっとできる場所を目指しているといいます。
こどもを大事にしたいという気持ちと、こどもを支える大人が元気でいたいという気持ちは、一緒になって地域を描けていけるように感じます。
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ぷくぷくほっぺ
おとなりさん:末次さん、地域の皆さん
おとなりさんち:有田町生涯学習センター2 階 調理実習室
月一回 第 3 月曜日(祝・祭日は変更有)15 時から 18 時
詳しくはこちら(LINE)▷https://lin.ee/oXPJwgL
instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/
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こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。
編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)
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