【小説】それゆけ!山川製作所 (#11 椿木 哲人&立川 ユキ①)

どうも皆様こんにちは。
株式会社山川製作所、代表取締役社長の財前でございます。

黒川の奴の助言から始まったこの小説も、前回で無事10話を迎えることができましたねぇ。
物書きとして未熟なこの私がこうして更新を続けられるのも、我社で働いてくれる多くの社員のおかげ。
彼らの豊かな人間性があってこそ、私はこうして文字を綴ることができるんですねぇ。
いやいや、感謝しかありません。
感謝感激雨あはれ。ああ、いとをかしってねぇ。

……でね。
今回のお話なんですけども。

今までは、各社員1名に焦点を当てて紹介をしてきたわけなんですけども、今回は2名を一緒に紹介できればと考えているんですねぇ。
それが椿木 哲人(ツバキ テツト)君と、すでに一度登場している立川 ユキ(タチカワ ユキ)さん。

まぁ今までも田中課長や西園寺さん、それにもちろん立川さん。
お話の中で出てくる人物はいたのですが、こうして表題に2名を名を連ねるのは初めてのことになるんですねぇ。

いや皆さんこれね。

実は2人はそれぞれ人間として非常に魅力的な部分がある人物なんです。
正直、個人個人で書いたってぶっちゃけお話自体は書けるわけなんですよねぇ。
1人1人書けば、前半と後半、そして私の独り言が加わって、合計6話分のお話が書けるわけなんですねぇ。

私の物書きの端くれです。
ここでは記事数、更新頻度が重要なこともわかっています。

なるべく小分けにして、記事数を積み重ねた方が良い。
多くの人々の目に留まるよう、毎日でも更新した方が良い。
そして、それらの記事が上記2つの狙いを感じられない程度の絶妙な文字数量であれば、なお良い!!

……っと。
私は山川製作所の社長であり、趣味で物書きをやっているんでした。
急に何を言っているんだか……。

とにかく、そんな状況であったとしても、私は2人を一緒に紹介したいと思ったんですねぇ。
いや、2人でなければ意味がない。

これからのお話の中で、皆様にその理由を自然と感じ取っていただいたのであれば、それは私にとってこの上ない喜びとなるんですねぇ。



俺の名前は椿木 哲人。
株式会社立川製作所の営業部営業二課に所属する、何の肩書もない入社4年目の平社員だ。

この会社の花形部署は、言わずもがな営業部営業一課。
当然ながら、素晴らしい『YAMAKAWA』製品を生み出してくれる商品開発部や生産部、そして会社全体の環境を整えてくれる総務部など。どの部署であっても利かない重要な役割を担っていることは理解している。
しかし、売り上げという会社存続に不可欠な数字を最も稼ぎ出している営業部営業一課に注目が集まってしまうのは仕方がないことなのだろう。

ただ、二課だって負けちゃいない。
全体の数字こそ劣ってしまうのだが、個人別で見れば一課員よりも数字を上げている社員だっているんだ。
各課に定められたターゲットの母数に差があるせいで、どうしても課全体の数字が一課より少なくなってしまっているだけ。

こんなことを言っていたら、まるで一課と二課に確執があるように聞こえてしまうかもしれない。
ただ、俺は別に同じ会社内で勝った負けたって話をしたいわけじゃないんだ。
今俺が言いたいことは、自分がそんな二課の一員として在籍できていることに驚いているってことだ。

学生の頃の俺から見たら、到底信じられないことだろうな。


学生の頃、俺は毎日喧嘩に明け暮れていた。
最初は別に好んで喧嘩してたわけじゃない。たまたま絡んできた奴を返り討ちにしただけだった。
ただ、その時に一種の快感を覚えてしまった。
いつしか俺は強いやつを見つけては片っ端から好んで喧嘩を吹っ掛けていくような奴になってしまったわけだ。

体格に恵まれていた俺は負けることはなかった。
学年なんて関係ない。たとえ年上が相手であっても、苦戦を強いられることすらなかった。

そして、その事実が俺を増長させていく。

気づけば、校内で俺に戦いを挑むような奴はいなくなってしまい、いわゆる番長にみたいなポジションに収まっていた。
当時の俺は、強いやつが一番なんて考えてしまっていたんだ。

もちろん、今はそれが愚かな行為だったことは理解している。
どんなことがあっても、暴力に訴えることなんてしてはいけない。

中には喧嘩を望まない奴もいたのに、俺は無理やり挑んでしまったこともあった。
とにかく、上か下かという序列を決めずにはいられなかったんだろう。
そんなこと、何の意味も持たないというのに。

そのことに気づいてからは、俺は一切喧嘩をしていない。
そしてこれから先も絶対にしないと思う。
それが、ある奴との約束でもあるしな。

突然だが、人生において俺は一生頭が上がらない相手が2人いる。

1人目は、この株式会社山川製作所の取締役専務である黒川専務だ。

実は、山川製作所で役員面接を受けた時、俺は自分の愚かな過去を隠すのがどこか卑怯に感じ、面接官であった黒川専務にかつて行ってきたこと全てを話していた。
自分が一生働くかもしれない会社に対して後ろめたさを抱えたまま就職したくないと思ったんだ。
これで落とされたらそれまでだと思っていた。

しかし、なぜか黒川専務は俺を採用してくれた。

社内の基準に沿えば、俺は確実に落とされていただろう。
おそらく、専務が何らかの働きかけをしてくれたとだと考えている。
専務は俺の話に真剣に耳を傾け、俺という人間の過去と現在、そして未来に真正面から向き合ってくれたんだ。
こんな俺を拾ってくれた専務には一生頭が上がらない。
(時々変な語尾を使うのが気になるが……)

そして2人目なんだが、偶然にも黒川専務同様にこの山川製作所で働いている奴なんだ。

そいつは俺の幼馴染で、小さな時からずっと隣にいてくれた存在。
かつて俺をまともな道に引き戻しくれた恩人。

それが、総務部秘書課の立川ユキだ。
ちなみに、二度と喧嘩をしないと約束を交わした相手でもある。

ユキのおかげで俺はまともな人間になれたし、こうして山川製作所という大企業に就職することもできた。
かつて何があったのかは、またの機会に取っておくとして、とにかく俺はユキにはすごく感謝している。

容姿端麗で人当たりも良いユキは小さなころから人気者で、いつも多くの友達に囲まれていた。
当然男からの人気も絶大で、学生時代は何人の男どもがユキに告白したかわからない。
幼馴染だって理由で、俺も何回ユキへの取次ぎを頼まれたことか……。

当時の俺は周りからもかなり怖がられる存在だった。
そんな俺に対して頼み込んでくる奴が結構いたんだ。
ユキの人気のすさまじさがわかる。

山川製作所に入社してからも、すぐにユキは会社中で噂されるようになった。
容姿だけではなく、心も綺麗な新人。
しかも仕事もできるときてる。

社内一のマドンナとして評されるのにも、そう時間はかからなかった。
今では、非公式ながら社内にファンクラブなんてものも存在している。
昔からあいつは見た目と外ヅラだけは良かったからな……。

ただ俺は社内の男性諸君に言いたい。



だまされるな。



会社でのあいつは完全に猫を被っている。
というか、プライベートでも本当の自分を見せている相手なんてごく一部だ。これは学生時代も同じだった。

そもそも、いくら幼馴染とはいえ、学校一の不良に好き好んで何度も声をかけてくるような奴がまともなわけがない。
素のユキはそりゃもうハチャメチャで、突拍子もないことばかり言ってくるんだ。

今日だってそうだ。
出社した俺がデスクの引き出しを開けると1枚のメモが入っていた。

『今日の昼休み、20階の第2会議室に来て♡ byユキ』

嫌な予感しかしない……。
ただ、それでも行くしかない。俺は一生あいつには頭が上がらないんだ。



昼休み。
俺は社内用の打ち合わせ室が集約されている20階へと移動した。
休み時間にわざわざ会議室を利用して打ち合わせをする社員なんていない。
フロアはしんと静まり返っていた。

指定されたのは第2会議室。
俺はすぐに扉の前まで移動すると、改めてため息を吐く。

(……まったく。今度は何をするつもりだ?)

本当に気が進まない。
あの立川ユキからあんなメッセージをもらえば、喜ぶ男性社員はたくさんいるだろう。
ただ、俺にはわかっている。
おおよそ予想されることなど、一切起こらないのだ。

まぁぐずぐずしていても仕方がない。
俺は意を決して、第2会議室の扉を開け放った。



「お?てっちゃんオッスー」



間の抜けた声が俺を迎える。
声の方に目を向けると、机の上に胡坐をかいて、片手でサンドイッチを頬張るユキの姿があった。
……スカートで胡坐をかくんじゃない。まったく行儀の悪い。
ただ、ここで注意したところで無駄だ。
そんなことは、今までの経験で嫌ってほど理解している。

この姿を社内の男性が見たら、『山川製作所のマドンナ、立川ユキ』のイメージは一気に崩れ去るだろうなぁ。
心のどこかでそんなことを考えながら、俺はユキに声をかけた。

「んで、何の用なんだ?わざわざあんなメモを机の中に入れ……」

ここで、会議室に足を踏み入れた俺はあるものに気が付いた。

……なぜか、三脚で固定されたカメラが2台立っている。

当然、もともと会議室にカメラなんて設置されていない。
どちらもユキが設置したものだろう。

「……おい。なんだこのカメラは」
「むふふふー」

俺が訝しげに声を上げたところで、最後の一口を食べ終えたユキはいたずらっぽく笑う。
そして、机から飛び降りると、ズンズンと俺の元まで近づいてきた。

「はいこれ」

正面まで来たユキは下から俺の顔を見上げ、束になった紙を手渡してきた。

訳も分からず受け取り確認してみると、厚さにして20枚ほどの紙の束。
ぺらぺらとめくってみると、中には何かびっしりと文字が書かれている。

当のユキは、紙の束を手渡すだけ手渡すと、何の説明もしないまま元いた机に戻ってしまった。

「おいユキ。説明くらいしろ。こりゃなんだ?」

当然の反応だ。
今の俺はこの紙の束が何なのか全くわからないし、そもそもなぜ会議室に呼び出されたのかもわかっていない。
昔からこいつは何かを説明するってことをしない。
見りゃわかんだろ精神がひどいんだ。
その証拠にユキは、何言ってんだこいつ?って顔で振り返り、こう伝えてきた。


「え?いや、台本に決まってるじゃない」


ふぅ……。


……マジで何するつもりだこいつ。




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