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「九十九神(つくもがみ)と聖剣娘(けんむす)」第2話 作:筆塚スバル(ジャンププラス原作大賞連載部門応募作品)

少女の透けるような白い肌に腰まで伸ばした銀髪が映える。
赤い瞳は宝石のように輝いていて、精いっぱいの笑顔をオレに向けてくれていた。
表情は少しぎこちないようだけど……

生まれたままの姿でオレを見つめる少女を思わず抱きしめた。
……少し冷たい。

「よし、よし」

少女はオレの頭を撫でてくれた。

「そのまま寝ると風邪を引くからね。
ベッドに行こうね」

少女はまるで小さな子を寝かしつけるようにオレをベッドに連れて行った。

「一緒にいるからね。
ユーリ、寂しくないからね。
眠れるまで一緒に手をつないでいようね」

彼女の小さな手は冷たかったが、次第に温まっていく。

「ユーリが私を大切にしてくれたから、私は神様になれたんだよ。
ヒトから愛されなくても、ずっと私たちが見守っているからね……ユーリ、ずっと一緒だよ」

オレはずっと声をあげて泣いていたけど、少女は何も言わずずっと抱きしめてくれた。
少女の手が、体が心地よくて。
オレは優しさに甘えた。

「……名前を呼んで欲しいな」
「……オレは、キミの名前を知らない」
「あ、そうか。
私はユーリのことを知ってるんだけどね……私はハガネ。
ユーリの相棒だよ、ずっとね」

ハガネは一晩中側にいてくれた。

☆★

久しぶりにゆっくり眠れた。

朝起きると顔と手に、ぽよぽよした感触を感じる。
何だろ、これ。
泣きはらした目をこすった。
このもちもちとした心地よい感触のものは何だろうか。

ふと、上を見ると優しく包み込むような微笑みがあった。
銀髪の少女、ハガネと目が合った。

「くすぐったいよ」

え?
周りを見渡したオレはハガネと寄り添うように寝ていたことに気づく。

じゃあ、あのぽよぽよしたものは……。

ようやく今の状況を理解したオレは、慌ててベッドから飛び起きた。

「ユーリ、もう大丈夫?」
「あ。……うん」

オレは昨日ハガネの胸を借りて泣いた。
ホント言葉の通りに借りてしまったものだから……気恥ずかしくて、まっすぐハガネの顔が見れなかった。
オレはタオルを取ってハガネに渡した。
ハガネはオレの涙で濡れていたから。

「ありがと」

ハガネは自分の体の前を拭き終えたようだ。

「後ろは自分じゃ拭けないんだよね」

肩越しに差し出してきたタオルを受け取ってハガネの背中を拭く。
吹き上げた後も、しばらく陶器のように白い背中を見ていた。

「ユーリ、拭き終わったの?」
「あ、ああ」

オレはしばらく見とれていたらしい。

「私も起きるよ」

そのまま、ハガネは起き上がったけど、何も着ていないのでオレには刺激が強い。

「服は持ってないのか」
「持ってない」

元は剣だからな。
オレのお古だがこれでいいか。
オレは大きめのローブを渡す。

……ハガネ、そんなもん嬉しそうに着るなよ。
あとでキレイな服でも買ってやるとするか。

「さて、こんなところに長居は無用だからな。出発しよう」

立ち上がり窓から外を見ると、ソフィアたち勇者パーティ一行は出発式の準備をしていた。
王都を離れる前にお返しだけはしっかりしておかないとな。

「さて、勇者が魔王退治に行く前に、勇者退治をしないとな」
「昨日は負けたんでしょう。大丈夫?」

ハガネはオレの顔を上目遣いで覗き込んだ。

「昨日はハガネがいなかったからな。
今日はいてくれるんだろう?
だったら大丈夫だ。ハガネ、一緒に行こう」
「うん!」

飛び上がって喜ぶハガネと一緒に部屋を出た。

☆★

勇者パーティの出発のために祝砲があがった。

城門から少し離れた所でオレとハガネは勇者ソフィアたちを待ち伏せしていた。

「よお」

できるだけ軽快にオレは語り掛けた。
変に構えられたくなかったから。
ソフィア達はこちらに気づくと、魔法使いロランは怯えて後ずさった。

「お前が何で生きてるんだ! 胸に大穴開いていただろうが。
その後、念のため【氷の槍(アイスジャベリン)】をぶっ刺して【岩石圧(ストーンプレス)】で押しつぶして【爆裂魔法(イクスプロージョン)】までかけておいたのに!」
何の恨みがあるんだよ、陰険すぎるぞ。友達じゃなかったのか?

「ロラン、そこまでオレが憎いか」
「ああ、そうか。
お前、化けてでてるのか。
それか、アンデッド……これでもくらえ!」

ロランお得意の火球が飛んできた。
こんなもの! 裏拳で軽くはじく。

パシィン!

「はあ?」

一応、こんな陰険ヤローでも国内最上位の魔法使いだ。いとも簡単にはじけてしまって、自分でも驚く。
あれ、オレこんなに強かったっけ。

「な、何があった?あわわわわ。
デ、データだ!データを見よう」

ロランがオレにステータス鑑定魔法をかけた。
オレは自分では使えないのでありがたかったけど。

「【戦士の加護】が発動して、ステータスが強化されてる!」

ロランは石板を持ち上げながら叫んだ。

「へー。
【戦士の加護】……死にかけたら強くなるだったっけか。
そりゃあ、ロランのお陰かもなあ、ありがとうな。
クソヤロー!」

オレは魔法なんて使えないから。お前が教えてくれたんだよな。
この加護の能力をカッコいいって言ってくれたのもお前だったな。

「よくも胸に大穴開けた状態で大魔法何発も食らわせてくれたなあ、コノヤロー!
おかげで強くなってしまったじゃねえか!」

というか、オレなんでその状態で死んでないんだろうな。

「フン、甦って強くなったつもりか? さっきの戦闘は私も不服だったんだ。
誰の手も借りずともお前ぐらい倒して見せるさ。
お前ら、手を出すなよ」

ソフィアがオリガとロランに念を押した。

補助魔法陣を書いていたロランがソフィアを問い詰める。

「そこまで言うならちゃんと始末はつけられるんだろうな」
「私は誰の手も借りずともだれより強いと証明して見せる。
見せなきゃいけないんだ! そう……お前のクビを取ることで」
ソフィアは剣を構えた。

「だれだ、その女」

オレと目が合うとハガネは瞬時にヒト型から剣へと変わり、オレの右の手のひらへと収まった。
フフ、さすが相棒だな。
言葉をかわさずともオレの望み通りになってくれる。

「オレ一人しかいないが? 目でも腐ったか? 勇者様」
「見間違いか? いや……まあいい。
さっさと片をつけよう。
死にぞこないが!」

目をこすったソフィアは、大きく息を吐くとオレに向かって笑ってみせた。
戦うのが楽しいってのか、この戦闘狂が。

オレも昨日とは一味違うぞ? 覚えたてのスキルの威力を味わえ!

「九十九神よ。
我に力を貸し、眷属を呼びよせろ!」

オレがそう叫ぶとロランとオリガの装備がスポンっと脱げ、まるで意思を持ったかのようにオレのところへ集合した。

要するに二人とも丸腰のスッポンポンにされた。

まあ、そうしたのはオレなんだが。

「きゃあ!」

オリガは裸が見えないように胸と腰辺りを抑えていた。

「オリガを包んでいた衣よ!
元の所有者を縛り上げ、辱めを与えよ!」

衣は蛇のようにしなり、全裸のオリガを縛り上げた。

「イヤアアアアア!」

全身丸見えの状態で緊縛されたオリガはあまりの羞恥に絶叫していた。

へそ下に浮かび上がる【癒し手の加護】「手」のあざは昔見たまんまだったけど、それ以外は立派に成長していた。

あの、一応補足するけど、補助魔法を使われるのが嫌で縛ってるだけだからね?

「このクソ外道が!」

ロランがオレを非難する。

「ロラン、死ぬ寸前だったオレに大魔法3連発食らわせるような外道がよく言うよなあ」
「ちくしょうがあ!」

全裸にも関わらず、仁王立ちで魔法陣を描くロランよ。
その志は立派。

「ロランのブレスレットよ、アンクレットよ、ネックレスよ。元主の手を拘束せよ!
杖よ、元の主を口から胃まで蹂躙して見せよ!」
「ヒ、ヒアアアアアアアア!」

ロランは装飾品に手をグルグル巻きにされ、口から杖をぶち込まれている。
魔法使いの口と手を封じたんだから、さすがに魔法陣を書くことも呪文の詠唱も出来ないだろう。

「アガガッガガ」

ロランはオレに何か言いたいみたいだけど、杖が口に刺さってたらしゃべれるわけないよな。

「これで1対1だな、勇者様」

ソフィアの唇を噛む音がオレの耳まで聞こえてくるようだった。

「望むところだ!」

ソフィアは左手で火球をオレ目掛けて飛ばす。
目くらましのつもりだろう。
後ろに回って、蹴り飛ばすか。

オレはソフィアの背後を取り斬撃を加えるつもりだった。
だが、想像より速く動けてしまい慌てて蹴りに切り替えた。

「ヒグゥ!」

ごく軽く蹴ったのだがソフィアがはるか遠くまで吹っ飛ばされた。

何だ? オレの体がウソみたいに軽い。

「武器と身体が一つになったみたいでしょ?」

ハガネがオレにテレパシーで伝えてくる。

「心が通じ合ったから、武器(わたし)と人(ユーリ)が二人で一つみたいに動けるんだよ」

武器(ハガネ)と心が通じた効果らしい。
蹴りの力も尋常じゃなく強くなっている。

「フフ、蹴りにも私の攻撃力が加算されてるんだよ!」

これさ、手加減なんて無理だぞ?

壁にぶち当たったソフィアの近くに、聖剣が落ちていた。
あまりの蹴りに威力に剣を握っていられず、ソフィアがその場に落としたのだろう。

これが先代の戦士が使ったという聖剣か。

国王が「オレのことが嫌いだから」という理由で戦士(オレ)ではなく、ソフィアに授与された武器。
……ずっとずっと、欲しかった武器。

聖剣を手に取った。
まだ立ち上がれない勇者は、オレが聖剣を触るのを見咎めた。

「聖剣に触れるんじゃない。
まあ、触ったところで、どうせその剣は私にしか使えないがな」

ハガネを左手に持ち替え、オレが手にしていたはずの聖剣を握る。

――す、すごい。なんなの? この力は。勇者との制約すら簡単にぶち破ってしまいそうなこの力は! 私が、勇者に捧げた貞操を粉みじんにしてしまうようなこのエネルギーは何?

聖剣からもハガネのように頭の中に声がする。

――バルムンク様、私のような無銘の一刀が話しかけるのもおこがましいですが、いまあなた様を手にしているものこそが、我らの王、無生物を束ねるもの【九十九神】かと。

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