11月6日

冷めたパンの最後の一口を押し込むと、どこからかサイレンの音が聞こえてきた。またかと眉をひそめる。朝早くから大変だな。田舎から越してきて2年経つが、あの時都会っぽさを思わせた国道沿いマンションのメリットは、スーパーを3軒はしごできることだけだった。夢に見た高層階の夜景はほぼ見ることなく窓を閉めきり、それでも響くバイクのモーター音や緊急車両のサイレンに耳を塞ぐ毎日を送ることになろうとは思っていなかった。田舎の静かな夕方が恋しい。すきなことはぼーっとすること。そんな私は都会暮らしには向いていなかったのかもしれない。

まあ、この部屋とももうすぐお別れだ。ちらりと廊下に立てかけられた大量の段ボールを見やる。これからあれに荷物を詰めて、数日後には出して、それぞれまた棚に収め直すのだと考えると気が滅入るが、引越し作業自体はもう慣れたものだ。何せ、この2年間で四度目の引越しである。一度目は、田舎から出てきた時。二度目は、結婚した時。そして三度目は、離婚した時だった。

どの引越しも、前向きなものであった。窮屈だった家から出られるのは待ち望んでいたことだったし、結婚も恋愛結婚だったから、すきな人と一緒に暮らせるのは嬉しかった。離婚した時は周太と住むつもりでいたし、実際高価な家電はすでにいくつか彼の家に送りつけてあった。あとは私が向かうだけだったのに。後悔なのだろうか。あれは失敗……だったのだろうか。

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