見出し画像

Kyrie

暗く深く広がる闇の中で、私はいつも彷徨い途方に暮れている。
雨が降っても逃げる場所はなく、ただ天から落ちてくる無数の愛撫に頬を差し出すだけ。

この赤黒く生温い塊は、間もなく冷えて大地の一部になるだろう。

主よ、これか赦しなのか?

下草に覆われ、私の形が消えてしまう前に、もう一度あなたの腕の中で息がしたい。
雨音に消されてしまう程の私の小さい鼓動を、木々を揺らす風に乗せるから。
気が付いて欲しい、私のことを。

主よ、憐みたまえ。

Daniele di Bonaventura / BANDONEON & BANDONEON

”Kyrie”

https://music.apple.com/jp/search?searchIn=library&term=kyrie

https://open.spotify.com/track/55T68xQh4sOpTUL6MyoN3Y?si=jYVCGT0iRleplWkD5A7l5w

バントネオン奏者のDanieleは、イタリア(マルケ州フェルモ)生まれで、作曲家、編曲家、ピアニスト、バンドネオン奏者である。
いわゆるクラッシック音楽を学びながら、幅を広げていった音楽家らしく、タンゴの土着感の薄い、美しい旋律のタンゴ演奏や作曲を行っている。

このアルバムの中に含まれている”Kyrie”を聞いたとき、私は個人的事情でタンゴを踊れなかった時期だった。バントネオンの音は、パイプオルガンのようであり、聖歌隊の歌声のようであり、愛する人の寝息のようだと思った。
どうしてこんなにも愛しているのに、手が届かないのだろうか?と、深く嘆いた記憶がある。

今、このKyrieでTangoを踊ることができるようになり、当時の辛い気持ちと向き合えるようになった。
夢は叶うとか、偉そうに軽々しく言いたくない。

是非、静かに愛する人と聞いて欲しい。できたら、踊って欲しい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?