はじめての経営計画と予算のお話
昨日のオンライン勉強会では、経営計画書の作り方と予算のお話をしました。個人事業をされている方も補助金の申請などで作成する機会も増えているかと思いますが、いきなり経営計画と言われてもどのように考えてよいか分からないと思います。すぐに書き始めるのではなく、まずはこちらを読んでから書いてもらえると嬉しいです。フリーランス向けに説明しましたが、中小企業の場合でもほとんど同じです。
ちなみに、フリーランスの人にとって予算ってこんな感じだよね、というイラストを池田佳世子さんからもらいました。そう、みんなこんな感じ。
私も計画的なタイプではないのでこれはこれでよいのですが、「自分が今後どこにお金を投資できるのか、いくらお金を投資できるのか」というのが分からないのが事業のネックになる場合があります。
「もっとSNS広告を出したいけれど、いくら広告宣伝費にかけるのがよいのか、かけてもよいのか分からない」そんなことを考えたことがある方も多いのではないでしょうか。
少しでもそうした意思決定に役に立つお話ができればと思います。
数値予算を立てる前に事業の全体像を描く
予算といえば、このような月次予算のイメージが多いと思います。
いきなりこうした数値計画を立てる方も多いかと思いますが、私はお勧めしていません。私は予算策定の支援をする機会も多いのですが、まず数字ありきではありません。経営計画が先です。
では経営計画とは何か。スライドは小規模事業者持続化補助金コロナ特別対応型で求められる経営計画ですが、補助金や借り入れをする際によく経営計画を求められますね。もちろん申請先に応じて求められる項目が異なりますが、基本は自由書式です。
そして、「経営計画」の役割を考えましょう。
対外的な役割は、「自分が考えている事業の魅力を伝えることで、外部の人の協力を得ること」です。たとえば、金融機関に対してであれば、「この事業ならお金を貸してもちゃんと返してくれそうだな、今お金を貸すことで大きく事業が伸びそうなんだな」と思ってもらうことです。それには、必要以上に背伸びをして見せるのではなく、きちんと自社の事業の物語を伝え、正しく理解してもらうことが必要です。
私は、経営計画書の作成をライティングやイラスト、WEBサイト制作の過程と同じだと思っています。
イラストレーターさんは、たとえば私が届けたいメッセージをくみ取り、より多くの人に届けるために、自らの視点を加えて様々な工夫を凝らしてメッセージに力を与えてくれるイラストを描いてくれます。
ホームページもそうですね。私のことをより深く知りたいと思ってくれた人に対して、自社の考え方や雰囲気が伝わるようにWEBディレクターの視点を加えてWEBサイトを制作してくれます。
経営計画書も同じ。自社の事業の可能性をより多くの人に伝えることで、共感を生み、協力者を巻き込むために、私たちのような支援者が経営の分野で伝わるような言葉に変換・再構築して経営計画書を作成します。
それぞれ外部の人に依頼して制作してもらうことができますが、もちろんポイントを掴めばある程度は自分でも作成することができます。
しかし、なかなか自分の良さは自分では分からないもの。自分が理解していない個性に光を当ててもらうためにも、誰かに話を聞いてもらいながら経営計画を一緒につくることはとてもお勧めです。
事業概要:基本のポイントは3つ
私が起業家にお話を聞く際に頭に置いている枠組みについてお話します。
昔はいろんなフレームワークと言われる「型」を頭に置いていましたが、今はできるだけ型にはめないようにしています。たとえば強み・弱みなどを四象限に分けるSWOT分析が有名でしょうか。最初のヒアリングの段階ではフレームワークに引きずられることのないように、できるだけそうした型を意識せずに話を聞くようにしています。
なにより大事にしていることは、「いかに相手の事業の好きなところを探すか」です。まず自分自身がその事業を好きになれなければ、一緒に経営計画をつくることはできません。そして相手の事業に関心をもつことが相手に対する敬意だとも考えています。
まず頭に置いているポイントは3つ。
①自分が提供できる価値は何か:what
②誰に届けたいたいか:Who
③どうやって届けるか:How
たとえば、私の税理士業でいくと下のような感じですね。
①に関しては、表面的には税理士業務を提供していますが、より抽象的に提供している価値を考えると、顧客に「安心」や「事業に集中できる環境」を提供したいと考えています。
②に関しても、上場企業のような大規模な企業は自社の顧客ではありません。それだけの価値を提供できないからです。その代わり、独立から100名程度の規模の会社であれば、税務以外にも何かしら提供できる価値をラインナップしています。それが当社の顧客です。
また、この顧客の部分が市場として成長しているのかどうか、大きな視点で数字をもってくることも大事です。インターネットで調べられる範囲で十分です。顧客がすごく減っていっている市場だと大変ですよね。あえてそのような市場を選ぶこともありますが、前提としてその市場が成長しているのかそうではないのかを抑えておくことは大切です。
③に関して課題を持っている企業が多いですし、販路開拓のポイントもこの「どうやって届けるか」ですね。簡単なところでいけば、価格を高くするのか、安くするのか。税理士紹介サービス中心でいくのか、自社の魅力を発信して理解してくれる顧客に来てもらうのか。オンラインかオフライン中心か。このあたりはたくさんの選択肢を一緒に考えられるでしょう。
いわゆる「事業概要」と呼ばれる「企業の自己紹介」部分はこのような3つのポイントを中心にいつもお話を聞いています。
経営計画に時間軸をプラスする
現在の事業についてお話を聞いたら、その背景については必ず聞きます。
④どうして今の仕事を始めたんですか?:Why
現在の事業概要だけだと、「なぜあなたがその事業をしなければならないか」が伝わらないからです。
経営理念などにも紐づいていることが多いですが、過去の仕事のことや幼少期のことを聞いていくと、どこかしら今の事業につながるエピソードを聞くことができ、その人のことをもっと好きになることも多いです。
もちろん無理には探しませんが、今の事業の話以外の個人的なエピソードに関心をもって聞いてくれることは嬉しいと感じる方も多いですね。また、あまりそうしたことを聞く人は少ないようで、意識して聞くようにすると相手との距離感が近づくのでお勧めですよ。
「事業には関係ないけど」とお話をされる方も多いですが、実績が少ない段階だからこそ、起業の背景などは必ず経営計画に端的に・しっかりと盛り込むことが重要です。
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また、合わせて長期的な未来のことを聞きます。
自社の事業にかかわらず、「どんな社会になってほしいですか?」という願いのようなお話を聞くと、話の視野が広がります。あまりそうしたことを考えたことがなかった方は、答えに詰まる場合もありますが、未来ついて考えるよいきっかけになります。
そうした長期的な未来に対して、自社の事業はどんな存在でありたいか。これもうまくつながっていなくても構いません。ただ、10年後はイメージできなくても、3年後であればなんとなく「こんなチームで事業をしたい」というイメージが沸くのではないでしょうか。そのイメージを元に数値計画の基礎をつくります。
もう一つ、このような全体像の話を聞いてから、「現在直面している課題」について聞きます。これが借り入れをしたり、補助金をもらったりする理由ですね。
経営計画書で伝えることは、このようなメッセージだと思います。
自分の事業の全体像は、このように描いている。ただ、今この課題があるので、手を貸してもらえませんか?そうすることでもっと事業が加速します。
そんなメッセージが伝わる経営計画書になればOKです。
よくない例
ここで、これはしない方がいいなと思うことについても少し書いておきます。
まず様式を上から順番に埋めていくこと。もちろんそうしている方も多いと思いますが、自分が描いている事業の全体像をイメージせずに上から順に書くのはやめた方がいいと思います。
その理由は、どうしても項目の枠の中に自分の事業が小さく収まってしまうからです。
さまざまな申請に必要な経営計画書の様式は、基準に合わせて審査しやすいように作っているだけ。本来自分が描いている事業の全体像はもっと自由に考えを巡らしているはずです。そうした全体像を先に描いてから、項目に必要な要素だけ抜き出して埋めていくことが、ブレがなく理想的だと思っています。
もう一つ、先ほども申し上げた通り、最初の段階でフレームワークと言われるような型にはめてしまうこともあまりお勧めしません。こうした分かりやすいツールは、時代に合わせて流行がありますね。
そうした型の良さは「あまり考えなくてもそれっぽいものが書けてしまうこと」です。考えるヒントにはなりますが、逆にその型に引きずられてしまうデメリットがあります。
自社の「強み」は自社を取り巻く環境や光の当て方によります。自分が「これは強みだ」と思っていても、周りからはそう思われていないことも多い。反対に「これは弱みだ」と思っていても、周りから見ると素晴らしい特徴であることも多いのです。
あまり最初から「これが強みでこれが弱みです」というように決めつけてしまっては、自社の可能性を狭めてしまうことになりかねないので、もっと自由に考えていきましょう。
経営計画を数値目標に落とし込む
ここまできてやっと予算の話。まずは、去年の決算書などから実績の数字を入れます。私は月次の予算を立てるより先にまず、3年先までの年間の予算を決めることをお勧めしています。
「いや、3年先の売上の話とか分からないし、、、」と思うかもしれませんが、さきほどまで話の中で「たとえば3年後にどんなチームを目指しますか?」というようなことを考えたと思います。
「3年後にスタッフ3名と一緒にチームをつくりたい」ということあれば、その人たちに支払いたい給料などを数値計画に入れます。もちろん、フリーランスとしてずっと事業を進めたいというのであれば、その数字は必要ありません。
売上よりも先に「自分がどこにお金を投資したいか」を先に考えた方が良いでしょう。そして、3年後にいくら自社に利益が必要かも合わせて考えましょう。そこから税金や社会保険料を支払った後の手取りが生活費になります。
その他の項目は、「前年と同じ」を基礎に考えます。とりあえず数字を埋めてみましょう。でもその中で「この経費は増えるだろうな、減るだろうな」という経費項目を修正していきます。それで固定的な経費は十分。
あとは、原価があるビジネスであれば必要な粗利益(売上総利益)の割合から売上高を出してみます。原価がないビジネスであれば、そのまま売上高ですね。それで自分が納得いくような数値なのか、あらためて見直しては微調整を加えていきます。
ここまでできれば、あとは1年間の予算を月次の予算に割り振っていきます。とりあえずまずは12分割で数字を埋めてみればいいですが、当然季節によって変動があるビジネスが多いと思いますので、そういった要素を加味して特に売上高は修正していきましょう。ここまででまずはじめての経営計画としては十分だと思います。
そして、予算を立てて終わり、ではあまり意味がないのです。大体は計画通りに事業は進みません。それでも予算を立てることをお勧めしているのは、予算と実績が違った原因を考えるためです。フリーランスだと予算未達を責められることもありませんが、未達だったことよりも、その原因を考えることが大切なのです。
自分がいくらの予算を立てて、なぜ予想通りいったのか。その通りにいかなかったのであれば、なぜうまくいかなかったのか。そもそも予算設定が粗かったのか。そうした振り返りの時間を持つことが重要です。
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ここまで経営計画と予算のつくり方について説明してきましたが、なかなか一人でこのようなことを考えるのは難しいもの。誰かに聞いてもらいながら整理することで、今まで見えなかったことがクリアになることもあります。
また、数値への落とし込み方もなかなかコツというか、初めてでは難しいものです。当社でも私がExcelでつくっていたものを、スタッフもつくれるようにクラウド予算管理ソフトのManageboardを導入しました。
一緒に画面を見ながら先ほどの数値計画を一緒につくれるもので、クラウド会計から毎月の実績の数字を読み込んで予算と実績の管理ができるお気に入りのソフトです。
せっかくなので、経営計画を一緒に考えることと、予算立てと予算と実績の管理をお手伝いできるサービスを検討中。モニターさん募集中なので、興味ある方はお声がけくださいね。
とても長い記事になってしまいましたが、ただ補助金をもらうための経営計画だけではもったいない。もっと多くの方に、自分の事業の後押しとなるような経営計画と予算づくりができるようになって頂ければ嬉しいなと思っています。
みなさまのサポートがとても嬉しいです!いつも読んでいただいてありがとうございます!