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口から出る言葉はただありがとうだけ

街はまだまだ起きない。どうやらまだ起きる様子さえ、どうもない。


仕事をサボって行きつけのラーメン屋に行くとそんな話になる。こんな時に話す話ではないかもしれないけれども、それは現実にあることだ。

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そもそも夜にお客さんがまだまだ戻ってこないらしい。福岡ではもうだいぶん戻っているらしいとかなんとか、ほんとかどうかわからない話。福岡に移転を考えているという話。でもまぁそれはそもそもコロナの前から聞いていたことではある。彼は現実主義者的な側面もあるからして、それはもうそもそも街の規模の話になってくる。何もいえない。


モノを売って生活していくことへのそもそもの限界のようなもの(もちろんこれは僕)。毎日毎日出汁を取る豚の顔をぼんやり眺めながら、そもそも今の時代にこれってそぐわないんじゃないかとふと思ってしまう話。だからこその農業への興味やそもそもからあった野菜を売ることへの憧れ。いや、というか、そもそもこれから仕事なんて一人に一つじゃ絶対あり得ない、それじゃこれから生きていけないんだって、という話。副業、当然、当たり前。そもそも。そもそも。そもそもばっかり。

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でもこれはまったく暗いトーンで話されたわけでもない。そこだけは強調しておかなければ。こうやって書いてしまうと暗いように思えるけども、別にそういう感じでもないのです。いつまでもすべてがすべて同じわけであるはずがない。これだけすべてがドラスティックに動いているのに。当たり前にあったものが無くなって当然な時。本当に、いよいよ、そういう時が来たのだなぁと。そんな心構えの話なのかもしれないが。


彼は海育ちだから、いつかは海に帰りたいんだ、とも言った。うーん、帰るところねぇ。


「こんにちはー」



と、突然製麺屋のおじさんが入ってくる。冗談みたいだけど、彼はちょっとラーメンの小池さんに似ていた。手には製麺屋らしく、打ち立てっぽい麺が入ったビニール袋を抱えている。これは試しに作ってみた全粒粉が何%入った麺で・・・ああ、そういえば前回の試作分は結局何ミリのと何ミリのとどっちが良かったですか・・・あー、ふんふん。確かに女性向けにはそっちがいいかもしれませんね、とかなんとか。そういえば彼の店では新メニューを開発していると聞いた。そのやりとりだろう。横から見ていると如何にも楽しそうだ。


小池さんが帰ってから


「そういうの、楽しそうじゃん」と僕がいう。

「・・・え? これが? いやいや。だって何かを少しだけ替えると中身がガラリと変わっちゃうんですよ。もう、大変。研究者とかにはいいかもしれないけれど」

「でもさ、そうやってようやく出来上がったら、そりゃ達成感はでかいよね」


「あー、そうすね。それは確かにデカいかもしれない。でもねぇ・・・うーんと」


「あー、そっかそっか。それで伝わんなかったら、それが逆にツライんだね笑」


「そう!まったく、そうなんですよ」


「いや、わかる。わかるよ。マジでそうなんだよなぁ。・・・うちも今回だってそもそも外国人のモデル探しから始めたのに、結果はええと、んもうさあ・・・」


「ほんと、報われないことばっかりなんですよねぇ」


うーん。報われないことかー。


そういえば。

こないだジェームズ・ディーンと写真家のデニス・ストックの友情を描いた不思議な感触の映画を視た。その中でジェームズ・ディーン役の彼は故郷の生徒たちだかに向かってスピーチしていたなぁ。

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「もっと、感謝するんだ。と友人に言われました。・・・誰がなんと言おうと大切なものは自分にしかわからない。だから時間を無駄にするな。すべてに感謝を」と。

あの時、僕だって彼にそう、伝えるべきだったのか。


そんなことを思いながら、この文章を綴っていると、ようやっと手に入れた古い古いレコードから、ふと、こんな歌が流れてくる。

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「ありがとう 君の気まぐれにありがとう ありがとう 君のでたらめにありがとう 口から出る言葉は ただありがとうだけ」


ふぅ。ありがとう。ありがとう。


そうして今週末からまた新しい展示会が始まるのです。ありがとう。


FUQUGI exhibition
2020.7.18(sat)〜8.2(sun)

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