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Issue #07 | 障がい者雇用

地域・社会の課題を考える「Issue」。

今回のテーマは、「障がい者雇用」です。


戦争で負傷した傷痍軍人の雇用支援からスタートした「障がい者雇用」施策。

1960年に『身体障害者雇用促進法』が制定され、障害者法定雇用率が企業の“努力義務”となります。その後、1976年に“努力義務”から“義務”となり強制力を持つように。さらに、1987年には、『障害者雇用促進法』へと改名され、1998年には知的障がい者が、2018年にはこの法の適用対象となりました。


2022年現在、民間企業における障害者法定雇用率は2.3%。従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障がい者を1名以上雇用する必要があります。
*詳細は、厚生労働省HPをご覧ください。


このように、「障がい者雇用」の促進に向けた動きが進んできた一方、かならずしも見立て通りとはなっていない実態もあります。厚生労働省の『R3年度障害者雇用状況の集計結果』によると、雇用障害者数は59万7,786人(対前年比3.4%上昇、対前年差1万9,494人増加)/法定雇用率達成企業の割合は47.0%(対前年比1.6ポイント低下)と、雇用数は伸びているものの義務化から50年経ったにもかかわらず達成率は5割に届いていない現状が見えてきました。
*厚生労働省(R3年度障害者雇用状況の集計結果)レポート詳細はこちら


引用:厚生労働省(R3年度障害者雇用状況の集計結果
引用:厚生労働省(R3年度障害者雇用状況の集計結果


こうした「障がい者雇用」の現状・課題について、ステイクホルダーである企業・福祉の現場・当事者・社会の4者から見ていきます。


(企 業)
厚生労働省の『平成30年度障害者雇用実態調査』によると、企業側が感じる障がい者雇用に向けた課題感としてもっとも多かったのは「会社内に適当な仕事があるか」という点で、“障がい者に出来る仕事はないのではないか?”という思い込み(無知・偏見)が窺えます。また、障がい者の1年以内離職率は4割強と10人に4人は1年以内に離職しているという実態があります。この表面上実態が失敗体験となり、先述のような思い込みにつながっている現状にあります。


(福祉の現場)
障がい者が民間企業への就職を目指すに際しての能力開発の場としての福祉の現場。ここでは、障害者総合支援法に基づき「就労系障害福祉サービス」(働くのに必要な知識や能力を身につけるための訓練をサービスとして提供)が提供されています。福祉の現場における課題として、福祉の現場と企業との間の相互理解の不足が挙げられています。福祉↔︎ビジネスでは視点が違うわけで双方の想い(ニーズ)の理解が必要であると。また、「就労系障害福祉サービス」には国から給付金が支給されることもあり、本来の目的である能力開発が適切になされず能力が上がらないことがビジネスとなってしまっているという問題が生じています。


(当事者)
健常者には、アルバイトやインターンシップなど社会に出ることで「働くイメージ」を築く場があるが、障がい者にはないという機会の問題があります。また、親をはじめとする家族の存在は大きく、大切に思う愛情・配慮が裏目に出てしまうケースもあるといいます。
(例えば、家族の「何もしなくても大丈夫だよ!」という言葉に挑戦しようとする気持ちがディスエンパワーメント(無力化)されること。)


(社 会)
障がいの有無によって学校が分かれるため、社会の構成員としての障がい者への理解が培われず、無知・偏見(企業と同様の課題)につながっている現状があります。
(教育の現場では、「インクルーシブ教育」を通じた相互理解促進。市場の現場では、国や地方公共団体などは、障害者の働く施設から優先的に物品などを調達するよう努めること、とされている「障害者優先調達推進法」や民間において障害者の働いている企業などから物品を購入することを通じた「間接的な雇用」を通じた「障がい者雇用」促進。といった動きも出てきています。)



【所見 -あり方を考える-】


リディラバジャーナルの構造化特集記事を読む中で印象的だった2つの視座をご紹介します。


1)“働く”とは?

「障がい者雇用」を考えると義務だからというマインドになってしまいがちです。しかし、そもそも『“働く”とは』どういった意味合いがあるのでしょうか?東京通信大学人間福祉学部松為教授は、“働く”ことは人の3つの欲求を満たすと言います。

① 経済的欲求(お金を稼ぐ)

② 対人的欲求(他人との関係を通じた社会の1員に)

③ 自己実現欲求(自分の能力を活かし他者や社会に貢献する)

『“働く”とは?』から考えることは、「障がい者雇用」の問題を義務だからと矮小化せず、障がい者ではなく1人の人間として捉え・考えるとても大切な観点と感じました。


2)“総論”の落とし穴

こちらは、障がい者向け事業所等を運営するフェスティーナレンテ株式会社代表取締役の高原さんの「企業のいちばんの問題点は、個人を見ず、総論を知りたがるところだと考えている。」というコメントでした。私たちはどうしても知的障がい者の方はこんな特性である・身体障がい者の方はこんな特性であると総論で捉えようとしてしまいがちですが、ただ総論を理解するだけでは、ミスマッチが生じてしまうわけです。健常者においても1人1人特性が異なるのと同じく、障がい者においても十人十色という理解を持ち、個人を見るべきだと。言葉にすると当たり前のことですが、抜け落ちてしまいがちな視点と思いました。


“総論”の落とし穴』にもつながる話ですが、どうしても私たちは、「〜はこう!」と定義づけをしがちです。この定義づけこそが安定感のある社会を作ってきたわけですが、定義の網から抜け落ちてしまうものが出てくるわけです。それが、社会課題であると。


今回、「障がい者雇用」の問題を考えて改めて思ったのは、“曖昧”というの状態の大切さでした。

“曖昧”を受け入れる寛容さを社会全体の土壌としていくこと。

この視座こそが今求められているのではないかと。


7回目となるIssueシリーズですが、過去作を振り返ってみると『理解が大切』『意識変革が大切』と同じオチ・安直な結論づけだなと思うわけです。しかし、裏を返せば、私たち1人1人が正しく社会の課題を理解し小さな1歩を踏み出していけば社会はきっと良くなるということなのだと期待を持ち自分自身も小さな発信を続けていこうと思いを新たにした今日でした。



<参考文献>

▷リディラバジャーナル

・(intro) 【障害者雇用】“障害”から見る「生きる」と「働く」
https://journal.ridilover.jp/topics/9

・(no.1) 「自分の能力を試したい」。障害者が語る働くことの意義
https://journal.ridilover.jp/issues/66?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828091958V9jyXTpKl8d5MYamcz

・(no.2) 「無知」「偏見」が阻む障害者の企業への就職
https://journal.ridilover.jp/issues/67?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828081706a6QUiuqzHvn8gxhFsZ

・(no.3) 障害者の4割が1年以内に離職という現実。企業に求められる意識改革とは
https://journal.ridilover.jp/issues/68?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828082508UDknAOxH8uSFtMrN7v

・(no.4) 働くための能力とは? 障害者の「能力開発」の現場における課題
https://journal.ridilover.jp/issues/69?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828083201RNEKpQLW78Pr5nDzik

・(no.5) 福祉の世界に「囲い込まれ」、就職できない障害者たち
https://journal.ridilover.jp/issues/70?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828084457q5Ya9ZniRghJGmrKXV

・(no.6) 「企業」と「福祉事業所」をつなぐ組織の問題点
https://journal.ridilover.jp/issues/71?journal_user=journal_user_7243&journal_token=202208281009094Foc18NZ3Gdhs7Bi2w

・(no.7) 「失敗するチャンスが欲しい」。障害者が働くイメージを作るのに必要なこととは
https://journal.ridilover.jp/issues/72?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828085053avWz3TUYNAOengrV7m

・(no.8) 家族の理解が支える、障害のある人の「働く」
https://journal.ridilover.jp/issues/73?journal_user=journal_user_7243&journal_token=202208280854137mqjMHbwWiG8PetQNL

・(no.9) 障害者雇用促進のために、私たち一人ひとりにできること
https://journal.ridilover.jp/issues/74?journal_user=journal_user_7243&journal_token=20220828085911LSXs6FvnRWHJbUTZl3

・(no.10) 身近で遠い、ソーシャルベンチャーの経営者にとっての「障害と雇用」
https://journal.ridilover.jp/issues/77?journal_user=journal_user_7243&journal_token=2022082809204389Ibj7Zhy3TlkWLVNU



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