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[現地速報] 中国トレーニング器具業界 市場調査レポート2020

所要読了時間: 9分

本市場調査レポート『中国トレーニング器具業界 市場調査レポート2020』は、FIT Trading株式会社(代表: 阿部信太郎)が中国国内の業務用トレーニング器具製造業界について現地中国で実施した調査をまとめたものです。

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1. 日本の業務用トレーニング器具販売市場について

まず、業務用トレーニング器具(以下、トレーニング器具)とは、フィットネスクラブや市営体育館ジムに置いてある、ランニングマシンやチェストプレスマシン等の、通常自宅に置くことのないような大型のトレーニング器具のことを指します。

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現在、日本のトレーニング器具販売市場の規模は約300億円と言われています。日本のフィットネスクラブ市場が4,500億円程度ですから、トレーニング器具販売の市場はその7%程度の規模ということになります。この150億円の器具販売市場は、ほぼ大手プレイヤー(グローバルブランド、下記ロゴ参照)の独占状態にあります。

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4,500億円の市場規模がある日本のフィットネスクラブ市場でさえ、最適化されたマーケットとは到底言えない状態(高価格/低品質)にあるのですから、当該市場の3%程度の規模しかない150億円のトレーニング器具販売市場が成熟していない現状は必然であり、自明の理です。

日本のトレーニング器具販売市場における最大の歪みは、高すぎる販売価格にあります。中古トレーニング器具市場が発達しており、また常にグローバルな競争に晒されている欧米市場では、低価格化への圧力が強くかかっており、同一の新品商品が日本の60-70%程度の価格で手に入る環境にあります。また、海外フィットネス市場に精通する業界エキスパートX氏によれば、日本におけるグローバルブランドの販売価格(定価)とその工場出荷価格には約10倍の開きがあり、現在の販売価格は適正価格から程遠い状態と言えます。

この「高すぎる販売価格」問題の原因は、買い手である大手フィットネスクラブと、売り手である大手トレーニング器具メーカー(グローバルブランド)及びその国内販売代理店(ディストリビューター)の双方にオペレーショナルな問題と政治的な問題があります。このことについて、不特定多数の方が見られる今回の無料記事では深く言及しません。とりあえず、「日本の業務用トレーニング器具は高すぎる!」ということを理解して頂ければ結構です。

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2. 中国トレーニング器具メーカー(OEM)について

近年、グローバル・トレーニング器具販売市場の黒船として注目されているのが、中国のトレーニング器具メーカー(OEM)です。これまで、グローバルブランドの製造下請け(マニュファクチャラー)として位置付けられていた中国プレイヤーが、自社ブランド製品の開発・製造・販売に乗り出しました。

「製造下請け(マニュファクチャラー)」や「器具メーカー(OEM)」、「販売会社(ディストリビューター)」など、色々な属性のプレイヤーが出てきて混乱している読者も少なくないかと思うので、まず一旦簡単にトレーニング器具業界のバリューチェーンをまとめます。

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私たちが住む街のジムで日々見慣れたトレーニング器具のバリューチェーンは、一般的に「1. 製造」→「2. ブランディング」→「3. 販売」→「4. ジム運営」という4つの機能に分けられています。「1. 製造」には、原材料の調達から加工、組立、検品、出荷といった工程があります。「2. ブランディング」では、完成品に対して特定のロゴを張り付け、ブランド価値を付与します。「3. 販売」は、各国の市場で輸入代理店が行う営業機能を指します。「4. ジム運営」は、ジム施設の開発・運営、つまりトレーニング器具の最終購入者に当たります。

この4つの機能を市場で充足するにあたって、主に6種類のプレイヤーが存在します。それが、「A. マニュファクチャラー」「B. OEM」「C. グローバルブランド」「D. ホワイトレーベラー」「E. ディストリビューター」「F. オペレーター」です。この6種類のプレイヤーは、上記で説明した4つのバリューチェーン上の機能のカバレッジ範囲で決まりります。カバレッジ範囲に違いがあるだけなので、異なる属性のプレイヤー同士で機能が被ることケースは往々にして存在します(例:「A. マニュファクチャラー」も「B. OEM」も「C. グローバルブランド」も共に「1. 製造」機能を有している)。

10年程前までは、中国プレイヤーは主に「A. マニュファクチャラー」で、「B. OEM」や「C. グローバルブランド」、「D. ホワイトレーベラー」の製造下請け、もしくはコピー商品の製造を行っていました。しかし近年、中国プレイヤーが「B. OEM」としてのプレゼンスを拡大し始め、その高い製造技術とプライスバリューにより、特に「C. グローバルブランド」にとって大きな脅威になっています。

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3. 中国最大手のトレーニング器具メーカー「DHZ Fitness」

2019年4月にドイツ・ケルンで開催された、世界最大のフィットネス見本市「FIBO Global Fitness 2019」で、業界の各方面から熱い視線を注がれていたのが、そう、中国最大手トレーニング器具メーカー「DHZ Fitness」です。「DHZ Fitness」は、「SHUA」や「Impluse」と並ぶ中国発の最大手トレーニング器具メーカー(OEM)で、特に近年ヨーロッパ市場での成長が著しい新興プレイヤーです。

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「DHZ Fitness」をはじめとする中国OEM最大の強みは、何といってもその破壊的な価格です。DHZ Fitnessを独占で取り扱うヨーロッパの「E. ディストリビューター」が公開する販売価格は、下記イメージのようなウェイトスタック型マシンで25万円~35万円程度です。「C. グローバルブランド」の日本の代理販売店「E. ディストリビューター」が取り扱うウェイトスタック型マシンの公開販売価格は100万円を超えるので、価格は1/4になります。

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更に、中国OEMは生産工場が中国にあり、また多くの完成品在庫を保有しているため、日本への輸送・搬入リードタイムが極めて短いという特徴もあります。某イタリアの「C. グローバルブランド」製品を導入しようとすると、納期は3-4カ月程度見る必要がありますが、中国OEM製品の場合は1カ月程度見れば問題ありません。これは不動産ビジネスであるジム事業者「F. オペレーター」にとって、大きな価値に繋がります。

中国OEMの製品クオリティについては、所感ですが「まったく問題ない」という印象です。そもそも「C. グローバルブランド」の多くが中国で製造していますし、中国OEMの多くがそのグローバルブランドの下請け製造を過去に経験しているので、技術は間違えないと思います。それに、一般のジムユーザーは、トレーニング器具のメーカー/ブランドを気にしたりしませんし、更に言えば器具のクオリティなんて絶対に評価できないと思います。それより、どんな器具でも良いからジム会費を安くしてくれ!というのが、リアルな顧客ニーズではないでしょうか。

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4. 中国トレーニング器具メーカー(OEM)の圧倒的な生産能力

2019年11月23日から11月28日まで、4泊6日で中国山東省徳州市にある「DHZ Fitness」の生産工場を視察してきました。羽田から北京まで飛行機で飛び、北京から徳州まで新幹線で移動し、その新幹線の駅から車で1時間という世界の果てに、その巨大工場は確かに存在していました。

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工場の外観は、空港。。巨大旅客機も離着陸できるであろう超巨大施設でした。敷地面積は約260,000㎡、これは東京ドーム5,560個分に相当します。この工場には機械加工から組立、検品、梱包など、トレーニング器具製造における重要な機能が全て備わっており、約1,000人の従業員が朝8時から夕方5時まで稼働していると言います。

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山東省の11月末の気温は0%前後なのですが、工場内には空調設備(夏用のファンはある)がなく、とても寒かったです。この環境下で、1,000人の従業員が毎日生活のために働いている。お恥ずかしながら、こういう資本主義のリアルな生産現場は初めて見ました。

生産ラインの印象ですが、想像していたよりかなり俗人的なものに思えました。溶接や切断などの機械加工は自動化されていましたが、組み立てや梱包、検品などは全て人手・目検で行われていました。特に、組み立てに多くの人的リソースが割り当てられている印象を受けました。手作業で組み立てられた器具は検品エリアで品質チェクを受けた後にまた分解され、梱包されます。本当に、骨の折れる作業だと思います。

梱包は段ボールと木箱が半分半分くらいでした。日本に輸入した場合、木箱の廃材コストがかなりかかるのでは?と思いましたが、DHZの担当者曰くこれは全てリサイクルされるので、木箱の廃棄コストはかからないとのこと。とすると、輸送費以外の導入コストはジム施設内での組立費となりますが、組み立った完成品の状態で発送することも可能とのことで、人件費の高い日本の場合、こちらの方が安くつくかもしれません。しかし、輸送中の故障リスクが上がるので、一長一短。

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工場生産ラインの見学の後に、完成品が並ぶショールームを見学しました。2フロアを使った吹き抜けの豪華な施設で、普通にジムとして最高の環境でした(30分程ワークアウトしました笑)。全ての製品を実際に手に触れて確認しましたが、やはり品質にはまったく問題ありませんでした。2019年4月のFIBOの時には無かった商品なども増えており、DHZ Fitnessは企業として着実に成長している印象を受けました。

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5. おわりに

今回の中国トレーニング器具工場視察を受けて、今後の中国OEMの更なる飛躍を確信しました。不特定多数の方が見られる当該note無料記事『中国トレーニング器具業界 市場調査レポート2020』では、コンフィデンシャルな情報は一切載せませんでしたが、マーケットの構造は軽くイメージできたかと思います。もし日本でジムの新店オープンやリニューアルを検討している方がおりましたら、是非中国OEM製品の導入も検討してみてください!

この記事を見て、「私も中国のトレーニング器具工場に行きたい!」と思った方は、是非行ってみてください。ただ、中国出張は非常に難易度が高いです。まず英語は通じませんし、GoogleやFacebookなどのインターネットサービスも規制されて使えません(VPNを使えば繋がります)。今まで30か国以上の国を訪れた経験のある私でも、現地に住んでいる友人やメーカー担当者の方の助けを受け、ようやく工場にたどり着けました。一人では間違えなく無理でした。また、工場があるような田舎の街には、まだ強烈な反日感情を持っている方も少なくないので、決して安全とは言えません(私が会った中国人の方々は皆さん最高に優しい人でした)。日本から工場視察に行く人は、最大限の準備と下調べをしてから行ってみてください!

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FIT Trading株式会社 代表取締役 阿部信太郎

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