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ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則3章 だれをバスに乗せるか

第3章 だれをバスに乗せるか

意外な事実

 このバスでどこに行くべきかは分からないが、分かっていることがある。それは適切な人がバスに乗って、それぞれがふさわしい座席について、不適切な人がバスを降りる。そうすれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ。
 偉大な企業は、新しいビジョンや戦略をまずは策定して、それに合う人を集めたわけではない。例えば、ウェルズ・ファーゴは銀行業界にやがて来る厳しい変化の時代に備えて、傑作した人材をいつでもどこでも見つけしだい採用し、何を任せるかはっきりしないまま雇用し続けた。

バスから降りた人たち

 ファニーメイ(連邦抵当金庫)は一営業日あたり100万ドルの赤字を出しながら、取締役会からは強い圧力を受けながらも、まずは適切な人材を集めることに全力を注いだ。幹部に伝えられた言葉は、「今後はAクラスの力をもって、Aクラス上位の努力をする人にしか席はない。この基準に満たないのであれば、バスを降りるほうがいいし、それも今すぐ降りたほうがいい。」だ。結果、26人の幹部のうち14人が退職し、かわりに金融業界のトップクラスが採用された。社内は同僚からの圧力が強まり、ついていけなくなった人たちは辞めていった。
 怠け者を勤勉に働かせるつもりはない。仕事熱心な従業員が働きやすく、怠け者が放り出されるように、職場の環境をつくっているのだ。あまりのやる気のない怠け者を、従業員が鉄棒を振り回して工場から追い払ったことだってある。

適切な人材こそが最も重要な資産である


 どういう人が適切な人材なのか。飛躍を遂げた企業は学歴や技能、専門知識や経験より性格を重視する。知識や技能が必要ないというわけではないが、それは学びなおしができる。しかし、性格や労働観、熱意、価値観はあとから獲得することが難しい。そして、それらはいくつかの質問で理解することができる。例えば、これまで下してきた人生の決定の理由を尋ねることで、そのひとの基本的な価値観をはかることができる。
 海兵隊は将兵に価値観を叩き込んで大きな成果を上げているわけではない。海兵隊の価値観に合った人材を採用して、任務を遂行できるように訓練をしているのだ。

冷酷と厳格さ

 冷酷とは、経営が悪くなると人員を大幅に削減したり、真剣に検討することなく解雇したりすることを意味するが、厳格とはそうではない。厳格とは、厳しい基準をつねにすべての階層に適用する。上層部には特に厳しく適用することを意味する。
 ウェルズ・ファーゴはプロ・スポーツチームのように最高の実績を上げた幹部のみが査定を通過でき、地位や勤続年数は考慮されない。成績の良い人たちに報いる方法は、成績の良くない人たちに足を引っ張られないようにすることしかないのだ。

厳格さの担保1 疑問があれば採用しない

 経営の不変の法則に「パッカードの法則」がある。売上高の伸び率がつねに適切な人材の数の伸び率より高ければ、偉大な企業を築くことはできない。成長の最大のボトルネックとなるのは、市場でも技術でも競争でも製品でもない、適切な人々を採用し続ける能力である。
 家電量販店のサーキット・シティーが飛躍をもたらした要因を尋ねられた副社長のウォルター・ブルカートは「第一は人、第二は人、第三は人、第四は人、第五も人だ。転換のかなりの部分は、適切な人を選ぶ点でしっかりした方法をとったことで可能となった」と答えている。配達の運転手には「サーキット・シティーの従業員のうち、最後の顧客に接するのが君だ。制服を支給する。ひげを必ずそり、身体をいつも清潔にしていなければならない。プロになってほしい」と話した。

厳格さの担保2 人を入れ換える

 人を入れ換えなければならない時が、どうすればわかるのか。一つは、採用すべきかが問題だと想定した場合、もう一度雇おうと思えない時だ。二つ目は、その人が会社を辞めると言った場合、深く失望するよりも、そっと胸をなでおろす場合だ。
 不適切な人がしっかりした仕事をしなければ、適切な人たちが尻ぬぐいや穴埋めをするしかなくなる。優れた業績を上げる人たちは、業績向上を仕事の原動力にしている。努力しても足を引っ張られると考えるようになれば、いずれいら立ちが高じ、やがて、最高の人材が辞めていく原因となっていく。飛躍をもたらした指導者は人を入れ換えねなならないと分かったとき、躊躇なく厳格に行動する。

厳格さの担保3 最高の人材は最高の機会の追求にあてる

 フィリップ・モリスのジョー・カルマンは、これからは国内市場ではなく国際市場こそが長期的な最大の機会であると認識した当時、フィリップ・モリスの国際市場の売り上げは1%未満であった。カルマンは国際市場開拓の最高の戦略を「何をすべきか」ではなく「だれを選ぶか」とした。選ばれたのはエースのワイスマン、「これまでは会社の事業の99%に責任を負っていたのに、翌日からは1%以下を担当するようになった。降格になったのか。」と自身でも語っていた。しかし、結果はマルボロが世界市場で1位の売り上げを叩き出し、3年後にはアメリカ国内でも1位となった。カルマンの決定は天才的といってもいい。
 飛躍した企業は、最高の人材を最高の機会の追求にあて、比較対象企業はその逆をとる傾向がある。最大の問題を解決しても無難になるだけで、偉大になるには機会を追究するしかないということを認識できない。

偉大な仕事と素晴らしい人生

 良好から偉大へ飛躍するためには個人の生活が犠牲になるのではないか、という質問があるが、答えは「偉大な企業を築きながら、生活でも素晴らしい人生を送ることはできる。」である。ジレットのCEO、コールマン・モックラーは、適切な人を集め、適切な場所にあてていたので、長時間働かなければならない状況にはならなかったと語っている。
 「あなたから会社の話を聞いていると、恋愛の話を聞かされているように感じます」と話すと、フリップ・モリスのワイスマンだは答えた。「そう、結婚の時以外では、あれば人生でいちばん熱烈な恋愛だった。こんな話を理解してくれる人はそう多くはないだろうが、会社の同僚ならわかってくれると思う。」
 「最初に人を選ぶ」原則に忠実であることが、偉大な企業と素晴らしい人生の密接な関係を作りだしている。時間の大部分を愛情と尊敬で結ばれている人たちと過ごしているのでなければ、素晴らしい人生にはならないからだ。愛情と尊敬で結ばれた人たち、同じバスに乗っているのが楽しい人たち、バスの行き先がどこであろうと、間違いなく素晴らしい人生となっている。飛躍した企業の経営幹部は明らかに仕事を愛していた。そして、それは共に働く人たちに愛情をもっていたからに他ならない。

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