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ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則4章 最後には必ず勝つ

第4章 最後には必ず勝つ

厳しい現実に耳を傾ける

 第二次世界大戦時、ウィンストン・チャーチルはきわめて厳しい現実から決して目をそらさなかった。悪いニュースが薄められて自分に伝えられることを危惧し、通常の指揮系統からは独立した部門「統計局」を設立し、特に厳しい事実をフィルターを通さず、ありのままの状態で自分に提供することとした。彼曰く、『政治家にとって、根拠のない期待を国民に向かって主張するほど最悪の間違いはない』のである。

明暗を分けた決断

 「百年にわたる成功の重みは絶対だ」をモットーにしたアメリカ最大級の小売企業だったA&Pのラルフ・バーガーは、自社の事業方式が時代遅れになった現実から目をそらした。状況打開のために顧客の要望をリサーチする実験店舗がきわめて良好なデータを示したにもかかわらず、百年の重みにそぐわないため閉鎖してしまった。結果、飛躍した企業の1/80まで業績を落とした。
 一方で世界的なスーパーマーケットに成長したクローガーのCEOは、飛躍をもたらした要因を問われて、「これまでの方式での食品雑貨店は絶滅する運命にあることはデータが明白に示している。だから、すべての店舗を閉鎖するか、改装するか、現実に合わなくなった地域から移転するかの決定をくだした。」と答えている。

真実に耳を傾ける社風

 上司が意見を聞く機会、上司が真実に耳を傾ける機会が十分にある企業文化をどうしたら作り上げることができるのだろうか。サーキット・シティーのCEOであるアラン・ウルツェルは正しい答えを示したい気持ちを抑え、質問を投げかけて答えを相手に求め、調べさせ、刺激する方法をとった。
 飛躍を導いた指導者はソクラテスのような方法をとっている。質問する目的は、相手を理解するためである。誘導したり、非難したり、黙らせたりするために質問はしない。「何を考えているのか」「もう少し詳しく話してくれないか」「わたしが理解できるように話してくれないか」「心配すべきことは何だろうか」といった質問をする。
 偉大さへ導くとは、答えを出せるほどには現実を理解できていない事実を謙虚に受け止めて、最善の知識が得られるような質問を重ねていくことである。

仕組みを作る

 飛躍した企業も、比較対象した企業も情報の量や質にまったく差はなかった。情報の量や質がカギなのではなく、入手した情報を無視できない情報に変えるための仕組みを整える必要があるのである。
 著者のジム・コリンズはスタンフォード大学経営学大学院の授業で、レターサイズの真っ赤な紙を支給し、こう言った「これは、今学期用の赤旗である。赤旗をもって手を上げれば、授業をそこで止めて、自由に発言できる。いつ、何に使うかについての制限はない。意見を言うため、体験を話すため、分析を発表するため、教授への反対意見を述べるため、ゲストのCEOを批判するため、発言に反論するため、質問するため、提案するため、などどのような目的にも使える」。
 ある院生が赤旗を掲げてこう言った「コリンズ教授、今日の授業は特に非効率的であったと思います。質問によって答えを誘導しすぎており、われわれは自分で考えることができなくなっています。もう少し自分で考えさせていただけませんか」。仕組みによって、その場で授業の問題点についての情報を受け取れば、絶対に無視できない情報になる。
 製品やサービスに満足できなかったとき、主観的な判断だけに基づいて、請求書に対する支払を自由に減額できるシステムをとった企業がある。「調査を行えば大量の情報が得られるかわりに、うまく説明をつけてやり過ごすことができる。しかし、減額払いなら、情報に注意しないわけにはいかなくなる。顧客を失うまで、まったく気がつかないことを避けるために減額払いを早期警告信号にすれば、顧客が離れていくはるか前に対応できる」
 入手した情報を無視できない情報に変え、真実に耳を傾ける社風をつくるためにはシステムが実用的で役に立つことを証明している。

ストックデールの逆説

 ストックデールという人物がいる。ベトナム戦争の「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれた捕虜収容所で最高位のアメリカ軍人だ。8年間の捕虜生活で20回以上にわたって拷問を受け、いつ釈放されるか分からない、生き残って家族に会えるか分からない状況を生き抜いてきた。

 「結末がどうなるか分からなかったにもかかわらず、あなたはいったいどのようにして苦境に対処してきたのですか」
 「わたしは結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後にはかならず勝利をおさめて、この経験を人生の決定的な出来事にし、あれほど貴重な経験はなかったと言えるようにすると
 「耐えることができなかったのはどんな人でしたか」
 「楽観主義者は耐えられなかった。彼らはクリスマスには出られると考えた人たちだ。クリスマスが来て終わる。次は復活祭には出られると考える。そして復活祭が来て終わり、失望が重なって死んでいく」

 ストックデールの逆説は、偉大さを築き上げた人全員の特徴になっている。状況がどれほど厳しくとも、自社の凡庸さがどれほど気の滅入るものであっても、偉大な企業になって圧倒的な力を持つようになるとの確信が揺らぐことはない。しかし、同時に、自分が置かれている最も厳しい事実を直視する姿勢をとり続けている。

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