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しんすけの読書日記 『とめどなく囁く』

感想を書くのが難しい。

複雑なストーリと人間関係。それに著者特有の不条理世界が覆いかぶり、サスペンスドラマのように展開している。
そして物語は、最後まで道筋が分かりにくく書かれている。

本書に限らず物語とは、そういうものなのだが。今回は特にそれを意識させられながらの読書だった。
だが、読み終わったときは爽快感すら生じていた。

冒頭は豪奢な邸宅の庭園の描写から始まる。
邸宅の主人は塩崎克典で七十二歳、その妻早樹は四十一歳。
よくある話のようだが、この冒頭は話の始まりではない。

暫くすると早樹の前夫庸介が七年前に亡くなっていることが明かされる。
ここが話しの始まりで、早樹の周辺での事象が時間経緯を無視するように進んでいく。
これだからだろうか。桐野夏生を読むときは必ずカフカを思い起こす。
今回は、あの『城』の陰鬱な風景さえ浮かんでいた。豪華な邸宅が陰鬱に観えてくるからだろう。


これ以後は、作品の順序を時間軸に合わせて整理して書くことにする。

庸介と早樹は学業上の先輩と後輩だった。
庸介は大学の教職を選ぶが、早樹は大学以外の職を選ぶ。
そして庸介と早樹は結ばれる。些細な喧嘩はあったかもしれないが、それでに結婚生活は数年は続いたようにさえ窺える。

早樹は妻として尽くすが、庸介は学業に熱心で家庭を省みたとは思われない。
さらに庸介は、釣りを趣味にしていたが、早樹は釣りには関心を抱くことはなかった。

ところが庸介がその釣りで事故に遭い行方不明となる。死体が出てこないから死んだとも断定できない。
早樹は生活を維持するためにルポライターの仕事をしていた。そこで企業創立者としての塩崎克典のインタビューをすることになった。

それが奇縁となり早樹は塩崎克典に嫁ぐ、塩崎も妻を亡くした男だった。

庸介が死んだと思われて七年が経った頃、庸介が生きているのでないかと思われることが起こりだす。
そして早樹は想う。庸介が煩雑に釣りに行ってたのは早樹から逃れるためだったのでないかとさえ思う。

塩崎克典には、一人の息子と二人の娘がいた。
次女の真矢は早樹と同年で、父親との仲は最悪だった。今では家に寄りつかず、克典と早樹を誹謗するブログを書いている。

●克典の先妻は、克典に殺されたも同然。
●早樹は財産目当ての汚い悪女。
●自分は行き所がない女。

さすがに早樹も、これには驚愕し腹立たしさしか生まれない。克典にブログを償却するように頼むが克典は、動こうとしない。

そうした中で真矢の自殺騒ぎが起こる。命は幸いにも助かるが、真面まともな精神状態にはない。
克典は退院後の真矢を自宅に引き取ることにする。早樹は自分の居場所がなくなることを考え離婚すら考え始めていた。

だが自宅に戻った真矢は、早樹にとって負担になるような女ではなかった。
早樹と同じ四十一歳だが、可愛くさえ観える。

これから先を書くとネタバラシになるから、ここまでとする。

庸介は死んではいなかったとだけ、付け加えておく。

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