母と息子 73『魅惑の魂』第3巻 第2部 第1回
第二部
戦争は教育界に壊滅的な大打撃を与えてしまった。多くの教師が死んでしまった。そこでもっと女性に頼ることにした。二つの学士号を持っているアネットは、中部の町にある男子中学(リセ)に任命された。
1915年の10月の初めに彼女は出発した。
とても穏やかな秋だった。列車は田畑の間を進んで行き、長い停車中には、葡萄畑の上を飛び交う鶫の鳴き声が聞こえていた。そして静かな川が草原の中を流れ、金箔で縁どられた長い列車が帯を運んでいるよう観えていた。アネットはこの土地も人々のことも事前によく知ってた。さりげなく彼らに話しかけたりしていたが、その人たちに特有な皮肉な素振りも伝わってくることに気づいてはいた。彼女は、苦悩する魂から解放されるために逃げてきたようにも思うのだった。自分の息子をその苦難の中に置き去りにしたことを思わないではいられなかった。息子を危機から救えなかったことで、どうしても自分を責めずにはいられなかった。
しかしまもなく彼女は、そこでもある苦悩を見つけていた。パリからも離れたこの地方の空も、黒い雲の影が長く広がり出していた。その頃、アルトアとシャンパーニュでは、激しい戦闘が繰り広げられていた。そして捕虜たちが、、その後方であるこの地方へと護送され始めだしていた。
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