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夏 第446回 『魅惑の魂』第2巻第3部第126回

「何なのかしら、この果てない執着を呼ぶもの何なのかしら、それは果てないこの世への別離にも観える。こんなものがどうしてあるのだろうか? 生きることが血に塗れた欲望の歩み、そういうことなのか。それがわたしを心の解放に駆り立てているのかしら?…」
 それはほんの一瞬のことだった。これから先に何が起こるか、そんな心配をする必要がどこにあるのか。来たものは、以前のものと同じように過ぎ去っていくだけ、何が起こってもそれを突き破って進んでいく、わたしたちはそれをよく知っている。伝承の物語に、こんな言葉があったはずだ。「神が、わたしたちが耐えられる限界までの試練を、わたしたちの肩に負わせないように願う!…」
 彼女は今日の自分の試練を負った。今日は今日だけのものを!… 彼女は解放された気持がしていた、身も心も…
 To strive, to seek, not to find, and not to yield...
 求めなければ何も手に入れられない。
※ 英文を直訳すると「努力すること、求めること、見つけないこと、屈しないこと…」となるが、本文に書いた意味で用いられる諺。
「それでいい。いいのだ… 一日を無駄することなく過ごせた… 続きは明日から先のこと!…」
 彼女は起きていた。彼女は裸だった。そして、屋根の上には朝の太陽、八月の燦々と輝く太陽が彼女の肉体と部屋を照らしていた… .彼女は幸福だった… そうなのだ、すべてのことが!
 彼女の周りのすべては昨日とは変わりはなかった。大地も空も、過去も未来も。昨日は、大きな落胆でしかなかったものが… 今日はそのすべてが、彼女に輝いていた。

つづく

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