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夏 第445回 『魅惑の魂』第2巻第3部第125回

 朝が戻ってきた、昨日の苦悩をほとんど観ることができなかった、雪が太陽に溶けた痕跡だけが残っていた…
 Cosi la neve al sol i disigilla...*
*イタリア語で、「雪が太陽の光にとけるように……」
 そして戦い終わったときの、自分の勝利を確信しているのに似た疼く快感があった。
 彼女は苦痛を感じることに飽き始めている自分を知った、そこには彼女を満足させるための力の疼きがあった。苦痛も情熱と似たものだ。それから自分を解放するためには、飽きるまでの飽満を体験を一度は体験しなければならない。だが、そこまでやり切れる大胆さを持っている人はあまりも少ない。多くは、空腹を訴える犬に食卓に残ったパン屑を与える、それがせいぜいだとといえる。大き過ぎる苦痛をあえて受け入れ、それに反撃できる人たちだけが、苦痛を克服することができる。
「あなたこそわたしのもの、あなたはわたしの子を宿すことができる」と言える人たちだけが、彼女の視点に侵入できるはずなのだ。
 創造することができる魂だけが持った力強い抱擁、所有の欲望、それは実り豊かなものだった…
 アネットはテーブルに自分が書いたものがあるのを知った。彼女はそれを引き裂いてしまった。その秩序を失った乱れた言葉は、そこに観える感情とともに、今の彼女にとっては耐えがたいものでしかなかった。自分を満たしているこの幸福に邪魔なものを、彼女は混ぜたくはなかった。輪になっていた鎖の一部が切れて、自分を縛ったものが緩んだ安堵感を彼女は覚えた… それからの僅かの経過の中で、その鎖が多くの人たちの生活に潜んで束履を強いるものであることに気づいていた。一つひとつの出来ごとを経る中で、魂が止まるのもその鎖の中だった。自分という存在、ほかの人という存在(それは究極で同じもの)への鎖だった… 彼女は自分に問いかけていた。

つづく

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