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母と息子 第5回『魅惑の魂』第3巻第1部 第5回

 家の上から下まで、完璧な同意がそこにあるだけだった。一つだけの例外 (しかしそれにはだれも気づかなかった)は、新婚のシャルドネの妻だった。アネットの隣人の、この若い花嫁は抗議したくとも、口にするには弱すぎた。ほかの人々たちも、この今を理解しているとは言えなかった。彼らの完全な自由、生きる権利、それを犠牲にまでして彼らが貢ぐことを当然とする陰の支配者に従わなければならないのか、理解しているものは僅かでしかなかった。それでも一、二の例外で理解しようとしたものいたのだが、大半は理解しようともしなかった。それは無関心または服従することを当然として生きてきた結果とも言えた。だからはすべてが事前に同意を得て行われたと言ってもいい様を呈したともいえる。千の人間が同意するには理由は必要ない。互いに相手を自分に合わせて観察し、そこで観たことと同じように振舞えば、陰の支配者も喜ぶ事態に何ごとも自然に到達する。心と体の一切の自然のメカニズムが、努力することを求めなくとも、そこに導かれるための道案内になってくれる… なんてことだ! 群れを市場に導くことはとても簡単なことだった。融通が利かない頑固な羊飼い一人に、数匹の犬だけが居ればそれでいい。そこにいる動物が多ければ多いほど、それらは考えることをめた塊となって、全体が集団に溶け込んでしまう、そうなれば群衆は従順になってより扱いやすくなる。民衆は凝固した血のペーストのようなものなのだ… 避けがたい大変動の瞬間まで、民族や季節も定期的に更新されるまでは、それ以上のことを為すこともない。その後、流氷を砕く凍った川が国を覆い、その溶けた肉をもって国が覆われる…

つづく

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