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母と息子 第4回『魅惑の魂』第3巻第1部 第4回

 アネットが住んでいる建屋では上から下まで、どの家からも蜂の巣が群れを吐き出すのに似た様になっていた。各階からこの貢ぎ物が出されていた。どの階でも一軒以上が貢ぎ物を出していた。その各家庭の男たちが貢ぎ物として犠牲になっていた。
 最上階の屋根裏部屋には、一家の父親である二人の労働者がいた。五階には未亡人と三十五歳になるその息子がいた。アネットと同じ階には、結婚したばかり若い銀行員がいた。下の階は、司法官を家庭で、二人の息子がいた。さらにその下は、法学教授の一人息子いた。一階ではワインショップが営まれているが、その店にも息子がいた。この八人がこの建屋の中から戦士として選ばれた。だれも自分からそれを望まなかったが、自分たち意志を通すこともできなかった。近代国家では、個々人が意志を示すような煩わしさを、極力除いてくれるようになっている。多くはそれが良いことだと今では思うようになっていた。心配する苦労が一つ減ることになるからだった。

つづく

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