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夏 第436回 『魅惑の魂』第2巻第3部第116回

 以前だったが母が家に居ないときに家中を綿密に探索したことがあった。そのとき拳銃の所在に気づいた。それはノエミのものだったが、ノエミが去った後にアネットが見つけたのだが、彼女にとっては関心も持てないものだったから、無造作に引き出しに入れておいたものだった。それを見つけたマルクは自分のものとして、隠しておいたのだった。彼の決意が固まった。多くの子どもは自分の意志である行為を選択できると知ったときは、それに忠実に従おうとするのは確かなことだ。マルクもそれをすぐに実行したいと考えていた。自宅に戻った彼は、出かけたとき同じように物音を立てずに部屋に閉じこもった、それから拳銃を取り出して発射してみた。学校では年上の友人がポケットに拳銃を忍ばせて持ち歩いていた。ギリシャ語の授業の時間に、脚の間に鞄をぶら下げそのくぼみに拳銃を隠すようにしながら、周りの子どもたちに操作の方法を説明してれくれたことがあった、マルクはそれを思いだしながら、武器の準備をした。そしてマルクの射撃の準備が整った… 彼の射撃の陣はどこになるのだろうか? しくじりはけっしてしてはならない。姿見の前に立って考えた… けれども仆れた後はどうなるんだ?… それよりも座って、机に寄りかかってその先を考えていた、机の上に鏡をおいてから、それを辞書を使って支えるようにした… これで彼は自分自身をよく観ながら実行できることにな。彼は拳銃を手に取った、それを自分に当てようとした… えも身体のどこはいいのだろう。こめかみの上がいいって聞いてるけれど… とても苦しいことにならのだろうか… こうしたこと考えながらも、母のことをまったく考えていなかった。今の彼は自分を襲った懊悩からの情熱の苦しみでいっぱいになっていて、その準備を整えることだけが占めていた… 鏡に映る自分を見つめていると、彼を動かすものが生まれていた… とても可哀そうなマルク!… 消え去る前に、この世の中に対して自分が苦しんできたことを残しておく必要があると感じだしていた、この世界を彼がどれだけ軽蔑していたかを、残しておかなければ… それはこの世界への復讐だ、彼は復讐する義務がある、後悔を形として残す必要がある、そうしてそれを知った者たちから賞賛される必要があるのだ… 学生のための大きな用紙を探しだしてから、それを歪めるように折った(彼は急いでいたから)… それからは、覚束おぼつかないものの、生真面目な子どもらしい字を使って、こう書き綴っていた。

 彼女がぼくを裏切りました、ぼくはもう生きていけません。周りは悪い人ばかりだった。もう何も愛することなんかできない、だから死んだほうがいい。女はみんな嘘つきだ。卑怯者だ。女は愛すること知っていない。ぼくは彼女を軽蔑する。ぼくを埋葬するときには、この紙をぼくに貼ってほしい。「ぼくはノエミのために死ぬ」

つづく

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