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夏 第413回 『魅惑の魂』第2巻第3部第93回

 フィリップも、アネットが彼に憑かれていたように、アネットに憑かれていて、彼女の不在中に彼女の住まいを訪ねて来ていた。アネットの突然の脱走を知って彼は憤慨した。それが自分から逃げるための行動と認めること彼にはできなかった。いまアネットがどこにいるのかが知りたかった。それからシルヴィの住まいを訪ねあててそこへ出かけて行った。彼はシルヴィを一目見て、そこに宣戦布告の意志があることに気付いた。シルヴィには解っていた。憤りに満ちた不信感で武装した彼女は、アネットの眼でなく、自分の眼でフィリップを裁いていた。敵にしたら危険な男だが、恋人にしたらいっそうに危険な男、自分が愛するものを打ち砕いてしまう男。それがフィリップだ。彼女は経験からその種を知っていたから、それには近づきもしなかった。横柄な口調で、アネットがどこにいるのかを尋ねるフィリップに、何も知らないと冷たく答えた。しかし顔ではそれが偽りであることフィリップに知らせていた。フィリップは自分のいら立ちを懸命に隠そうとしていた。そしてシルヴィが、うっかり言いかねないような、甘い言葉も口にした。シルヴィは口を閉ざしたままで表情も変えなかった。彼は激怒したものの立ち去るしかなかった。
 だがフィリップがアネットを懸命に探すことはなかった。ジュイ・アン・ジョザの道路の埃を車に乗って浴びることも彼は考えなかった。彼はアネットを探しもしなかった。無駄な追求のために自分の日々を犠牲にするつもりも彼にはなかった。アネットが戻ってくると確信していた。しかし彼女がいなくなり、寂しい思いをさせられたことと、大きな困惑を感じされたことで、彼女を許せない気持ちは膨らんでいた。そしてその怒りは、怨みと憂鬱さを晴らしたい猛烈な欲求を生んていて、彼を妻に向かわせることになっていた。ノエミとっては代わりの女を務めさせているようで、かなりの屈辱だった! 今の彼にはこれしかないことが、彼女にも判っていた、彼はもう一人を待っているのだから。

つづく

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