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パーフェクトマイル 1マイル4分の壁に挑んだアスリート

1マイルを4分で走ることが不可能と考えられていた時代、同じ時期に才能あふれる3名の選手が偉業を達成すべく自身の限界に挑んだノンフィクション物語である。

イギリスのロジャー・バニスター。彼は医師を志す学生であり、1950年代にも関わらず、自身の身体を実験材料とし、最大酸素摂取量などを測定し、理論的に4分の壁に挑んでいた。

オーストラリアのジョン・ランディは裕福な家庭に生まれ、農学を学ぶ大学生。ヘルシンキオリンピックの惨敗をきっかけに走ることに目覚め、世界を席巻していた人間機関車ザトペックや欧州勢のトレーニングやフォームを参考に、ハードトレーニングをこなして4分の壁に挑んだ。

アメリカのウェス・サンティーは農場に生まれるも、父親の暴力に苦しんでいた。走ることを見出され、家で同然で大学に進学。そこで出会った第二の父ともいえるコーチと時には衝突しながらも二人三脚で4分の壁に挑んだ。

結論から言えば、4分の壁は破られるのだが、誰が破ったのかは是非ご自身の目で読んで確認して欲しい(彼の名前は有名なので既にご存じかもしれない)。

日本短距離界でも100m10秒の壁が立ちはだかっていたが、桐生選手によってその壁が壊されてから複数選手が突破し、現在は9秒95まで短縮されたことは記憶に新しいと思う。伊東浩司さんが10秒00を出してから実に19年間誰も突破出来なかったのに、一人が壁を破った途端に障壁はなくなったのだ。

同様に女子マラソンで高橋尚子さんが2時間20分を切ってからは女子選手の20分切りは世界の常識となった。日本男子マラソンにおいても設楽選手が高岡寿成さんの日本記録を突破してから日本記録は2回更新された。

同書内でも触れられているが、1人が4分の壁を破った途端になだれ込むかのように4分切りが続出する。そして現在では1マイルの世界記録はヒシャム・エルゲルージの3分43秒13まで短縮されている。一昔前は4分を切ると死ぬと言わていた時代があったにも関わらずだ。

もちろんテクノロジーの進化もあるであろう。しかし、我々がある一定のところで障壁にぶち当たり、前へ進めない時、本当は肉体は既に壁を超えられる状態にあるのかもしれない。必要なのは固定概念を捨てて、壁を壁と思わないことなのかもしれない。

この本はただ単にノンフィクション物語として、3人の男とその仲間たちが目標に向かって走り続けた事実を単に楽しみ、走ることに対する純粋な熱意を思い出させてくれるだけでなく、自分が感じている壁は自身や周囲の思い込みが作り出す幻影だと教えてくれる、そんな一冊だ。

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