コメント_2019-11-10_184132

EC王者Alibabaの「越境ECライバル買収」に込めた2つの狙い

2019/11/10追記

今回のnoteを機に、ライターとしてデビューすることができました。「ありがとうございます」の一言に尽きます。

今後は、「決算が読めるようになるノート」で定期的に企業分析を発信する予定です。世の中の面白いこと、分からないこと、これからもどんどん見つけていきたいです。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


以下本文
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

1.Alibabaによる越境EC Kaolaの買収

9月10日。この日は、中国のIT業界において歴史的な瞬間になりました。
Alibaba創立20周年の節目であり、会長Jack Ma氏が同社を華々しく引退した日でもあります。

しかしその前にも、Alibabaは新体制の前哨戦として、原点であるEC業界へ大きく勝負を仕掛けました。それが下のニュースです。

『Alibaba、NetEase傘下のKaola(越境EC事業)を20億USDで買収』

越境ECとは、海外の商品を取り扱い、自国のユーザーに届けるEコマースのこと。今回の買収後、同じく越境ECとしてAlibaba傘下にあるTmall Globalとは別のブランドとして運営を続ける見通しです。

2.Tmall GlobalとKaolaの特色

Tmall Global

Tmall Globalは、Alibaba傘下の国内ECであるTmalの姉妹サービスです。2008年に設立したTmallは、今や中国内で60%のシェアを占めるほどに成長しています。その後、海外商品(特に日本の化粧品や生活雑貨等)への需要が高まると睨んだAlibabaは、2013年に越境ECであるTmall Globalを立ち上げました。
Tmall Globalのコア商品は化粧品や食品、ベビー用品であり、ファーストラインブランド(高価)を得意としています。

▼Tmall Globalのサイトイメージ(化粧品がカテゴリーの一番上)画像2

出所:中国BtoC-ECシェアNo.1の「天猫」(Tmall)とは?
https://www.ecbeing.net/contents/detail/133

Kaola

一方で、Kaolaの誕生はとてもユニークです。運営会社であるNetEaseは、もともとは巨大なオンラインゲーム企業です。ECに関するノウハウ・アセットが無いなかで、2015年にまず越境ECのKaola、そしてその翌年に国内EC(Yanxuan)を立ち上げています。

Kaolaのコア商品はベビー用品や化粧品であり、セカンドラインブランド(廉価)を得意としています。

▼Kaolaのサイトイメージ(ベビー用品がカテゴリーの一番上)
画像2

出所:中国ECの巨頭、天猫や京東を超えた越境EC コアラとは?
https://www.live-commerce.com/ecommerce-blog/kaola/#.XYD0j25uI2w


3. 越境ECにおいて市場シェア 50%の獲得

ではこれから、AlibabaがKaolaを買収した狙いを見ていきたいと思います。まずは一番に挙げられる狙いが、越境ECの市場シェアを拡大することです。

買収ニュースをいくつか眺めていると、どのメディアも2つのリサーチ会社(日本での矢野経済研究所に相当)のいずれかの調査を引用していました。

そのコンサル2社が出しているレポートでは、1社はKaola、もう1社はTmall Globalを、市場シェアNo.1として発表しています。

1. iiMedia Researchの場合:Kaolaが1位
2019年上半期の市場シェアは、Kaola 27.7%+Tmall Global 25.1% = 52.8%

画像13

iiMedia Research『2019上半年中国跨境电商市场研究报告』
https://www.iimedia.cn/c400/65637.html

2.Analysis易観の場合:Tmall Globalが1位
2019 Q2の市場シェアは、Tmall Global 33.1%+Kaola 25.4% = 58.5%

画像14

Analysis易観『中国跨境进口零售电商市场季度监测报告2019年第2季度』
https://www.iimedia.cn/c400/65637.html


どちらのレポートにおいても、Tmall GlobalとKaolaの市場シェアを足し合わせると50%を超えます。つまり、AlibabaがKaolaを買収したことによって、越境ECの市場シェアの半数を手に入れたことが分かります。

3. ARPUからわかるKaolaの「低価格化戦略」

なぜ後発のKaolaが、先発のTmall Globalに肉薄する市場シェアを獲得したのか、1ユーザーあたりの売上(ARPU)から考察していきたいと思います。

各社の2018年度のAnnual Reportにもとづき、EC事業のARPUを比較してみました。すると、AlibabaのARPUは$73.7(7,915円)、NetEaseは$20.1(2,158円)と3.66倍の開きがあります。

画像14

出所:
1.Alibaba Group Announces Filing of Annual Report on Form 20-F for Fiscal Year 2019
https://otp.investis.com/clients/us/alibaba/SEC/sec-show.aspx?FilingId=13476929&Cik=0001577552&Type=PDF&hasPdf=1

2.NetEase Annual Report 2018
http://ir.netease.com/static-files/ed2a1743-a797-43b7-a81f-7cfaf40a0867

このARPUの圧倒的な価格差から、NetEaseおよびKaolaは、低価格で商品を提供することで、Tmall Globalに対し競争優位を確立していることが分かります。

なぜ、このような低価格を実現することが出来ているのでしょうか?

4.Kaolaの低価格を支える「三方良し」のサプライチェーン


その鍵は、Kaolaが海外商品を現地で直接買い付けるモデルを取っていることにあります。

Tmall Globalは、海外ブランドをスカウト制という形式で選んでいるものの、商品のセレクトまでは管理しておらず、「プラットフォーム」であることに偏重しています。

一方でKaolaは、国内/海外で自社の倉庫を持ち、海外商品の直接買付、運搬、倉庫管理、運営、プロモーションまで手掛けています。その一連の流れを図にまとめました。

画像15

「直接買付モデル」を取ることによって、プラットフォームであるKaola、ユーザー、海外ブランドの三者にとってそれぞれメリットが生まれます。

1. Kaolaのメリット
一連のサプライチェーンを自社で管理することで、高度にサービスの品質と価格をコントロールできます。それは巡り巡って、ユーザー側へ低価格で提供できるという強みにつながります。

2. ユーザーのメリット
低価格で商品を買えます。また、直接買付により製品の信頼性が担保されます。Kaolaはフェイク品の場合は10倍の金額補償を約束しているため、ベビー用品などのデリケートな商品でも安心して買えます。

3.海外ブランドのメリット
ワンストップでサービスを利用できるという高い利便性があります。自分で運営する必要がないため、中国市場を調査するといったマーケティングの手間が省けます。

※海外ブランドとのネットワークを構築したKaolaは、世界トップクラスの工場と提携して独自のブランド(PB)を育成しています。9カ国の400以上の工場と協力したことが功を奏し、2018年には販売量が600%増加しました。

出所:网易考拉全球工厂店首家线下店开业,目标孵化数十个亿级品牌
https://www.tmtpost.com/3906147.html


このビジネスモデルを立ち上げるために、Kaolaは自前で倉庫を持っており、海外に18か所(2017年時点)、中国内に15か所(2019年6月時点)抑えています。

また、サービス全体をつなげる物流を自社のクラウドで管理し、国内の運搬業者と連携していち早くユーザーへ商品を届けることを可能にしています。

出所:阿里巴巴收购网易考拉 跨境进口零售电商格局将定
https://finance.sina.com.cn/stock/relnews/us/2019-09-09/doc-iicezzrq4694909.shtml

5. まとめ: Alibabaの狙い 

最後に、AlibabaがKaolaを買収した狙いをまとめます。

画像8

1.中国の越境EC市場の半分を押さえること

市場シェアが大きくなることでより強い集客力を得られるため、海外ブランドへの価格交渉や勧誘の力が増します。

ちなみに、Tmall Globalの国別売上No.1は日本です(2017年時点)。今回の買収により、中国向け越境ECでの販売を考えている日本ブランドに対して、交渉面において影響が出てくる可能性があります。

2.サプライチェーンを強化

Kaolaが持っている物流ノウハウや、海外ブランドとのネットワークを手に入れることが出来る点は非常に大きいです。

Alibaba傘下には「Cainiao(菜鳥)」という世界トップクラスの物流会社があり、Alibabaのあらゆる事業を支えています。今回の買収により、「1+1≧2」の相乗効果を生むことが期待されます。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

6. 最後に

今回、企業分析を初めて記事の形でまとめ、皆さんに発表しています。この体験で大きく感じたのは、やはり、記者やビジネスライターの方々の偉大さ。もう尊敬の念なしでは記事を読めません。いつも本当にありがとうございます。

英語・中国語が読める、ということを活用して、これから何かビジネス寄りの投稿をしていきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

先輩方からアドバイスやサポートをいただけると新卒は飛び上がって喜びます。