見出し画像

ボリュームを一つ上げる 〜SIX LOUNGE〜

仕事でサプライズをよくする。


手作りの小さなホールケーキを作り、お客様が書いて欲しい言葉をチョコペンを使ってカッコイイ字体でプレートの上に書き、リクエストを受けた音楽を店のスピーカーで豪快に鳴らし「おめでとうございまーーす!」と言いながらお客様の前に持っていく。まぁ至ってなんの変哲もないサプライズ。


実は数ある仕事の中でもサプライズは結構気に入ってる。
記念日という、いわゆる特別な日に店を選んでくれるのが嬉しいというのはもちろんのことだけど、それ以上に僕はお客様の顔を見れるということに価値を感じる。


キッチンで仕事をしてる以上料理を直接提供するのはホールの仕事、つまりキッチンは普段裏方だ。
コンサートで例えるならホールがフロントマンでキッチンは裏方のスタッフといった感じだろう。
だからこそケーキのサプライズは僕が直接お客様と感情でコミュニケーションを取ることができる数少ない手段なのです。


でも、ある時事件が起きた。


20代後半くらいの若年夫婦が結婚記念日のサプライズで店を使ってくれた時に、今流行りのofficial髭男dismの「Pretender」をBGMに指定された。いざ流していつものようにケーキを持っていったが、なんだか気持ちが上手く乗らなくて少し引き攣った笑顔になってしまった。
昔から作り笑いが苦手ですぐバレる。


上司は「仕事としてやってる以上はマンネリ化してどうしても気持ち乗り切れない時あるよね。次は切り替えてとびきりの笑顔でいこ。」と慰めてくれたけれど、僕は軽い気持ちでこの事態を考えることができなかった。


その時に気づいてしまった。僕はいわゆる若いエネルギーが爆発したような恋を謳っている曲を聞くとテンションが下がってしまうらしい。


これは問題だ。この仕事はプロとしてやっている、しっかりとパフォーマンスができるのがプロの条件だ。
お給料をもらっている以上はどんな曲を流してもお客様に100パーセントの気持ちでケーキを持っていかなければいけない。それができないのは些か問題だ。


そこで、巷で流行りの恋歌くらいはちゃんと知っておいた方がいいと思い、休日を使って根こそぎ全部聞いてみることにした。でも結局集中力が続かなくて気付けばベットの棚にある読みかけの文庫本をペラペラとめくったり、youtubeで睡眠の質を上げるBGM集を調べてうとうと昼寝を決め込む時間になってしまった。


昔は「目が合うだけで〜」「運命の人〜」といったお決まりのフレーズにキュンキュン悶えながら没頭していたのに。いつからか耳障りになり、恋愛感情を唄う曲に惹かれなくなっている自分がいる。


なんでなんだろう?過去の恋愛にトラウマでもあるのだろうか。


 思い返してみると、初めて彼女ができたのは中学校3年生の時。初めてだらけの経験を経て分かったことは恋は結構しんどいということ、人は案外大丈夫と思ってても寂しい生き物なんだということ、人は他人の恋愛を嗅ぎ回ることが好きなんだということ。


自分なりに寄せ集めの知識で精一杯彼女のために尽くしたけれど、思ったように伝わらない。ていうか、思えばその時から昔聞いてた恋歌の歌詞みたいなことは一度も起きなかったなぁ。
大人になると選ばないといけないことが増えた。子供の頃は全て欲しいでまかり通るけど大人はそうはいかない。
そして、いいわゆるリアリティの無い物を「くだらない」と評し、優先順位を下げてしまう傾向がある。


恋歌は自分にとって紛れもなくそういう存在だったんだろう。




SIX LOUNGEは今日も愛を歌う。


出会いも、別れも、青春も、アダルトも、エモーショナルも。全部をロックンロールに乗せて淀みない気持ちを声高らかに鳴らしてる。


彼らを見て思う。誰もが無意識に線を引いている恋と愛の明確な違いとはなんだろう?恋歌が聞けないのにSIX LOUNGEの音楽は心地よく聴けるのは何故なんだろう?


この手の恋か愛か論はこれまで色んな人が見解を露呈してきたけれど。正直、青二才な僕にはさっぱり分からない。







ーーー








 話は少し逸れるけれど、恋愛といえば語らずにはいられないことがある。
僕は昔から坂元裕二さんが脚本を手がける恋愛ドラマが好きだ。


「いつかきっとこの恋を思い出して泣いてしまう」
「カルテット」
「anone」
「世界の中心で愛を叫ぶ」
何が好きかというと作品に出てくる人間のキャラクターがドラマの王道とは少し逸れているというところだ。
いや結構逸れてるのかもしれない。
頼りなくて、細かくて、ねちっこくて、倫理的で、どこか弱い。
なんだか自分に似ている。
「わかるなぁ」と思うものを観てると安心する。


そんな一見頼りないキャラクターたちに共通して言えるのは、好きな人に対しては揺るぎなく愛があるということだ。
坂元さんの描く愛の物語には王道のドラマでよく見る浮世離れするくらい性格爽やかイケメンや、臭くて蓋をしたくなるような決めゼリフは存在しない。
ただそこに生活があり、人がいて、熱い愛を表現してる。


最近、友達に勧められて見た「大豆田とわ子と3人の元夫」というドラマに没頭してしまった。
調べてみると坂本裕二さんの作品だった。どこかそれっぽい雰囲気を感じてたから「やっぱりそうなのかぁ」と思いながらビールを飲みながら全話一気に観た。


ドラマのテーマ自体は人と生活だったり主人公のレジリエンス的な美しさを描いたものが中心だったけれど、やっぱりどうしても細かくて、ねちっこくて、倫理的で、どこか弱いキャラクターに目が行ってしまった。


中でも「田中さん」という主人公であるとわ子の1人目の元旦那が気になって仕方がなかった。
田中さんが本当に好きな人はとわ子の幼馴染であるカゴメで、その気持ちを隠したままとわ子と結婚したがあえなくして離婚。
数年経った今でもカゴメのことがまだ好きなのだけど、うまく気持ちを伝えられず回りくどい愛情表現をしてしまう様子がなんとももどかしく且つ人間らしく見えた。
「人ってそういうところあるよなぁ」と、うんうん頷きながら缶ビールを体に流し込まずにはいられなかった。真っ直ぐに相手に気持ちを伝えられる人間になれるのであればなりたかったなぁ、憧れる。


ただ恋や愛を描くだけじゃなくて人間臭い描写に親近感を感じ、リアリティを帯びて心に残ってる。ネチネチや倫理的は世の中的には正攻法ではないかもしれないけれど、そこにある愛は間違いなく本物で暖かい。僕はきっと坂本裕二さん作品のそういうところが好きなんだろうなぁ。


そういえば、これってSIX LOUNGEに似ている。


そこに揺るぎない愛があって、正攻法なことばや手段ではなくともしっかり心臓に伝わる。ねちっこい回りくどさの中に愛を感じて仕方がない。
ポップな恋歌よりも、人間らしさを感じる愛のロックンロールがたまらなく好きなのだ。


恋の歌が聞けないのに、なぜかSIX LOUNGEを心地よく聴ける理由は、きっと彼らが謳っているのが「恋」ではなくて「愛」だからだ。はっきりと理論めいたことは言えないけど、恐らくそれ以上でも以下でもないんだと思う。


や、待て待て。


なんか上手くまとまろうとしているけれど、そもそも根本的な問題を解決できてない。
サプライズの恋歌ガン萎え事件は解決できてないし。恋と愛の明確な違いも正直さっぱりわかっていないままだ。


でも、たまには何も解決せずに終わる会があっても良いのかもしれない。
そもそもこれまでのnoteもそこまでしっかり解決できていたわけじゃなかったし、ただ熱くなって終わるだけの日もあって良いだろう。


音楽も、ドラマも。僕は人の熱を感じたい。




最後まで読んでいただきありがとうございます。 いただいたサポートはライブハウスのために全額募金させていただいています。         ↓ https://311tegami-onlineshop.stores.jp/items/5e8967d99df1633392fe0855