「暴走族」との接し方

指示待ち人間ならまだいい、指示を待たずに勝手に動く人間、指示をしても無視して動く人間には困り果てる、という指摘があった。どれだけ叱っても直そうとしない。そんな人にどうすればよいか、と。
全員当てはまるとは限らないが、そうした「暴走族」にも一定の効果を示す方法があるにはある。

前にも紹介した、「あさイチ」の実験。「交差点では止まって!って言ってるのに!」いつも親の言うことを聞かず、道路に飛び出してしまう、親を困らせてばかりの子どもたち。この子たちにある課題を与える実験を。目隠しした親と一緒に、安全に道路をわたってほしい、と。

すると子ども達は、左右を見ろとも言われないのに何度も何度も左右を確認し、クルマが来ないことを確信してから、目隠しした親の手を引いて、慎重に渡った。何度言っても道路に飛び出していた子ども達が、一人残らず。親御さんと、実験を企画した大学の先生も、その変貌ぶりに驚いた。

こうした暴走族系の子ども達は、信頼される、任されるという体験に乏しいのかもしれない。しかし親の命を預けられ、自分の振る舞い如何で親が死んでしまうかもしれないという責任を背負わされた時、周りを念入りに観察し、慎重に行動するようになった。

親が先回りして心配し、注意する場合、子どもは「親が安全確認をしてくれてる」ことに直感で気づく。だったら自分はそこを手抜いていいや、となり、楽しいことにまっしぐら、という面があるのかもしれない。安全確認のアウトソーシングをしてしまうのかも。

子どもの離乳食が始まると、赤ちゃんが「暴走族」になって困ることがある。よりによって、食べさせる親の方を向かず、あっちの方向に面白いものはないかと顔をそむけて、ちっとも食べさせられない。見当つけてスプーンを持ってくと、口が開いてなかったり顔を動かしたりでご飯がボロボロ~と落ちる。

この「暴走族」に、どうしたら離乳食を食べさせることができるか?私は実験してみた。スプーンを、赤ちゃんが首を伸ばしてなんとか届く距離に離してホバリング(空中停止)。ひたすら待った。赤ちゃんはよそ見ばかりしていたが、ふと、一向にスプーンが来ないことに気がつき、パカッと口を開けた。

しかしここでスプーンを突っ込むと、またよそ見が始まると考えた私は、そのままホバリング。すると、赤ちゃんは首を伸ばし、なんとか食べようとする。ついにパクッ。そのとき、私は「おお~!」と驚きの声を上げ、再びスプーンをホバリング。すると、赤ちゃんはよそ見せずに首を伸ばすゲームに熱中。

赤ちゃんは、口元に自動的に運ばれるスプーンという、挑戦しがいのない課題に飽きていたのだろう。どうせ黙っていてもスプーンは口にやってくる。ならば、他に楽しいことはないか、探した方がマシ。それが、離乳食でのよそ見につながっていたのだろう。

そこで私は、離乳食にちょっとしたハードルを設け、ゲーム性を取り入れた。赤ちゃんの現在の能力で、どうにか届く程度の距離にスプーンがホバリングする、というもの。私は観客として、赤ちゃんがその競技をやりおおせるか見守る。うまく行けば驚きの声を上げる。

赤ちゃんは、自分の能力の限界に挑戦するというゲームに夢中になる。ゲームが楽しいから、よそ見するヒマはなくなる。よそ見という暴走行為はなくなり、なんとか背伸びして成功させるというゲームに熱中する。「できない」を「できる」にギリギリ変えられる課題があると、熱中する。

孔明が自分の後継者に、と期待していた馬謖。その馬謖に、孔明は口酸っぱく「山の上に陣地を作るな」と指示した。自分の才能に自信がある馬謖は、子ども扱いされたようで面白くない。わざと山の上に陣を張り、それでも勝てることを証明しようとした。結果は大敗。孔明は泣きながら馬謖を斬った。

これは、孔明が情に篤(あつ)く、だけどルールには厳格である美談として語られている話だけど。もし孔明が馬謖に「問い」を発していたら、と思う。「山の上に陣地を作ったらどうなると思う?」と。孔明が答えを出すのではなく、馬謖に考えさせ、答えてもらったら。馬謖は問題にすぐ気づいたろう。

山の上に陣地を築く危険に気がつき、違う場所に陣を張った方がよい、と孔明に提案しただろう。孔明はその判断の的確さに驚き、頼もしく思う顔を見せれば、馬謖は山の上に陣を築くようなことはなかっただろう。孔明が先回りして指示したために、馬謖はアマノジャクになってしまった。

暴走族系は、人から指示されるのが嫌い。自分で考え、挑戦することが大好き。ならば、「問い」で思考を刺激し、考えの浅いところをなくすアシストだけして、アイデアはすべて本人の口から言わせた方がよい。すべて自分のアイデアなら、喜んで実践する。

①信頼し、任せる、②少し背伸びしないと達成できない、でも背伸びすれば達成できる課題を与える、③「問い」によって思考を刺激し、本人の頭で考えさせ、本人の口から計画を述べさせる。
これらの方法が、「暴走族」には有効な方法だと思う。全員ではないにしろ、かなり効果を示すケースが多々あると思うので、お試しあれ。

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