時代を席巻する政治思想は「分配」がカギ

近代史を見渡すと、結局、時代を席巻する政治思想は、「分配」がカギになっているように思われる。
第二次大戦前の欧米は民主主義でもあったが、それ以上に自由主義でもあった。お金持ちはますます金持ちに、貧困層は生きるギリギリの生活に。そんなとき、共産主義は生まれた。

共産主義はみんなで生んだ富はみんなに「分配」すると約束したことで急速に広がりを見せた。第二次大戦後もドミノ理論というのか信じられて、このまま放置すると世界中が共産化すると思われていた。
共産化した国々では資産家は財産を没収され、ひどい場合は殺された。西側欧米のお金持ちは恐怖した。

そこで西側欧米のお金持ちは妥協することにした。ケインズ経済学による修正資本主義。お金持ちへの配分を抑え、多くの人に分配することを意識した政治経済体制。
その結果、興味深いことが起きた。共産主義国では分配がうまくいかず、西側欧米は分配が比較的スムーズに進んだ。

共産主義国は、「作れ」と命じれば生産は増えると単純に考えていたフシがある。しかし政府が計画して生産した商品は魅力がなく、消費は低迷。生産現場も、命じられて作るのでは面白くなく、給料は決まった額くるしで、生産性も低迷した。

他方、ケインズ経済学は「再分配」の仕組みを設けることで貧富の格差が大きくなり過ぎないようにはしていたものの、何をどれだけ作るかは自由。それで儲けるのも自由。得られた収益が大きいと税金多めに取られるものの、それでも手元に残るお金も大きくなる。生産意欲を高めやすかった。

自由に作る商品を決められるから、消費者の好みに合うものが作られる。消費意欲も刺激されやすく、売れるから生産意欲も刺激されやすい。仕事も比較的見つけやすい。富の再分配も行われる。共産主義より結果的に富の分配がうまくいった。これが共産主義の崩壊を招いたのだと思う。

しかし同時に、西側欧米も変質し始めた。サッチャー、レーガンが導入した新自由主義が貧富の格差を生む仕組み、「分配」が機能不全に陥る仕組みがスタートし始めていた。しかしまだ当時は西側欧米に「分配」機能がしっかり残っていた時代だったので、共産主義国よりも優れて見えたのだと思う。

しかし共産主義国が次々に崩壊してみると、西側欧米のお金持ちは「もうこれで共産化する心配はない、殺されたり全財産没収されることもない」とタカをくくり、新自由主義化を推し進め、「分配」機能をどんどん破壊していった。

そんな中、中国やロシアが「分配」をうまくやり始めた。これらの国は民主主義を導入するとまとまりにくいという欠点もあってか、権威主義になりやすい。ただしこれらの国の指導者は権威主義者であるなりに、「分配」を意識している面も強かった。

とはいえ、ロシアも中国も貧しく、そのままでは「分配」しようにも元手となる富がない。そこで中国は「先富論」を唱え、まずは豊かになれる者から豊かになれ、という一部自由主義を導入した。富を渇望していた人々は、様々な工夫と努力で富を瞬く間に形成した。

ロシアは石油や天然ガスなどの資源に恵まれている。これを大統領の支配下におさめ、世界に輸出することで富をまず生み出した。これによって生まれた富は、経営者にある程度の富を許容した上でロシア国民に「分配」した。これがプーチン大統領の支持につながっているといえる。

中国はある程度成長した今、「分配」に舵を切っている。うまくいくかどうかは未知数だが、「分配」を意識しているのは間違いない。また、ロシアも資源が生み出す富を国民の豊かさになるよう、「分配」を意識した運営をしている。

この結果、「分配」を意識している権威主義国の方が魅力的に見え、「分配」を放棄したかのようにお金持ちに富が集中する民主主義国は魅力を失いつつある。
結局、時代を席巻する政治思想とは、「分配」がカギになっているように思われる。

私は、民主主義でありながら「分配」が行われる修正資本主義が最も好ましいと考えている。権威主義は、言いたいことも言えない不自由さがあり、その分、損。自由と、ある程度の富を誰もが分かち合える民主主義であった方が望ましいと思う。しかし「分配」機能が弱まれば、話は違ってくる。

格差拡大を放置すれば、お金持ちや権力者への怒り、恨みが蓄積する。どうにかお金持ちなどの支配層に一矢報いたいという思いが強まる。それが、民主主義国で権威主義を生む原因だと思う。つまり、「分配」を怠るから権威主義になり、自由を失うのだと思う。

今の民主主義国の多くは新自由主義に毒されて、「分配」が機能していないように見える。これが民主主義の魅力を大幅に減じ、自ら権威主義を呼び寄せてしまうのだろう。

新自由主義を好む人は、イギリスやアメリカがサッチャーやレーガンを迎えるまで、経済が停滞していたことを思い出して、「分配」すると国の経済が低迷する、と懸念する。
しかし当時、すでに反証が存在した。日本。ケインズ経済学による修正資本主義だったのに、世界第二位の経済大国に。

修正資本主義でも次々に新産業を生み出し、世界を席巻する商品を作り続けた。むしろ新自由主義的な政策を取り始めてからの日本経済の低迷は著しい。日本に新自由主義は相性が悪いように思う。修正資本主義はイノベーションと決して矛盾しないように思う。

時代を席巻する政治思想は「分配」を怠らない。そのうえで富を作るための工夫が次々に生まれる仕組みも導入する。この2つが重要なのだろう。この2つをうまく組み合わせた民主主義が再び元気を取り戻すことを期待したい。

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