貨幣システムと経済成長と雇用と

現在の貨幣システムは経済成長を必要としている。お金が、ゴールド(金)と交換することを約束していた金兌換紙幣の時代には、貨幣システムはまだ経済成長を前提としたものとは言えなかったように思う。しかし産業革命以来、石炭や石油など化石燃料のエネルギーで人類の活動が膨れ続けていた。

化石燃料で人類の活動がどんどん巨大化しつつあったのに、お金の発行量はゴールドとの交換を約束していたものだから増やせない。その矛盾を解消するため、ゴールドとの交換をやめると宣言したニクソン・ショックが起きたと言える。ゴールドとの交換をやめたことでお金をどんどん増やせることになった。

これと同時に、経済成長が必要になることが定まったように思う。今の貨幣システムは、常に経済成長することを前提として組み立てられている。しかしその経済成長は石油などの化石燃料で支えられていた。化石燃料をバンバン燃やして人類の活動を巨大化させることで経済成長し、お金も増殖してきた。

けれど、経済成長の駆動力だった化石燃料の増産が難しくなってきた。増産どころか、石油はどうやら採れづらくなってきたらしい。世界有数の産油国サウジアラビアが必死になって再生可能エネルギーの産業を育てているのもその証左のように思う。化石燃料を駆動力とした経済成長は限界を迎えている。

代わって期待されてるのがインターネット。仮想空間であるインターネットの世界は、これまでの自動車を乗り回す経済と違って、比較的エネルギーと資源の消耗が少ない。それでいて仮想空間だから無限に拡張できる。経済成長するフロンティアとして使える可能性がある。

エネルギーと資源を極力消耗しない社会、それでいて経済成長を続ける貨幣システム、この2つを、インターネット社会は両立させることができるかもしれない。もし理想的な組み合わせが実現できるなら、エネルギーと資源の消耗が激しい産業はなるべく縮小し、代りにインターネットを充実させれば。

経済成長を続けながらエネルギー・資源を極力使わずに済む社会を実現できる可能性がある。
しかし一つ問題がある。インターネット企業は、経営者と高度技術者と株主は儲かるが、その他の人々は低賃金にあえぐか、あるいはそもそも雇おうとしないこと。

エネルギー・資源消耗型産業をたたんでインターネット企業に移行しようとしても、インターネット企業は「技術のない人間はいらない」という。この結果、インターネット社会になると、仕事を失った人たちが大量に発生し、社会が不安定化する恐れがある。

ついこないだまで、インターネット企業は、そうした社会不安が高まろうと「役に立たない人間は、いらないったらいらない」と言っていた。しかし否応なしにエネルギー・資源消耗型産業は雇用を抱える力を失い、行き場を失っている。未来に伸びる産業がインターネットしかないなら、吸収するしかない。

リスキリング(学び直し)は、そこから生まれた動きではあるのだろう。とはいえ、インターネット企業は、高度技術者は欲しくても、簡単な技術しかない人間はいらない、と言い続けるかもしれない。
しかし、それもやり方次第だと思う。

そもそも、インターネットが普及する前から、社会はエンターテイメント化しつつあった。自動車もデザインが大切で快適さも必要。家も住めればいいだけではなく、楽しく快適に住める方向に進化している。食器もただ飲めればよいわけではなく、お気に入りのデザインが大切になったり。

インターネット以前から、社会はエンターテイメント化していた。エンタメには、ただ表に出てくる人だけでなく、多くの黒子、縁の下の力持ちを必要とする。インターネット社会でも、そうしたところに雇用を生み出すことは可能なはず。必ずしもインターネットの高度な知識が必要なばかりではない。

実際、ネットショップは高度なプログラミングの知識がなくても始められる。仕組みさえあれば、高度技術者でなくてもインターネット世界で様々な経済圏は作れるはず。
問題は、インターネットのサービスの多くが無量で提供されているため、多くの雇用を抱えることを難しくしていること。

おそらく、グーグルマップのようなサービスは、新しい情報に更新したりサービスを維持するのに巨額な資金を投じてるはずなのに、無料で公開している。これは利用者からするとありがたいが、見方によるとダンピング(不当な安売り)。無料でサービスを提供したら、ライバル企業が育たない。

ライバル企業が育たないだけでなく、その分、雇用が減る。
グーグル検索も無料で便利だが、それによりライバル企業を叩き潰している面がある。そのために社会全体として雇用を減らしている恐れがある。

地図や検索サービスは、お金をかけて構築してるのに、無料で提供するのは、究極のダンピングかもしれない。そのために、生み出されるはずの雇用を消してる恐れがある。
雇用を増やすため、今後これらのサービスを有料化することを義務付け、それによって入る収入を元手に雇用を義務付けるのもアリかも。

エネルギーと資源を消耗せずに済む社会の実現には、インターネット経済への移行が大切だろう。しかしそのためには、インターネット経済が多くの雇用(あるいは収入)を生まなければならない。それを世界が実現できるかどうか。難しい舵取りが求められる。

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