西粟倉村のチャレンジ(どこやそこ?と思った方、まずは読んでみなはれ)

今回、西粟倉村でいろんな方のお話を聞いて非常に刺激を受けた。その時、改めて気になったことがある。よく「山は海の恋人」と言われるが、逆に「海は山を育てる」のでもあるのでは?という思いを新たにした。

考えてみると、山はずっと雨に洗われ続けているわけで、いつか養分が抜け去り、植物が育たない(貧弱になる)状態になるリスクを抱えているように思う。日本では山に緑があるのは当たり前だと思われているが、私は必ずしも当たり前ではないのではないか?ということを危惧している。

では、山に養分を送っている存在は何だろうか?それは、海から川へ遡上する魚が大きな存在なのではないか、と考えている。ウナギやシャケ、アユなどは回遊魚と呼ばれ、海から川へと遡上する。すると彼らをエサとするキツネやクマなどが食べ、山を歩き回ってフンをし、それが養分を供給する。

また、もう一つの候補は渡り鳥。干潟などで足を休めると同時に魚を食べ、山に移動してフンをする。さらにもう一つの候補は、虫。生き物の死骸やフンを食べ、羽で空を飛んで移動し、やはり重力に逆らって山にフンや自らの死骸をまき散らし、養分を供給する。

魚、鳥、虫は、重力に逆らって海から山へ向かって窒素やリンなどの養分を供給し、山を植物で茂らせる大きな要因になっていた気がする。しかしこの循環が大きく断たれている恐れがある。多くの河川がコンクリートで固められ、魚が遡上できない構造になっているためだ。

西粟倉村の川には、野生のオオサンショウウオがいる。オオサンショウウオ自体は、三重県の博物館(MIEMU)に飼育されているので見ているのだけれど、野生が河川にいるのを目撃したのは生まれて初めてだった。しかも2匹!非常に貴重な経験をさせていただいた。
 ※7日に帰る前に聞いたところ、同じ穴に4匹もいたという。

子どもたちが川遊びをしたのだが、そこには野遊びの天才・熱田さんがいて、子どもでもできる網での魚獲りの方法を指導してくださった。私は父と一緒に網で魚獲りを子どもの頃に試みたことがあるが、一度も成功したことがない。ところが熱田さんは実に見事。子どもたち全員成功!(その後、すべて放流)

どの石に魚がいそうか、その下流にどのように網を用意すればよいか、なぜ網をそのようにする必要があるのか、魚はどう逃げようとするのか、その性質を利用してどのように追い立てればよいのか、どのタイミングで網を引き揚げるのか、引き上げるにもどのようにすればよいのか。見事に言語化。

私でさえドジョウを捕まえることができて、興奮した!現代に熱田さんみたいな人がいるという奇跡に驚いた!なんと豊かな川だろう、と思っていたら、「少ない」のだという。その原因が、コンクリートで固められた護岸の構造にある。

私が見せていただいた野生のオオサンショウウオが典型的なのだけれど、その場所の上流にもオオサンショウウオが棲んでいるにもかかわらず、コンクリートで固められた滝を超えることができず、繁殖ができないのだという。生息地が分断され、思うように生息数を増やせない状況にあるのだという。

問題はオオサンショウウオに限らない。山に養分を届けてくれるアユやウナギが川を遡上できない原因にもなっている。山に養分を届ける重要な要素が欠落してしまっている。「山を枯らす」(貧弱にする)原因になりはしないか、と私は心配している。

海に目を転ずると、鳥が羽を休め、エサを食べる干潟はほとんど失われてしまっている。これでは鳥が魚などの魚介類を食べ、山に運ぶ動きを封じられてしまう。昆虫は農薬のせいなのか何なのか、私が大学生になった頃を境に激減している。3つの「海から山を肥やす」要素がすっかり細っている。

西粟倉村の、牧さんをはじめとするエーゼロ(A0)グループは、オオサンショウウオを一つの象徴として、海から山へ生き物が遡上できる構造を取り戻そうとしている。ふるさと納税でその資金集めを試みている。この「実験」は大変有意義だと思う。
furusato-forgood.jp
【オオサンショウウオで魚(ぎょ)ッ!とする川ガキを未来へ。】プロジェクトが始まりました@岡山県西粟倉村

エーゼログループがいったい何をしている会社なのか、正直、行ってみるまで全然見当がつかなかった。木材加工をしているかと思えば、イチゴを育てたりウナギ養殖したり鹿肉を買い取ったり介護事業したり、IT事業を手掛けていたり。え?何の会社なん?と実に不思議に思っていた。でも、現地で納得。

堅実な事業も行いながら、未来につながる何かを残せないかと理想を捨てず、それににじりより、それらも事業として成り立たせることができないかと試行錯誤をしている会社なのだという。投資家、株主への説明が面白い。「お金は儲からない。でも100年後も残るものをしていく」。

それに納得してくれる投資家だけを株主として迎え入れているのだという。そんな投資家いるの?と思ったら、初日の5日にその人たちがウジャウジャいた!しかも一緒になって川に入って泳いでる!魚獲って遊んでる!おもろいな!この人たち!

社長の牧さん自身が、自然界の天才・熱田さんに弟子入りして野生のウナギの生息場所を探したり、ワナの仕掛け方を学んだり。自然と向き合うことを楽しんでいる。もともと生態学を学んでいた方で、何とか生態系を回復させることを仕事にできないかと日夜あがいている。おもしろい!

昨日、かつてNHKの潜水カメラマンとして活躍し、家業のコンクリートの会社を継いだという方が参加されて、オオサンショウウオや魚たちが遡上できる安価で現実的な方法を提案しておられた。詳細はここでは控えるが、目からウロコ!これ、日本の国土を変えるかもしれない。

エーゼログループでは、カネにならない実験をたくさんしている。その中で非常に面白かったのが、田んぼ。やり方は非常にシンプルで、田んぼの畔の内側にコンクリートの溝を作り、そこにいつでも水が張っている状態にし、かつ、雑草を生やしたままにする、というシンプルな方法。これをすると。

水田は「中干し」といって、苗がある程度育つと水を抜いてしまい、イネに根を張らせる工程がある。しかしこれをどこの水田でも行うようになったために、水生生物が激減してしまった。田んぼにウジャウジャいたドジョウさえ貴重な魚になってしまった。しかし。

畔の内側に水路を作り、そこに雑草を生やしたままにすることで、ウジャウジャとドジョウが!これまた面白いことに、水路の幅は「魚獲りの網が入るよう」に設計したというから、遊ぶ気満々!で、私も網を突っ込むと、ドジョウが4匹も!たった1回で!なんという生物量(バイオマス)!

その田んぼでは、いもち病の農薬は撒くけれど、殺虫剤はまかないように気をつけてイネを育てているという。そうしたほんのちょっとした配慮で、ドジョウやウナギのエサとなる赤虫(ユスリカの幼虫)がものすごい数で増え、それを食べるドジョウやオタマジャクシが増え、それを食べる猛禽類が増え。

すさまじいバイオマス量になっていくのだという。ほんの少し、生命が育まれる遊び、ゆとりを持たせるだけで、生命は恐るべき力で増殖する。わずかな水路を用意するだけで、どれだけのタンパク質源を確保できるか知れやしない。エーゼログループのこの実験は実に愉快!

もし、魚たちが遡上できないコンクリート護岸の問題を、低コストな方法で改善できるようになれば、田んぼの畔の内側に用意した水路で起きた「生命大爆発」と同じことが、河川でも起きる可能性が高い。そうしたバイオマス量が山に養分を大量にもたらしてくれる可能性がある。

そうして豊かになった山は、今度は海を豊かにしてくれる可能性が高くなるだろう。
私は有機水耕を研究しているさなかに、あることに気がついた。「海から鉄が消えているかも?」ということ。

有機水耕を開発する際、鉄分などのミネラルをどうやって補おうと思った時、たまたま職場に残っていた古いカキ殻を用いたところ、開発に成功した。これでしばらくうまくいっていたのだけれど、同じメーカーの同じ商品のカキ殻を購入したところ、鉄が半分以下になったとしか思えない結果になった。

以前から、ダムなどがどの河川にも設けられたことで山から海への養分供給(特に鉄分)が途絶え、海が鉄欠乏となり、生物が激減しているという話を聞いていた。私が最初に使用した牡蠣殻は1990年代のもの。しかし2000年代以降のは、鉄が激減していることが実験から感じられた。

そこで、鉄分が多いと言われている海産物を片っ端から調べた。すると、90年代の食品分析表で示されている鉄の量よりも大幅に減っていることが分かった。海苔も昆布もワカメも!たまたま「あ、これ鉄分多い!」と思ったら、韓国産だった。国内の海産物は、軒並み鉄分を減らしていた。

これは恐らく、河川がダムなどでズタズタに分断されているため、山から海への養分供給が止まってしまっているためだろう。山から海に養分を送る道が断たれている可能性が高い。上述したように、逆に海から山に養分を送り返すシステムも崩壊している。これはいわば。

人間で例えれば、動脈も静脈も縛って血流を止めてしまうことで、手足にも心臓にも栄養がいきわたらない状態にたとえられるだろう。山は海を支え、海は山を肥やす関係なのに、私たちは河川を通じてその循環を破壊してしまっている。

西粟倉村の人たちは、その状況を打開できないかと試行錯誤を重ねている。オオサンショウウオが遡上できる構造を吉野川に作ろうとしているのは、その重要な試金石。

その他にも、いろんな知見が私の中に流れ込んできて、消化するのに時間がかかりそう。今回は私が講演するという形をとったのだけれど、私が膨大な情報を頂いた格好。西粟倉村、面白い。皆さんも、試しに旅してみてはいかが。かーなーり面白いですよ。

追伸1
西粟倉村のエーゼログループはウナギの養殖をやっているのだけれど、社長の牧さんが「どうにかウナギの生態系を回復できないか?」と考えて、国産ウナギをふやすプロジェクトを始めている。https://tabe-tsugu.jp/unagi/
こうしたお金にならない事業を始めてしまうところも面白い会社。

追伸2
すっかり長くなったけど、西粟倉村つながりで、もう一つ気になったことを述べたい。この村にはリムルベーンという養蜂家・蜂蜜生産農家がいる。https://reml-behn.com インスタグラムでハチ・蜂蜜に関する動画・映像をたくさん紹介していて、海外を中心にフォロワー数が7万を超える。
reml-behn.com

フォロワーは、インドが一位で、中東などの国など海外から「取り寄せたい」という問い合わせをたくさんもらうのだという。ところが決済手段で簡単なものがなく、要望を断っているのだという。日本の農産物を海外に輸出する好機なのに、決済手段がないためにうまくいかないという残念なケース。

この点を、行政や金融機関が協力して解決してもらえないだろうか。このリムルベーンのような、零細かもしれないけれど海外から注目を浴び、高額でもいいから買いたい、という需要を丁寧に拾い上げることができれば、それだけで一つの輸出産業を育てるのに匹敵する力になる可能性がある。

今の時代は、インスタグラムをはじめとするSNSのおかげで、零細企業でも海外に発信力を備え、海外に輸出することが可能な商品力を備えている企業が、他にもたくさんあるように思う。こうした問題を解決できる技術・インフラを用意することは、日本を強くする重要な手段となる。ぜひご検討頂きたい。

魚を大人が追い込み、子どもたちが網で待ち構えるの図。このとき、アカザやアマゴ、タカハヤ、ヨシノボリが子どもたちの網に!
ドジョウ、オタマジャクシが!
熱田さんが前の晩に獲ってきたという野生のアユ(漁業権を熱田さんは持っておられる)。「何人かで釣ったんですか?」と聞いたら、「一人で、網に追い立てて。小さいのはみんな逃がして、立派なのだけ持ってきた」。40匹はあるのに?たった1人で一晩で?もう驚愕。
アユの塩焼きを炭火で。こんな数を一斉に調理してるのを初めて見た。うまく隣り合わせることで串が回転しないようにしている。こうしたちょっとした工夫も、普段からやり慣れているからこそと思う。この人、只者ではない。
野生のウナギも熱田さん、捕まえたという。小さいのは逃がして大きなのだけ数匹。昨晩に。いや普通、ひと晩でそれだけ捕まえられないでしょ?熱田さんによるウナギをさばく実演。ウナギ屋さんに弟子入して、手さばきを見てまなんだのだという。野生をありがたく頂くために学ぶ姿勢がすごい。
こちらはエーゼログループの方によるウナギをさばく実演。養殖物。万を超すウナギをさばいてきただけあって、早い!きれい!熱田さんも感心しながらその手つきを注意深く観察。
今回お世話になったお宿、あわくら温泉元湯。レスリング日本チャンピオンが廃業した温泉宿をリノベーション。洒落た内装、落ち着いた部屋、美味しい食事。とても楽しい時間を過ごしました。若いスタッフと、若いお客さんでびっくり。こんな田舎なのに!(失礼)
今回講演させて頂いた会場のBASE101%。木工所と隣接しており、レストラン併設。料理はどれも美味しかった!あ、料理の写真とるの忘れた・・・とても盛りつけがきれいでインスタ映えする料理でした。




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