産後の睡眠欠乏

育児の大変さは、それこそ昔から言われていたけれど、産後の授乳期の睡眠欠乏(欠如と言いたいくらい)の深刻さは、不思議なくらい言語化されていなかった。育児の大変さの一つとしてカウントされていたけど、one of them(たくさんの中の一つ)扱い。なんでこんな軽い扱いなの?不思議だった。

私たち夫婦も、すぐに認識できた訳ではない。息子はよく母乳・ミルクを飲む子で、かつよく寝た。最初こそ睡眠欠乏はあったが、そのうち速やかに睡眠時間が伸びていき、睡眠欠乏の問題が日々軽減されていったから。しかし娘が生まれて以降、睡眠欠乏の深刻さを思い知ることに。

娘は鼻づまりがひどかった。息が苦しく突然泣き出し、起こされる。YouMeさんは極端な睡眠欠乏に陥った。私はYouMeさんが壊れてしまわないかと気が気ではなかった。私もYouMeさんも、眠るのが大好き。食事と寝るの、どちらを選ぶ?と聞かれたら寝るのをためらわず選ぶくらい。なのにYouMeさん眠れない。

娘の夜泣きは三年間続いた。その間に私は、娘の鼻腔の形と鼻汁の粘性を想像しながら、抱っこしてあやしつつ、角度と振動を調整することで鼻汁をのどに流し込むテクをマスター。そんなこんなもあって、少しずつ睡眠欠乏の問題は快方に向かって行ったが、YouMeさんの睡眠欠乏は本当にきつかった。

YouMeさんの睡眠欠乏ぶりは、これをきっかけに自己免疫疾患などになっても不思議ではないと思うくらい、疲労困憊の原因になっていた。YouMeさんはそんな中でも明るく振る舞ってくれて、実に頭が下がったし、心から尊敬もしたが、この睡眠欠乏の問題、どうにかせんといかん、と思うように。

YouMeさんとは、まさに最中に何度も睡眠欠乏について話し合いをしていたのだけど、「よく覚えていない」のだという。ものすごくつらかったはずなのに記憶がほとんどなく、どんなことがつらかったか、具体的に思い出せない、と。ああ、だからなのか、と私は思った。

東日本大震災の時、原発事故の問題に対処した人物が、その体験をマンガにしている。4日間連続徹夜で、一睡もせずに対処せねばならなかったときの記憶がないのだという。どうやら記憶が定着するには睡眠が必要であるらしい、ということが指摘されていた。
ああ、だからか。

これだけ多くの女性が、産後に極度の睡眠欠乏に陥り、肉体的にも精神的にも追い詰められるのに、いまひとつ言語化されず、意識化できていなかったのは、眠れなさすぎて記憶が飛んでしまっているからか!記憶がないと、どれがつらかったのか、思い出すことさえできない。

これは言語化しなければならない。男性はおろか、女性も産前には知らされていない、この睡眠欠乏の問題をどうにかして認知してもらわなければ。しかも、深刻なケースの場合、夫婦だけで解決できない。社会的なサポートも必要。どうやって訴えたらよいか?

「これからお父さんになる男性に知っておいてほしいこと」と題して、Twitterでまとめた。「拷問の中でもっとも耐え難い」のが睡眠欠乏(不眠)であるとして、これをなんとしても回避してほしい、と訴えることにした。その後、JBPressの記事としても発表。
https://t.co/3TFLJlMOYD

するとほぼ同時期に、素晴らしい女性の書き手達が、文章なりマンガで睡眠欠乏の問題を取り上げるように。いろいろ育児には難問があれど、眠れなければ疲労困憊、余裕がすべて失われ、諸問題をさらに深刻化させる。カギとなる問題は睡眠欠乏、という認知が広まってきた。

私が睡眠欠乏の問題を言語化できたのは、睡眠が私もYouMeさんも大好きだったことが大きいかも。眠れないと疲れがとれない体質なのに、24時間まともに眠る時間がないことに恐怖した。しかも何ヶ月、何年も続きかねない。だからこそ、これは言語化しなければ、と思えた。

それと、YouMeさんと育児について毎日夫婦で話し合ったことも大きい。渦中にいるときは、あれだけ「1時間でいいから気兼ねなく寝たい」と言っていたYouMeさんが、睡眠欠乏の問題が快方に向かう頃、「よく覚えていない」と言ったのに衝撃を受けた。記憶を失うくらい、睡眠欠乏はきつい。

睡眠欠乏は最も過酷な拷問である、というたとえは、男性にも理解しやすかったらしく、産後を夫婦で乗り切ろうとする男性が増えたことは大変嬉しい。男性側から、授乳期の睡眠欠乏を現場レポートする事例も出てきて、男性側もようやく認知が広まりつつある。

授乳期の睡眠欠乏は、昔からあったはずなのに長らく言語化されていなかったのは、一つには、この時期の母親を支えるシステムが一気に崩壊したことも原因として上げられるだろう。夫婦共働きが一般化し、しかも実家を離れてのケースが増え、ワンオペになりやすいことが深刻化する原因なのかも。

社会的装置が失われつつある中、まずはパートナーである夫が睡眠欠乏の軽減に努める必要がある。しかし睡眠欠乏は、夫婦二人でもキツい。社会的装置の再構築も必要。児童虐待の少なからずが、ワンオペによる睡眠欠如からきてる可能性が見えてきた。睡眠が欠如したら肉体も精神もまともでいられない。

睡眠欠乏を改善できたら、疲労が蓄積しにくくなり、肉体的にも精神的にも余裕をこじ開けやすくなる。恐らく、授乳期の最大の問題は睡眠欠乏だろう。この課題を軽減できたら、子育てはかなり楽になる。楽しいものになる。多くの知恵とお力を仰ぎたい。

JBPressの記事にしたものはこちら。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52688

眠れないと記憶が定着しない、という斑目氏の話を紹介した記事はこちら。
https://t.co/MFvhtNXdu3

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