石油は極めて優れたエネルギー・原料

石油は、極めて優れたエネルギーであり、原料だと思う。同じ化石燃料でも、石炭や天然ガスはなかなか石油の代わりを果たすことが難しい。ましてや、原子力や太陽電池などのエネルギーも、石油の代わりを果たすことは難しい。そのあたりのことを少し考えてみたい。

石油は、1リットルあたりが抱えるエネルギー(エネルギー密度)がものすごく高い。ガソリンは7970kcal/Lもある。他方、現時点で最も優れた電池であるリチウム電池は447kcal/L、石油の5.6%でしかない。石油はわずかな量で大量のエネルギーを抱える、素晴らしいエネルギー。

しかも、化学物質の原料としても超一級。様々な化学薬品やプラスチックなどの原料になる。天然ガスや石炭を原料にしてこれらを製造しようとすると、かなりのエネルギーのムダと手間がかかる。天然ガスは炭素同士の結合を作るのが面倒だし、石炭は炭素同士の結合を切るのがめんどくさい。

もし石油が使えないとなると、化学物質(プラスチックや化学薬品、農薬)の多くはかなりコストが上昇するだろう。石油は化学原料としても超一級の優れもの。
燃料としても超一級。いまだに自動車や船、飛行機など、輸送機械のエネルギーのほとんどが石油依存(95.3%)。エネルギー密度が高いから。

乗用車は電気自動車が普及し始めているが、大型トラックの電化はまだ難しい。電池だと今のトラックの三分の一程度の距離しか走れない。充電にはかなりの時間がかかる。今まで通りの輸送は、石油を使わない社会では難しい。

石油が使えないとなると、原子力や太陽電池などで代わりが果たせるかというと、それもまだ心許ない。原子力や太陽電池などの再生エネは、原則、電気を作るだけ。しかし電気は「貯める」ことが非常に難しい。電池は、今のリチウム電池だとパワー不足。現在開発中の固体電池でもまだパワー不足。

揚水発電で電気を貯める方法もあるが、すでに現時点で追いつかなくなっている。貯められないから太陽電池からの発電を止めてもらう事態がしばしば。しかし揚水発電を増やそうにも、ダムの適地はそうあるわけではない。雨が降らないと揚水発電は機能しないという問題も。

余った電気で水素を作る、という話もある。これに向けて様々な技術開発が進んでいる。実用化が進むことを祈るが、現時点ではまだ課題が多い。水素はガスであり、液化も困難。いくら冷やしても液化しないし、プラス圧力かけてようやく液化。しかも厄介なことに、水素はタンクを脆くする性質が。

水素分子はとても小さく、金属に染み込む。その際、金属を脆くする。水素脆化という現象。水素を圧縮して貯めようにも、タンクが脆くなって壊れるようなことがあったら大変。
水素が金属に染み込む性質を逆用して、水素吸蔵合金というのもある。でも、大した量を貯められない。水素を貯めるの、大変。

というわけで、太陽電池や原子力で電気を作れるメドは立ったとしても、作ったエネルギーをどうやって貯めるか、という問題は未解決。電池で貯めるか、揚水発電で貯めるか、水素を製造して貯めるか、重力発電で貯めるかなどがあるが、まだメドが立ったとは言えない状況。ブレークスルーがほしいところ。

石油は一定の貯蔵性があるのも便利。そう考えると、石油はあまりに素晴らしいエネルギーであり、原料であったと思う。石油が使えなくなったら、かなりのコストアップが起きるのは避けられないだろう。石油は安くて優秀なエネルギーであり、原料であった。

石油で築き上げられた社会生態系が崩れたとき、他のエネルギーや原料を使った社会生態系に乗り換えざるを得ないが、石油があった時代とは全く異なるものになるのは、恐らく避けられない。

なお、「石油はまだまだある」という指摘があるだろうから、追加。確かに資源量としてはまだある。2020年の石油消費量の50倍以上あるという試算もある。これを見ると、あと50年はやってける気がする。しかし「資源量」という指標はあまりよくない。大切なのは、石油がエネルギーとして意味をもつか。

中東で石油を掘り始めた頃は、採掘に要したエネルギーの200倍の石油が採れた。しかしシェールオイルなんかだと、10倍を切ることも。エネルギーとしての黒字分がどんどん減っている。3倍を切ると、エネルギー的に赤字。ガソリンなどに加工するエネルギー分が必要だから。

石油は、その「3倍」に近づきつつある。掘ってもエネルギーとして赤字になるなら、掘る意味はなくなる。投資家は、掘っても大して石油が採れないリスクを恐れ、投資を渋るようになってきている。投資が無駄になるかもしれないエネルギーとして、「座礁資産」と呼ばれるように。

石油をエネルギーとして利用できなくなったとき、私達の社会は激変するだろう。その時(石油が採掘エネルギーの3倍を切るとき)は、刻一刻と近づいている。ここ20-30年の間に、石油に依存しない社会にシフトさせる必要がある。まだ石油が採れる間に。

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