2つの矛盾するメッセージに悩まされる「ダブルバインド」
今回は、強いストレスを与えてしまうコミュニケーション「ダブルバインド」について説明します。
日本語で「二重拘束」と訳されます。
2つの矛盾した内容のメッセージを与えられることで、混乱して精神状態が拘束され身動きが取れなくなるコミュニケーションのことです。
日常生活の中に潜んでいて、つい私たちもしてしまったりされたりしています。
ダブルバインドは、健康的ではない心の状態にします。
この記事では以下の内容を書きました。
・ダブルバインドの理解
・される側になっていないか、する側になっていないか
・回避するための対処法
自分や大切な人の心の健康を守るために参考にしてみてください。
ダブルバインドは、文学人類学者であり精神医学の研究者でもあるグレゴリー・ベイトソンが精神疾患の統合失調症の子どもを持つ家族を調査する中で発見したコミュニケーションパターンです。
1956年に発表した論文により提唱されました。
現在では統合失調症の発症との関連はないとされています。
それでもダブルバインドが発生するコミュニケーション環境に長い間身を置くことは、相当なストレスがかかるため、精神的ダメージは大きいのです。
ベイトソンが挙げた例です。
統合失調症で入院している青年のわが子の所へ見舞いに母親が来ます。
青年が喜んで母親に近づくと、母親は不安な表情を見せ、わずかに身を引きます。
青年はそれに反応して行動を止めます。
すると母親は「嬉しくないの?」「ママのことが嫌いなの?」と聞いてくるのです。
それにより、青年は近づいても身を引いても責められる状況になり、精神状態が悪化したのです。
ここでは相反する2つのメッセージがあります。
「ママのことを愛せないの?」と「しぐさによる拒否」。
他にもこのような場面がダブルバインドと言えるでしょう。
子どもに自立してほしいと言いつつも、コントロールしたままにしておきたい親のコミュニケーション。
DVをしておきながら、愛していると謝るパートナーのコミュニケーション。
無理しなくてもいいと言いながら、忙しく休みを与えない雰囲気の職場環境。
ダブルバインドには長い間身を置くことによる悪影響があります。
・何を選んでも責められるため、自責の念や自己否定が強くなる。
・自分の意思による選択が認められないため、自信が育たない。
・自分の考えをまとめられずに正常な判断ができなくなる。
・本当の気持ちよりも周りが期待するものを慮り、それに応えるようになる。
このように強いストレスと悪影響を及ぼすダブルバインドですが、そこから抜け出す対処法も説明します。
■される側の対処法
① 離れる(距離を置く)
ダブルバインドのコミュニケーションを取ってくる相手から離れてなるべく関わらないようにするのが一番の方法です。
② 誰かに相談する
とはいえ、親や職場の上司など離れられない関係もありますよね。
その場合は、客観的な意見をもらえる相談相手に相談することをおすすめします。
③ 自分の気持ちを大事にする
そして、客観的に考えられるようになってから、周りではなく自分の気持ちを認めて大事にするのです。
④ 非言語メッセージを重視する
ダブルバインドをしてくる相手をよく観察し、言語的メッセージよりも非言語的メッセージの方を重視します。
相反する2つの言語的メッセージの場合もあれば、言語的メッセージと非言語的メッセージの意味が反することもあります。
私の経験上、非言語的メッセージの方が信用できます。
表情、しぐさ、声色などを読み取り、判断しましょう。
■する側の対処法
① 強い立場にいることを自覚
ダブルバインドは強い立場(親、教師、上司など)から発せられやすいです。
そのため、自分がそのような立場であるなら、ダブルバインドになっていないか冷静に考えましょう。
② 自分の感情を自覚
相反する自分の感情があることが自覚できていない場合にやってしまいがちです。
③ 説明を省かない
そのつもりがなくても説明不足により矛盾するメッセージを伝えてしまうことがあります。
職場で「無理しなくてもいい」と言いつつも、忙しさから休みづらい雰囲気を出しているなら。
「そういう雰囲気になってしまうことがあったらごめん。本当にお願いしたいときにはちゃんと言うからね。その時にはお願い」といった説明です。
④ 言語と非言語を一致させる
自分が話す言葉は自覚しやすくても、表情やしぐさ、声色などの非言語の方は自覚しにくいものです。
どのような表情などを自分がしているのか自覚し、言語と非言語を一致させましょう。
ここまで説明してきたのは、2つのメッセージに対してどちらを選んでもマイナスの結果になるダブルバインドでした。
そのようなものを「否定的ダブルバインド」と言います。
一方でどちらを選んでもプラスの結果になるダブルバインドがあります。
それを「肯定的ダブルバインド」と言います。
「肯定的ダブルバインド」の例も紹介します。
心理療法家ミルトン・エリクソン(1901‐1980)やジェイ・ヘイリー(1923‐2007)が治療の場面で用いていた「治療的二重拘束」と呼ばれる方法があります。
治療者が与えるメッセージに患者がYES(できた)で反応してもNO(できない)で反応しても、治療的に良い結果になるというものです。
「うつ状態で何もできません」と言う患者に対して。
治療者がこのように伝えます。
「うつ状態の間はちゃんとうつのままでいなきゃだめですよ!」
「次回の診察までに治っちゃだめですよ!」
次回の診察のときに患者が
「治らずにうつのままでいました!」(YES=治療者の指示通り)
なら自分で症状をコントロールできたということになります。
「治っちゃいました!」(NO=治療者の指示に反する)
なら治療できたということになります。
商談場面での例。
次回の商談日程を決めたいとき。
「次回お会いして話しましょう」と提案すると、
「ちょっと考えさせてください」と断られる可能性があります。
そこで、
「次回は1週間後がいいですか?それとも2週間後がいいですか?」と二者択一で聞いてみます。
すると、
「うーん、それじゃあ、2週間後でお願いします」と返答するかもしれません。
どちらを選んでも会う結果になります。
合うことを前提にして2つの選択肢を提示しているのです。
このようにダブルバインドを応用した「肯定的ダブルバインド」は日常の様々な場面で使うことができます。
まとめです。
2つの矛盾した内容のメッセージによる否定的ダブルバインドは、強い精神的ストレスを与え、長期間その環境に身を置くと悪影響を及ぼします。
ダブルバインドを抜け出すためにされる側、する側それぞれが対処していきましょう。
応用である肯定的ダブルバインドもおまけに紹介しました。
以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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小林いさむ|公認心理師