当事者with専門家が聞く「オープンダイアローグって何?」
2020年10月18日のネット心理教育は、比較的新しい心理療法である「オープンダイアローグ」についての特別編でした。
話題提供をしてくれたのは、オープンダイアローグ・オンライン研究会 主催者であるクロさんです。
そして今回のサマリーを担当するのは、舞茸らぴと布団ちゃんです。
今回の目標は、「語ることを考えることによって、自分と誰かの関係性をよりよくするためのヒントを得よう!」です。
オープンダイアローグは一言でいうと、対話することによる心理療法とも言うことが出来ます。
まずはオープンダイアローグとはどんな心理療法なのかをみていきましょう。
1.オープンダイアローグとは?
オープンダイアローグとは、対話を重視した心理療法です。
オープンダイアローグでは、医療関係者は「どんな診察・診断をするのか」「どういった治療をするのか」等を全て患者さんの前で話をします。
対話はそれ自体、対話を続けることが目的で、治療は副産物であるといえます。
スライド一番下の「今この場において他者を尊重する」とはどういうことを指すのでしょうか。クロさんに聞いてみました。
クロ「オープンダイアローグでは”他者性”を大切にしていて、人それぞれ考え方も違うけれども、色んなあり方をそのまま尊重する事を大事にしている。」
他者性とは、他者であるから相手のことがすべて分かるなんてことない、だからこそ、知っていきたいという気持ちの基礎となる考え方です。
また、オープンダイアローグでは、誰が中心になることなく輪になって皆で話をしていくという形態で心理療法を行います。
従来のカウンセリングは1対1のイメージでしたが、オープンダイアローグは複数人数で行うことが特徴です。
クロさんによると、相談する側と相談される側の一方向のコミュニケーションではなく「真ん中に声をおき、皆で共有することを大事にしている」のがオープンダイアローグということです。
2.オープンダイアローグの評価
医者が薬物治療を行う前にオープンダイアローグを行うことで、1/3程度の人が薬物治療を行わなくとも良くなったという調査結果もあります。
これが実際にどんな人に対しても適応するのかと言うのを今検討しているという段階です。
次に、3人のオープンダイアローグとの出会いについて話しました。
3-1.窓師のオープンダイアローグとの出会い
窓師によるとオープンダイアローグと出会った当初は「非常に驚いた。単に話し合うだけで、こんなに染み入るのか、自分が染み入ったリアクションを返すことで、分かり合えるのかと驚いた。」そうです。
薬剤師から見て、統合失調症は薬で抑えているイメージがあったそうで、「対話で良くなるのか」という驚きがあったとのことです。
3-2.布団ちゃんのオープンダイアローグとの出会い
布団ちゃんは以前にオープンダイアローグの最先端、斎藤環先生の話を聞く機会があったそうです。斎藤先生は「ひとぐすり」という表現をしていたが、その当時は半信半疑だったということでした。
4.クロさんとオープンダイアローグとの出会いをお聞きする
では今日の話題提供者、クロさんはどのようにしてオープンダイアローグと出会ったのでしょうか。Q&A方式で聞いていきました。
Q. いつどんな状況で知ったのか
2020年、『対話のことば オープンダイアローグ に学ぶ問題解消のための対話の心得』という本の著者の方が自分の地域でオープンダイアローグについての勉強会を行ってくれ参加したのがきっかけ。
Q. なぜオープンダイアローグに興味を持ったのか、最初のイメージ
最初のイメージは対人関係社会リズム療法が双極性障害に効くという知識があり対人関係をより良くすることがいいのかもしれない、使えるのかもしれないと思った。
元々存在を知っていた「べてるの家」(北海道にある精神障害者の地域活動拠点)では「3度の飯よりMTG」「自分たちのことは自分たちで助ける」をモットーにしていたが、より構造化された手法が加わることによって、良いものができるのではないかと感じた。
最初のイメージでは「これって使えるんじゃない?効くんじゃない??色々な人に使えるんじゃない?」と思った。いろいろな病気や、病気でない人に関わらず、応用できるのではないか?
以前に死にたいときや困ったときに話す、似たような存在(エンカウンターグループ)に参加したことがあり「やれそう、いけそう」だと思った。
Q. 個人的な効果?あるいは変化
今年の5月から、オープンダイアローグオンライン研究会を初めて、15回以上回を重ねているが、最初に体験したとき(自分が困ったことを話す側になった時の体験)は「なぜ、どうしてこんなにあったかい気持ちになれるのか」と思った。
体験した人にしかわからない感覚だと思うが、ただ困りごとを話し、みんなに色々聞いてもらい、それについて返してもらい、たった20分間のセッションなのに、こんなにもあったかい、うれしい気持ち、肩の荷が下りる感じ、という変化が生まれたのに驚いた。
ただ、誰かに話すのとは構造的に違い、一度に多数の人にしっかり聞いてもらうという部分の差が大きい。
Q. 自分がオープンダイアローグの発信者になろうと思ったのは?
自分がオープンダイアローグを受けたいという気持ちと、自分の双極性障害を予防したいという気持ちがあった。
”クロさんの師匠の「ないものは作ればいい」”という言葉を受け、自分の身近に無いなら自分で作ろうと、クロさんは思い立った。それは自分の為でもあり、困っている身近な人の為になりたいという思いもあった。
「オープンダイアローグに出会ってビビっと来たのでやりたいだけやろうと思った。」と話すクロさん。
双極性障害の酷い時期から1年が過ぎ、復職して1年が経ち落ち着いた時期だった為、丁度良いタイミングで、次のフェーズでやりたいこととして始めたということです。
Q. どんな反響がありましたか?
病気を持っている持っていないにかかわらず参加してもらっているが、すごく良かったという人が沢山いて、時には涙する人もいる。自分の苦労が報われたという人もいるし、ようやくこのことについて話せるというひともいたし、様々だなと。
Q. ファシリテーターの力量に依存する部分もあるのか
ファシリテーターにもよるが、ついつい自分の話をしてしまう人が出てくるとそのセッションが残念な結果になる。
5.オープンダイアローグの本質とは
Q. なぜオープンダイアローグは注目されている?
簡単に言うと「効く」から注目されているのではないか。今までの心理療法や薬物療法と比べても、エビデンスがしっかり出てしまったことにより、精神医学界が震撼している。
今までの医療の中でも「話をしっかり聞く」のは当たり前だが、それができていなかった可能性もあるのでは。
Q. 統合失調症の当事者の治療を超えた可能性が?
まちづくりの分野や組織改革など会社の経営の部分でオープンダイアローグが活用され始めている。
当事者や病気をもっている人だけではなく、様々な分野で注目されている。普通の社会においても、「話をしっかり聞く」という場がなかったのではないか。
Q. 日常場面でのコミュニケーションを考え直すとは?
「対話」という言葉がブームになっているが、日常生活の会話では表面的だったり浅い部分だったりする。しかし、もう少し深く人の悩みを聞くときや、上司が部下を育成する場面などで「じっくり聞く」という姿勢で、専門家の鎧を脱いで一人の人として関わる、そういった対話において大事なことを日常に生かすことによって、様々な人の接し方とか関係性を良くするためのコミュニケーションの取り方に応用できるということで注目されているのではないか。
Q. オープンダイアローグは考え方を理解していれば、様々な実践方法が可能
子育てから人とのコミュニケーションから何でも、聞き方が変わると相手との関係性も変わる、いい感じになる。
新宿フレンズの会(精神疾患の患者の家族会)のような場所でも応用できる。
【窓師の経験】新宿フレンズの会で体験したオープンダイアローグと、別の機会に話を聞いた森川すいめい先生はやり方が全然違った。すいめい先生は「その人の事をしっかり見て、その人の話をしっかり聞いてください。それでいいんです。」と言っていた。それで皆で話し合ったときに、「あぁこういうことなのか」と思い、話を聞いている人たちの姿勢が大事なのだと、窓師は分かったような気がした。
クロさん「その人の発している言葉の背景まで思いを馳せて聞くということができるようになると、その人の奥にある思いや価値観を掴めるようになります。その人の事をより信頼できたりとか、わかろうとすることによって、向こうもすごく話したくなったりだとかという相互作用が生まれることもあるかなと。」
布団ちゃんは「それって他者性につながってくるのでは?」と聞きます。
相手は他者だから、相手の事をすべて知りえることはできない、だから知っていきたいという姿勢につながってくるのではないでしょうか。
Q. ナラティブセラピーとの関係性
誰も責めない会話手法、自分も他人も何物も責めずにその人の物語(ナラティブ)を大事にする「ナラティブセラピー」がまずあって、その流れを汲んでオープンダイアローグが生まれた。
6.リフレクティングとは
リフレクティングとは、オープンダイアローグで使われる技法のひとつです。患者さん本人の前で医療関係者がその感想を話します。
まず、患者さんが普通のカウンセリングと同じように悩みを話します。次に、それに対する反応をスライドの左に例示されているように、五角形になっている医師・カウンセラー・家族などの他の人たちが感想を患者さんの目の前で話し始めることがリフレクティングです。
スライドの左側の五角形は、お互いに話す相手が結ばれています。従来の形の通り、患者さんと医師などで話したりもしますが、医師とカウンセラー、カウンセラーとカウンセラーなどで話したりもします。これがオープンダイアローグの特徴と言えます。
クロさんからの補足です。
対話を続けていてそのまま対話をしてても、埒(らち)が明かないときにリフレクティングを入れたりします。ここまで話されたことについて感じたことをそれぞれが気持ちを話す、
それを参加している人たちに聞いてもらうということをします。
当事者は一旦置いておいて、当事者以外の人たちで当事者の前で話をすることによって、それまで一方的に当事者の人が話をしていたけれども、当事者の語りをどこまで受け取って貰えたのか、どこまで理解してもらえたのかがわからないようなときに、リフレクティングで受け取ったものを返すと、話した側も聞いてもらえて感じがするでしょう。また、話の流れが変わるということもあります。
傾聴との違い→丁寧にその人の話を聞くが、意見は言わない。一方通行。
ピアカウンセリングとの違い→オープンダイアローグでは、治療者や家族など多様な人たちが参加している。
クロさん「カウンセラーも迷いがある。2人入ることにより、カウンセラー同士の意見の違いも取り入れられ、人間的な存在を感じていける。」
オープンダイアローグは対話であり、聞いたことを返すのが特徴です。
多様な人たち(家族、友人、ワーカー、学校関係者)が入って、プラスの考え方をしていく技法といえるでしょう。
7.実践を通じて
クロさんの実践している、ミニ・オープンダイアローグの内容について教えてもらいました。
まず最初の「チェックイン」では、自己紹介などをします。
その後「話し手の語り」が6分あります。ここでは、困っている人が話し手となり、ひたすら話してもらいます。話し手の1人以外の聞き手は、じっくりと聞きます。
次に「質疑応答」を5分取ります。ここでは、話を聞いて気になったことを聞き手が話し手に聞きます。
そしていよいよ「リフレクティング」です。5分間、聞き手が感想を話す。話し手は画面から目をそらし、聞き手の感想を聞きます。
次に、話し手の「感想」が4分あり、全体の感想である「チェックアウト」で終了です。
これを1回あたり3セッション、1時間半で行っているとのことです。
当事者を含めてやると、体力的にも精神的にも苦しいと思われるため「ミニ」という形で行っているとのことです。
クロさんは「病気のあるなしに関係なく、自分の話を日常で6分間も人が耳を傾けてくれることはなかなかない。」と話してくれました。
しかし、何かしらその時その時、話したいことはあるのではないかという気づきのもとに、「それを語ることにより、メンタルヘルスの予防としてのオープンダイアローグの可能性があるのではないか」と考え、オープンダイアローグの実践に取り組んでいるそうです。
【参考文献】
『オープンダイアローグ とは何か?』斎藤環著+訳
『開かれた対話と未来 今この瞬間に他者を思いやる』ヤーコ・セイックラ+トム・アーンキル 斎藤環 監訳
『その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域」を行く』森川すいめい著
『対話のことば オープンダイアローグ に学ぶ問題解消のための対話の心得』伊庭崇 長井雅史著
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