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子ども達にわざわざ「先生」をつけて自己紹介する理由

8月に日本法令から出版させていただいた「幼稚園版スクールカウンセラー 導入・活用・実践ガイド」。スクールカウンセラーを導入したい幼稚園や、また、保育園がすでに地域にある巡回相談の有効な活用法、という視点で書いた本です。

中でも「コラム06」の”雑談力”について「勉強になった」「参考になる」「子どもを見る視点が変わった」などの感想をいただくことが多く、意外に思っています。

このコラムには、成長してからも様々な生活場面で人間関係の潤滑油の役割を果たす「雑談力」について、そのアセスメント(見立て)は、幼児期から可能で、気になる場合、できる働きかけがある、ということを書いているのですが、「日常のちょっとしたやり取りからわかる、その子の特徴とその対応」を知りたい先生や、心理職の方は多いようです。

今回は、子ども達を日頃の場面からアセスメントできる、別のアプローチを紹介をしたいと思います。初めて会った子どもに自己紹介をするとき、敢えて名前の後ろに「先生」をつける関りです。

私が、キンダーカウンセラー(幼稚園版スクールカウンセラー)や巡回相談員として幼稚園や保育園を訪問した時に、初めて会う子ども達は、私が何者かに興味津々です。

「だれー?」
「何しにきたの?」
「誰のお母さん?」

私は「なおこ先生っていうんだよ。今日はみんなが楽しく幼稚園(保育園)で遊んでいるところを見にきたよ。よろしくね」と自己紹介をします。
私がなぜ、自己紹介の時にわざわざ「なおこ”先生”」と「先生」をつけるのかには理由があります。
権威主義だから、でも、子ども達より偉いことを示したいから、でもありません。
「その子が『先生』をどのように認識しているかがわかるから」です。

幼稚園や保育園に通園する多くの子ども達にとって、「先生」というのは

園に行ったら会える人
楽しいことを一緒にしてくれる人
「先生」が言うことを聞いたらいいことがある
誰かの保護者ではなく、実習生のお兄さんお姉さんでもない
ダメなことをしたときには叱られることもある

存在です。
こういった認識が育っている子に「なおこ先生だよ」と言うと、
「せんせー?!いしょにあそぼ!」
「今日、ずっといる?」
「給食、いっしょに食べられる?」
「明日もくる?」
と話しかけてくれたり、
また、やんちゃをしている時に私が近づくと(僕、怒られるの…?)という表情をしたりします。

「先生」は一緒に楽しいことをしてくれる人!

しかし、新入園児で集団生活にまだ慣れていなかったり、周りの大人に関心が育っていない子どもは、まだ「先生」がどういう存在かを認識できていません。
彼らにとって「先生」は、
「お母さんの代わりに、園で自分のお世話をしてくれる大人」であったり、「独占できる大人」
だったりします。
「言うことを聞かないといけない存在」だと思っていないので、全体への指示が入らなかったり、自分勝手な(と周りからは見える)行動をしていたり、先生を独り占めしようとする姿が見られたり、あるいは、ただただ受け身に(「先生」に声をかけてもらって初めて行動する)一日を過ごしている子もいます。

前者の場合は、先生も「気になる子」として気にかけてあげることができますが、後者の場合は「おとなしい」「内気な性格」だと、スルーされていることもしばしばです。

このような「先生」を「先生」と認識できていない子ども達。
単に経験不足が原因であれば、園生活を続ける中で「先生」という存在を意識できるようになっていきます。ですが、発達に凸凹があったり(グレーゾーンも含む)、発達が全体的にゆっくりな子の中には、周りの子どもや大人のふるまいを見て学んだり、真似をして体得するのを苦手とする子どももいますので、「いつか分かるだろう」と見守ることはお勧めできません。そういった子ども達には、関わり方や働きかけ方に一工夫することで、発達を促してあげることができますので、私共のような、乳幼児期を専門とする心理士にご相談下さい。

「その子が『先生』を『先生』として認識しているか」なんて、普段、先生方も親御さんも、あまり意識したことがないのではないでしょうか。
子どもが、人生で初めての集団生活を経験する時期に関われる、キンダーカウンセラーならではの視点、観察ポイントと言えるかもしれません。ご参考まで。


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